世界3大映画祭の1つ、フランスのカンヌ国際映画祭で、このたび俳優の役所広司氏がヴィム・ヴェンダース監督作品『PERFECT DAYS』で最優秀男優賞を受賞した。日本人俳優としての同賞受賞は2005年、是枝裕和監督の『誰も知らない』に主演した柳楽優弥氏(当時14歳)が受賞して以来2人目。また、同映画祭では脚本家の坂元裕二氏も是枝監督の最新作『怪物』で脚本賞を受賞した。
ヴィム・ヴェンダースといえばドイツ生まれのロードムービーの巨匠だが、かねてから日本に対するシンパシーを表明しており、代表作『ベルリン・天使の詩』(1987年)でもそのようなシーンが垣間見える。一方の役所広司も世界的な名優だが、ロードムービーとして忘れられない映画がある。
2000年の同じくカンヌ国際映画祭で、国際批評家連盟賞とエキュメニカル審査員賞を受賞した『EUREKA』(ユリイカ)だ。監督は北九州出身で昨年3月に死去した青山真治氏。バスジャック事件に遭遇した兄妹とバス運転手が、事件後に家族が崩壊してゆくなか、他人同士で一緒に暮らし始め再びバスの旅に出る。その旅を通して家族の再生と心の回復を描くロードムービーだ。
同映画が九州人にとって忘れられないのは、諫早出身の役所広司と北九州出身の光石研による心温まる九州弁の掛け合いとともに、モノクロの画面に現れる九州らしい風景と、バスでめぐる景色が心の旅として訴えるからである。
今回のヴィム・ヴェンダース作品『PERFECT DAYS』のあらすじを読むにつけ、また、受賞コメントの役所広司の声を聴くにつけ、筆者のなかでは観る前からすでに『EUREKA』の続編という刷り込みが確立してしまっているが、それもむべなるかなと言うほかない。ちなみに、『EUREKA』を観たときは、そこにヴィム・ヴェンダース作品へのオマージュを見出したのだが。
映画が映画をリスペクトし、そこからさらに映画が生まれることは、映画のみならず多くの表現作品の醍醐味の1つだ。『PERFECT DAYS』の公開が楽しみであるが、公開まで待てない人には『EUREKA』もおすすめしたい。筆者のように先入観ができるかもしれないが、それもまた悪くないと思っている。
【寺村朋輝】