2024年05月17日( 金 )

快方に向かう世界経済と市場(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2月6日号の「快方に向かう世界経済と市場~懐疑のなかで強気相場が育っている可能性」を紹介する。

(1)悲観のさなかのポジティブサプライズ

IMFの上方修正

 2023年は悲観のなかで始まった。ウクライナ戦争と米中対立、40年ぶりのインフレと急速な金融引き締めなどの懸念山積により、身構えて迎えた2023年であった。しかし、1月の展開はうれしい驚きとなっている。

 まずIMFが2023年世界経済見通しを上方修正し、リセッションに陥らないと表明した。2023年は2.9%と2022年の3.4%より減速するが、昨年10月時点での予想比0.2%ポイントの上方修正となった。

 修正をけん引したのは2大国、米国と中国の見通しの改善である。中国は厳格なコロナ政策の解除により、経済が正常化するとみられ4.4%から5.2%へと上方修正された。米国はインフレのピークアウトによる金融環境の好転などにより1.0%から1.4%へと修正された。

 深刻であったユーロ圏の成長率も暖冬などによる天然ガス急落にけん引されて物価上昇がピークアウト、政府によるエネルギー価格上昇補てん政策も寄与し0.5%から0.7%へと引き上げられた。円安効果と財政政策の寄与が期待できる日本も、1.6%から1.8%へと修正された。

図表1: IMFの世界経済見通し/図表2: MSCIインデックスの2022・2023年初来株価推移

新興国・欧州主導の1月の株急騰

 世界株式も市場を覆っていた悲観論を覆し、急上昇の発進となった。1月の株価上昇率(2月3日時点)は、世界をカバーしているMSCI指数(各国通貨ベース)でみると、全世界指数で8.2%、欧州先進国指数10.4%、新興国指数8.6%、日本4.8%、米国8.1%と軒並み大幅高となった。昨年20%以上の大きな落ち込みとなった中国、韓国、台湾、ドイツ、オランダなどは1カ月間で10%以上の上昇となり、昨年一年間の落ち込みのほぼ半分を取り戻したかたちとなっている。

警戒を解くのは時期尚早なのか

 この突然訪れた好変化をどこまで信じていいものだろうか、と人々は訝しく思っている。大多数は昨年からの厳しい見方を堅持し、今の回復は冬に向かうなかでの小春日和(インディアンサマー)と警戒心を解いていない。

 確かに金融引き締めが実体経済に本格的に影響するのはこれからである。インフレもピークアウトしたとはいえ、2%の各国のターゲットには程遠く、安心するには尚早である。パウエルFRB議長も年内数回の利上げを示唆し、利下げは依然視野には入っていないとしている。

 また米国景気が底堅く1月失業率は3.4%と53年ぶりの過去最低水準まで低下しており、賃金上昇を通したインフレ圧力が弱まっていないことを示唆している。インフレと利上げは一巡したとはしゃぐのは早すぎる、という警戒心を否定することは難しい。

(2)強気相場が懐疑の中で育っている可能性

 しかし「強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感とともに消えていく」という有名なジョン・テンプルトンの格言にあるように、悲観論と警戒論の蔓延は、大相場の波が始まる前に必ず起きることでもある。

強力な金融引き締め下での潤沢な投資資金はなぜなのか

 懐疑論が見過ごしている要素があるとすれば、それはどのようなものだろうか。第一にグローバルに潤沢な投資資金、流動性の存在がある。米国での一年間で8回、累計4.25%の利上げにもかかわらず、これほどの潤沢な投資資金が健在であることは多くの人々にとってまったくの想定外であった。

 余剰資金は新興国株式や米国の低格付けクレジット市場に流れリスクプレミアムは低下し始めている。何より4.5%まで短期金利が引き上げられたのに、米国10年債利回りは3.5%前後まで低下している。これはCPIや名目経済成長率の半分であり、テーラールールに基づけば依然として緩和的水準にあるといもえる。

 金融引き締めの効果を金余りがしり抜けにさせているともいえるのだ。まさにグリーンスパン元FRB議長が謎(conundrum)といった事態が再現されているかのようである。

 この長期金利の低下を先行きの景気不安の予兆とする見方もあるが、そうであればよりリスクの高い新興国株式やジャンク債の値上がり、さらには米国銀行貸し出し増加や、世界景気との連動性が高い銅市況の上昇などをどう考えたらよいのだろうか。

図表3: 米国長期金利推移 (名目GDPの半分以下水準でピークアウト)/図表4: 米国BBB社債リスクプレミアム/図表5: 米国銀行貸し出し前年差

図表3: 米国長期金利推移 (名目GDPの半分以下水準でピークアウト)/図表4: 米国BBB社債リスクプレミアム/図表5: 米国銀行貸し出し前年差

(つづく)

(後)

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