2024年05月01日( 水 )

いま世界で何が起きているのか?(2)

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広嗣 まさし

ウクライナ戦争の背後に蠢くアメリカの覇権主義

 世界のあちこちの紛争にはほとんどいつもアメリカが絡んでいるようだ。このことは、もう少し掘り下げてみる必要があろう。それをしないと、日本という国の置かれている立場も見えてこない。

 この問題については、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマーとコロンビア大学のジェフリー・サックスがかなり説得力ある論を展開している。2人はそれぞれに異なった角度から、アメリカ外交がいかに世界平和を乱しているかを指摘してきた。

 国際政治学のミアシャイマーは、ウクライナ戦争の原因はアメリカにあると明言する。ソ連が崩壊し、アメリカが天下を取った時点で、ロシアはNATOの脅威がロシア隣国にまでおよぶことがないようアメリカに懇願し、アメリカもこれを受け入れた。しかし時が経つと、アメリカは勢力を東欧まで拡大しようとしは始め、その結果、かつてはソ連領だったウクライナまでがNATO加盟国になりたいと願い出るようになったのである。たまりかねたプーチンは、これだけは認められないということで、ついにウクライナ侵攻に踏み切った。

 ミアシャイマーはロシアの侵攻を肯定しているわけではない。しかし、その背後にアメリカの挑発があったことを問題にしている。ウクライナ戦争が始まって少しして、トルコが仲裁役になって停戦の兆しが生まれたのに、これをアメリカが妨害したというのだ。なぜそうなったかといえば、アメリカにとってウクライナ戦争は簡単に終わってはならないものだったからだ。ロシアに打撃がおよぶまでは、少なくとも戦争を続けさせたい。これがアメリカ外交であり、それがいかに世界平和を阻んでいるかを指摘しているのだ。

 ミアシャイマーは世界の動きをできるだけ客観的に見ようとする。そうすると、プーチンのウクライナ侵攻は、ロシア側からすれば当然だったという理解に至るのである。プーチンを支持しているからではなく、ロシアとの約束を破ったアメリカに責任があると見るから、そういう見解に至るのだ。

現実主義と文化的要素で分析する世界情勢

イメージ    一方のサックスは国際経済学者である。世界経済の不均衡を少しでも是正したいと考える彼は、非西欧諸国にとくに注意を払ってきた。その彼にとって、ウクライナ戦争はアメリカの外交戦略、とくにCIAの画策が生み出したものにうつる。

 サックスによれば、当初は中立路線を掲げていたウクライナが、NATO加盟を懇願するようになった原因は、CIAが介入してウクライナに反露政権を樹立させたから、ということになる。ゼレンスキーはCIAの画策の産物であり、この元コメディアンはアメリカに踊らされているというのだ。

 このような裏工作が世界平和を台無しにすることを、彼は強く非難する。ところがそれをいうと、「お前は愛国心が足りない」とか「お前はプーチンの回し者か?」などといわれる。国連の仕事もしていたサックスは、そんなことは百も承知で平気で発言し続ける。アジアやアフリカで多くの支持者を得ている理由がわかる。

 先に挙げたミアシャイマーに話を戻せば、彼の論の基礎にあるのは「世界史は力関係で決まる」という現実主義である。強国とは武力と経済力を持つ国のことであり、ある国が強国になると、必然的に周辺諸国を支配下に置きたがるものであり、これは歴史の必然だというのだ。なるほど世界史を眺めれば、そのようなかたちで歴史が動いてきたことはたしかだ。日本史にも、それは当てはまる。

 一方のサックスは、世界史を力関係だけでなく、文化的な要素をも加えて理解しようとする。近代世界史の動きは、キリスト教的ヴィジョンの横暴によるものと見るのだ。彼によれば、世界にはさまざまな文化的伝統があり、それが人々を支えてきた。ところが、近代文明を誇る西欧諸国は、キリスト教的ヴィジョンに基づいて自らの価値観を世界中に広めようとし、他の文化を破壊し、「自由」と「正義」の名の下に世界制覇を試みてきたというのだ。

 ミアシャイマーにしてもそうだが、サックスのような自国の政治の根幹にメスを入れる学者がアメリカから輩出されているのは皮肉なことだ。あるいは、そこにこそアメリカの底力があるのだろう。政府にとって不利な発言をする学者を学術会議から排除しようとする日本のような国は、その点で大変寂しい。

 世界的な言語学者チョムスキーにしてもそうだが、CIAが排除してしまえばアメリカの評価が下がってしまうのでそれもできないような超一流の学者を何人かアメリカはもっている。そういう彼らの言葉を、全世界は注意深く聴きとらねばならないだろう。

 では、そういう彼らはイスラエル問題についてはどういう発言をしているのだろう。これについては、イギリスの大学に勤めるパペやキーラーらの発言も併せて、次節で紹介することにしたい。

(つづく)

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