世界で大事業に携わってきたプロジェクトマネージャーの哲学(後)
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(株)Cosmo Link
代表取締役 中村 ニック 昇 氏
DEVNET INTERNATIONAL
世界総裁 明川 文保 氏世界で大規模な事業のプロジェクトマネージャー(PM)として活躍している人は、10人もいないといわれる。(株)Cosmo Link代表取締役・中村ニック昇(N. Nick Nakamura)氏は羽田空港や長野冬季オリンピックのプロジェクトに携わり、米国などでPMを務めてきた。なぜこのような大事業を収めることができたのか、PMとしての思想や哲学、どのようなプロジェクトをつくっていくのかについて、中村氏とDEVNET INTERNATIONAL世界総裁・明川文保氏が対談した。
(聞き手:(株)データ・マックス代表取締役会長 児玉直)
(株)Cosmo Link代表取締役・中村ニック昇氏
タイ運河都市計画の展望
中村 DEVENET INTERNATIONALのタイ運河都市開発計画は、難しい仕事ではありません。5年間で完成させるためには、夢にも思わなかった仕組みが必要でしょう。政治、文化、技術、資金面での状況を総合的に組み合わせて、いかに良いプロジェクトをつくるかを考えるのが楽しくて仕方ありません。
──タイ運河は5年で完成させることはできますか。
中村 幅3kmの運河を建設することは、技術的には難しい仕事ではありません。妨げるものがなければ可能です。運河を開通させて利益を確保できれば、運河の周りは自然と都市になるでしょう。
日本の建設業の最も大きな問題は、人手不足です。加えて、スーパーゼネコンは5年先まで受注した仕事でスケジュールが埋まっています。3~4年前に受注したプロジェクトは、当時の物価を基にしてオーナーである元請がコストを決めています。しかし、物価高でコストが上がる一方、コストマネージメントを認めない傾向にあります。今後の受注も見込まれるため、ゼネコンは赤字でも請け負うほかなく、下請や孫請け、サプライヤーにも負担させることが課題になってきました。
──今は下請が強いので、通用しなくなりましたね。
中村 小規模なゼネコンの倒産が増えています。人手不足と、元請がコストを調整しないことが原因です。欧米でも、人手不足は大きな問題です。
明川 農業、建設業、水産業は人手不足です。約32万人の技能実習生は「奴隷制度」といわれるほどに現場に問題があります。メスを入れましたが、その効果は続かずに元に戻ってしまいます。政府の有識者会議は、技能実習生を廃止せよという提案を出しています。
中村 人手不足で東南アジアから人を受け入れている台湾や韓国より、日本の技能実習生のほうが、賃金が安いです。また台湾や韓国では、いじめられたり、賃金未払いがあったりしたときには国が補償します。日本の制度は現状に合っておらず、時代を先取りして提案するのが国の仕事ではないでしょうか。
明川 江戸末期の徳川慶喜の時代のように、日本は海外のことが見えていませんね。
タイのビジネスが持つ可能性
中村 日本のGDPが下がり、タイが日本のGDPを追い越す時代が来ると予想しています。タイ人は賢く、諸外国の力をうまく借りています。
──タイは、主食の米など基本的なものは自国で生産できる国ですね。エネルギーを自国で賄えるようになれば、タイはすごい国になりますね。
明川 タイはいまだに植民地になっていない国で、仏教国で年長者を敬う文化があるのが良い点ですが、ビジネスでの賄賂の習慣をなくす必要があります。
中村 相手を尊重して、「Win-Win」のかたちで進められることが大切ですね。PMの難しさは、宗教や文化、技術の課題があっても敵をつくらずにまとめ上げることです。一方、最初から抵抗勢力がない提案は良いアイデアではありません。皆が合意して理解できるアイデアは普通の案です。しかし、最初から相手に理解があれば、PMの仕事は必要ありません。
明川 そうですね。タイ運河建設計画では、賄賂の習慣をどうなくすのかが課題です。
中村 トップダウンが必要です。日本企業も代表取締役が伝えれば、日本人は団結して実行します。日本のいいところですね。
──タイは派手な経済成長はしていませんが、タイの経済は毎年確実に伸びていますね。
中村 これまで数百億から数千億円規模のプロジェクトを手がけてきましたが、タイ運河都市開発計画を一目見て、これほど経済的に成り立つプロジェクトはないと感じました。複雑な試算を行わなければ可否を判断できないプロジェクトは、進めるべきではありません。
明川 トップダウンであれば、組織で多くの人の賛同を得る手間を掛けなくても、プロジェクトを進めることができます。
中村 大規模なプロジェクトは1年遅れるとリターンが大幅に変わるため、「タイムイズマネー」であることを理解しなければいけません。タイでは早く進めようという感覚がありませんが、この役割を代行するのがPMの務めですね。
常に改革していきたい
──中村氏はこれまでのビジネス人生で、PMとはどのような仕事だと考えてきましたか。
中村 私は米国建築学会フェロー(FAIA)ですが、建築家は総合プロデューサーです。財務やIT、セキュリティ、資金(ファンディング)、法律、文化などを組み合わせて総合的にデザインし、オーナーの需要以上のものをつくり上げるのが建築家です。プロジェクトによって異なるさまざまな需要や環境に対応するのが、PMの仕事です。
──ここに至るまでの人生をいかに総括していますか。
中村 どのプロジェクトにおいても着手するときに不安がないわけではありませんが、何をするにしても改善の余地があると常に考えています。1年前や半年前に考えたことより、もっと良い考えを出そうと取り組んでいます。今までにない改革的なことをしようと常に考えており、現状に満足したことはありません。継続的な改善が大切ですね。
(了)
【文・構成:石井 ゆかり】
<プロフィール>
中村 ニック 昇(なかむら にっく のぼる)
(株)Cosmo Link代表取締役。米国建築学会フェロー(FAIA)。1973~98年まで米国の大手総合建設業のベクテルに勤務。サウジアラビアのジュバイル工業都市、アイオワ州とミシガン州の原子力発電所、東京国際空港(羽田空港)、98 年の長野冬季オリンピックなどのプロジェクトに携わった。98 年に独立し、 2005 年までに汐留シティセンター、東京ミッドタウン、中国の連雲港市マスタープランなどのプロジェクトに携わった。工業団地、データセンター、コンドミニアム、複合施設など、さまざまな国際プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めている。明川 文保(あけがわ ふみやす)
山口県生まれ。DEVNET INTERNATIONAL世界総裁、(一財)DEVNET JAPAN代表理事、東久邇宮国際文化褒賞記念会代表理事。1973年山口県防府市に日本初の冷凍冷蔵庫・普通倉庫を備えた3温度対応の総合流通センター開設。岸信介元首相後援会青年部会長、安倍晋太郎衆議院議員私設特別秘書、九州・山口経済連合会(現・九州経済連合会)の国際交流委員・運輸通信委員・農林水産委員、山口大学経済学部校外講師などを歴任。▼関連記事
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