2024年04月30日( 火 )

今回も世襲が続く福岡市議・県議に思う

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 日本の政界における世襲は、主に国会議員に関して問題となってきた。一方、地方議員については地元代表という側面が強く、世襲が当たり前のように黙認され、政治家というものが家業であるかのような様相を呈している。福岡市においても同様なのだが、これに果たして問題や弊害はないのか、考察してみたい。

3代続く世襲政治家

 31日から統一選の前半戦として、福岡県議会、福岡市議会議員選挙がスタートする。福岡県議会は44選挙区で定数87。福岡市議会は7選挙区で定数62である。

 福岡市議選には既報のとおり(【福岡市議選】前回上回る97人が立候補を予定)、前回2019年の立候補数89人より8人多い97人が立候補を予定している。

選挙 イメージ    昨年、安倍元首相銃撃事件をきっかけに、「安倍三代」という言葉がマスコミをにぎわせた。安倍晋三元首相は、祖父の岸信介氏が元首相。父の安倍晋太郎氏も外務大臣まで務めた政治家という家柄である。同様のことが地方議会にもみられる。

 福岡市に目を向けてみると、今回、10名のベテラン議員が引退する。南原茂議員はそのひとり。7期務めた自民党福岡市議団の重鎮だ。自民党市議団が高島宗一郎市長と激しく対立していたさなかの2018年に、自民党市議団の会長を務めた。父・勇一郎氏も1990年12月から91年5月まで福岡市議会議長を務めている。

 今回の引退にあたり、息子の南原鉄平氏が立候補することを表明した。つまり、祖父・父・息子の親子3代にわたって、議員職を世襲することになるわけである。鉄平氏は、東福岡高校から東京造形大学に進学。同大学を卒業したのち情報科学芸術大学院(IAMAS)に学び、その後は岐阜県大垣市で、弟と2人で食堂兼アートスペースの「南原鉄平食堂」を経営していた。

 鉄平氏のfacebookを見ると、「祖父勇一郎に続き、消防団に入れていただくことにしました」とある。地域のバックアップを受け、同じ博多区選出の井上貴博衆議院議員(自民党)の応援も得ながら活動していくとみられる。今後、岐阜での食堂経営の経験などをどのように生かすのかが注目される。

 現職市議でも、津田信太郎氏(早良区、自民党)、稲員稔夫氏(中央区、同)、鬼塚昌宏氏(博多区、同)、福田衛氏(博多区、同)の各氏が、市議を務めた祖父ないし父をもつ。市議として日々福岡市のために奮闘されている各氏のこと、そのこと自体になにか意見するつもりはないが、ただ、自民党は保守政党ということで、国会議員もそうだが親から子へ地盤を引き継ぐ傾向が強い。世襲議員の指定席のようになるのは、やはりバランスが悪いのではないか。

「地域代表」に、その資質が問われなくてよいのか

 九州最多の人口を誇る福岡市は、全国的にも注目を集める地方都市であり、いわゆる「しがらみ」のようなものは、一般市町村よりも薄いように思われているふしがある。しかし実際は、町内会や自治協議会といった地域共同体は厳然として存在しており、市議は福岡市全体の代表者であるとともに地域代表としての顔ももっている。「誰々議員のお父さんにお世話になった」という話は、さまざまな会合に出かけていくと、そこかしこで耳にする。

 日本社会において、政治は学校教育でもタブー視されて語られないし、家庭や職場でも話題に上ることは少ない。そんななかで、政治家の家に生まれるということは、幼少時から政治を身近に感じ、親の姿を通してこの国や地域のことを考える機会を与えられるという点で、ある意味僥倖ともいえる。

 子は親の背中を見て育つという。一概に世襲が悪いと断じることはできないが、本人の資質や能力に関係なく、父親や近い身内が議員であったというだけでその職務に就くというのはいかがなものか。市民、県民、国民の代表が、ただそれだけであってよいものだろうか。

 県議会においても市議会同様のケースがあった。福岡県議会議員を7期務めた古川忠氏(早良区)が今期限りで引退を表明し、南原氏と同様、息子の悠哉氏が立候補を表明している。選挙直前ではあるが、大事なことなので、あえて言及しておきたいことがある。旧統一教会との関係である。

「しがらみ」を離れ、候補者本人を見極めよう

 古川忠氏は昨年、福岡県議会(桐明和久議長)の調査で、旧統一教会との関係が指摘されている関連団体の福岡県平和大使協議会や日韓トンネル関係の行事への参加費など計7,000円に、政務調査費を充てていたことが明らかとなった。

 地元民放の取材に対し、古川忠氏は「引退表明は、旧統一教会問題とは関係ない」と回答していた。とある会合で一緒になった筆者の問いに対しても、「事実関係を調べず、いろいろ言うのはブラックジャーナリズム」と答えていた。県議会には古川氏以外にも教団の関連行事への参加が指摘される県議がおり、なぜ自分だけなのかという思いもあったのだろう。政治家が政策を実現するためには、何をおいてもまずは当選することが必要である。この観点からすれば、宗教票は非常にありがたい存在だ。

 しかし、旧統一教会が行った霊感商法の被害者は福岡にも多数おり、多くの民事訴訟が行われた。2009年には福岡県警が関連施設を家宅捜索している。古川氏の地元、早良区飯倉にも教団施設がある。安倍元首相がそうであったように、政治家が関係をもつことで、教団側はそれを最大限利用する。旧統一教会と政治の関係を指摘されて、反論があるなら、記者会見を開くなど有権者に対する釈明が必要ではなかったか。そうせずに真っ先にメディアを批判するとは、元毎日新聞記者であり教育問題に熱心に取り組んできた古川氏らしからぬ振る舞いのように感じた。

 今はもう教団との関係はないものと信じたいが、父・忠氏の後を受け継ぐ悠哉氏の動きに注目している。ぜひ、子どもたちの教育に力を入れていただきたい。

 いよいよ明日から選挙戦が始まる。我々有権者は、市民、県民のために誰が仕事をしてくれるのかを見極めていきたいものだ。組織的なしがらみなどではなく、自身で情報を集め、この人はという方に貴重な一票を行使していこうではないか。

【近藤 将勝】

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