2024年05月08日( 水 )

日本保守党は自公政権に反発する保守層の受け皿になり得るか

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 ベストセラー作家で保守論客としても知られる百田尚樹氏と、ジャーナリストの有本香氏が立ち上げた「日本保守党」が17日結党したが、わずかな期間で党員5万人弱となっている。自公政権に不満を持つ保守系新党の行方を考える。

LGBT法への保守派の批判

 「今の自民党・岸田政権は、LGBT法をはじめ左傾化し、このままでは日本を壊し中国の属国になります。統一教会を解散させるなら、創価学会こそ解散させるべきです」。

 こう強い口調で語るのは、福岡市内の自民党員。安倍晋三元首相を支持していた1人でもある。この党員のように、保守派は、6月に国会で成立した「LGBT理解増進法」(以下、LGBT法)に対して、頑なに、激しく反対してきた。

 そうした保守派に呼応した政治家の主張もあった。たとえばLGBTには生産性がないなどと『新潮45』に書いた杉田水脈衆院議員が、その反対理由として挙げていたのが「(LGBT権利擁護の推進は)共産主義者、コミンテルンなどの策動」であった。同様の主張は、旧統一教会の国際勝共連合や関連媒体の「世界日報」に盛んに登場していた。

 以前、自民党の鬼木誠議員に取材をした際も、LGBT法に対する保守派の反発が話題に上った

 もともと保守派は、靖国神社公式参拝、憲法改正、自衛隊増強、日教組批判などが中心で、性的マイノリティにかかわる問題は、話題の中心にはなっていなかった。

 ところが、この数年、保守派の話題の中心となり、LGBT法の成立にあたって安倍元首相に近かった稲田朋美元防衛大臣や、萩生田光一自民党政調会長など自民党保守派が、いわゆる岩盤保守の猛烈な攻撃に晒された。鬼木氏の懸念も支持層離れを意識した発言である。

 朝日新聞社が14、15日に電話での全国世論調査を行ったが、岸田内閣の支持率は29%と一昨年の内閣発足以来、過去最低となった。自民党関係者や保守派の論者は「岸田政権の増税志向だけでなく、リベラル傾向が強い岸田首相への反発がある」とみる向きが多い。

選挙の実働部隊が課題

 こうしたなか、17日、ベストセラー小説『永遠の0』『海賊とよばれた男』などの著作があり、保守論客としても知られる百田尚樹氏と、ジャーナリストの有本香氏が立ち上げた「日本保守党」が東京都内で結党記者会見と「結党の集い」を開催し、地域政党「減税日本」の代表を務める名古屋市の河村たかし市長も同党共同代表に就任した。この他にも、小坂英二東京都荒川区議会議員も会見に同席している。

 同党は、先月末に党員登録を開始したが、早くも党員数が5万人に迫る勢いになっている。

 日本保守党は「日本の国体、伝統文化を守る」「安全保障」「議員の家業化をやめる」「移民政策の是正-国益を念頭に置いた政策へ」など、9つの重点政策項目を掲げた。LGBTだけでなく、移民政策の批判を強く打ち出している。

 百田氏は、6月のLGBT法成立に際し、自身のYouTube番組において「LGBT法が成立するなら、新党を立ち上げる」と宣言していた。番組のなかで「自民党に怒りを感じる」とも発言し、自民党政治家は利害関係に左右されるため国益が損なわれると強調していた。

 SNSでは大きな反響を巻き起こし、同党の党員が急速に増えたのは同氏の訴えに共鳴する保守派が多いからであるが、現実の党運営、政治となった場合、一抹の不安がある。

 保守系の新党は、古くは新自由クラブ、平成になってからも「日本新党」や「新進党」、最近でいえば、石原慎太郎元東京都知事や平沼赳夫元経済産業大臣などが結成した「次世代の党」などが挙げられる。

 次世代の党は、第2次安倍政権発足後の2014年に、石原・平沼両氏を中心に結党し、当初、所属国会議員は衆院19人、参院3人の22人いた。しかし、国政選挙・地方選挙でも党勢拡大はできず、平沼氏も自民党へ復党するなど紆余曲折あり、2017年2月、党名を「日本のこころ」に変更し、同年10月の衆議院議員選挙で政党要件を失った。最終的に2018年11月、自由民主党へ合流し、解散している。

 次世代の党の例にみられるように、政策や思想だけでは、広範な支持を得られず、政党として成長が厳しいことは間違いない。選挙運動1つとっても、実働部隊のボランティアや選挙活動のノウハウも必要になってくる。

 SNSでは、威勢がよいが、現実の実働となった場合、どこまで党員や支持層が活動するのか、現時点では未知数である。

 1つ参考になる先行事例は参政党であろう。参政党は、まだ国会議員は神谷宗幣参議院議員1人ではあるが、全国に候補者を擁立し、地方議員の数も着実に増加している。福岡県久留米市議会など、党籍は参政党で、自民系会派に所属し活動している地方議員もいる。

 保守系が期待する日本保守党が今後どのような路線を歩むのか、注目してみていきたいが、過去の保守系新党の事例に学んで、速やかな地方組織の育成と地方議員を送り出すことができれば、自民党に不満な保守層の受け皿になる可能性が高まるだろう。

【近藤 将勝】

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