2024年07月22日( 月 )

【クローズアップ】人気回復なるか 団地再生に向けた取り組みの今

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 高度経済成長期に全国各地で開発され、当時は庶民のあこがれ、人気の住まいだった「団地」。しかし、現在では住民の高齢化や入居者の減少、それによる地域活力の減衰といった問題を抱えているものも多い。そこで、管理を担う住宅供給公社などが、民間事業者らと協業し再生を目指す取り組みが行われている。

グッデイとのタッグでプロジェクトを展開

名島団地の様子
名島団地の様子

    国土交通省によると団地は全国に約3,000カ所あるとされる。一般的には集合住宅団地が連想されるが、ほかに戸建団地もあり、まず前者について述べていく。福岡市東区、西鉄貝塚線の名島駅から徒歩10分程度の場所にある「名島団地」。今から約50年前、高度経済成長期に建てられた5階建の12棟、全330戸からなる集合住宅団地だ。エレベータの設置がないことから、とくに上層階の入居者確保に苦戦し、現在は入居率が7割程度にとどまっている。入居活性化に向けた対処策を施さなければ、今後、入居率がさらに低下することが予測される団地である。

 その住戸の1つが今、「ショールーム」として公開されている。福岡県住宅供給公社(福岡市中央区)とホームセンター事業を展開する(株)グッデイ(福岡市博多区)がタッグを組み、DIY(Do It Yourself)によるリノベーションを施したものだ。「グッデイ団地プロジェクト」の第1弾として、グッデイの社員らが4カ月をかけて2DKの住戸を改装した。

機能的に整えられたキッチンダイニング
寝室の様子

    外回りはよくある団地だが、住戸内に一歩足を踏み入れると、「和モダン」デザインをベースとした洗練された住空間が広がっている。たとえばキッチンダイニングは、台所仕事に必要な家電製品やモノがコンパクト、かつ機能的に配置されている。居間の押し入れはフスマが取り払われ、内部を作業机と収納スペースとして活用できるようになっており、寝室は暗色の壁紙を貼り、間接照明を取り入れるなど、質の良い睡眠を誘う籠もり感のあるベッドルームに模様替えされていた。

 壁紙やカーテン、家具などのインテリア、家電製品、観葉植物などの小物などのすべては自社のホームセンターで販売しているもので、トータル費用は総額約100万円。資材価格や人件費の上昇により、専門業者が工事を行うと非常に高額になるケースがあるが、入居者自らDIYを行えばこの金額が可能というわけだ。商品には値札を付け、部分的にDIYを行う際の金額もイメージしやすくしている。「ホームセンターの商品でここまでできるのか」という驚きを与える空間提案は、ショールーム来場者に、この団地での居住を誘導する力をもっていそうに感じられた。

渡りに船だった公社との協業

施工前のリビング
施工前のリビング
現在のリビング
現在のリビング

    名島団地を管理する福岡県住宅供給公社は10年ほど前から、同団地などにおいて一定のルールを守ることで、退去時における原状回復義務が免除される「DIY賃貸」を導入していた。しかし、認知度は高まらず、導入件数も伸び悩んでいた。そこで、状況の改善を目的にグッデイへ協力を求めた。ショールーム公開以降、「とくに若い世代を中心にじわじわと内覧の数が増えている。入居率の改善はもちろん、入居後の定着率が向上することにも期待している」(吉田淳・同公社賃貸事業部募集係長)という。

 グッデイにとっては、この協業は渡りに船であったようだ。同社の親会社・嘉穂無線ホールディングス(株)の島村菜見子マーケティング部広報・宣伝課長は、「団地の住戸という実物件でのDIY提案は、ホームセンター内での提案事例に比べて、消費者により強い訴求力がある。また、当社の提案力をブラッシュアップする機会にもなる。団地はもちろん、周辺の住民の店舗への来店の増加や、商品購入につながることも期待している」と話す。ホームセンター業界は近年、ECサイトなどとの競合が激しくなっている。リアル店舗を展開する同社にとって、「団地再生へのチャレンジは生き残りの手立てを探るものになる」(同)とも話していた。

 とはいえ、DIYはそれを実践するのには、専門的な技術や知識が必要であり、経験のない一般的な入居者には高いハードルがある。そこで、福岡県住宅供給公社とグッデイでは団地での取り組みをSNSなどで発信するほか、団地内で道工具の使い方や商品の選び方など、リノベーションの基礎知識を伝える実践ワークショップを定期的に開催することにしている。このほか「置くだけリノベ」という、より簡易的なDIY事例を施すショールームの新設や、近隣の店舗と連動したサービス展開など、より積極的なサポートを行い協業の効果を高めることにしている。

入居者、地域を巻き込む重層的な取り組みも

やまわけキッチン
やまわけキッチン

    実は、福岡県住宅供給公社とグッデイの協業による団地再生の取り組みのヒントとなった事例が大阪府にある。大阪府住宅供給公社(大阪市中央区)が管理する茶山台団地(大阪府堺市)における取り組みだ。泉北ニュータウン内にあり、約30棟、約1,000戸からなる。ここでは、DIY賃貸に関連する仕掛けのほか、隣接する2つの住戸を1戸につなげ、広々と住めるリノベーション物件「ニコイチ」、空き住戸を利用した食堂「やまわけキッチン」の開設、使われていなかった集会場を図書館として住民交流に役立てるなど、重層的な施策を展開し、団地再生に効果を上げているのだ。

 このうち、DIY賃貸については、これも空き住戸を利用した「DIYの家」と呼ばれる、地元でDIYショップを営む専門家らが運営する工房が設けられている。団地の住民はもちろん、地域の住民も利用でき、道具の貸し出しや壁紙などの素材の販売、見栄え良いDIYを可能にするための助言を受けることもできることから、地域においておなじみの場所となっている。また、食堂や図書館は子どもからお年寄りまで幅広い年齢層の人たちが集うことから、「見守り」の機能もはたしている。それらを成り立たせているのは、住民や地域の人々、NPO法人らだ。

DIYの作業スペースも設けられた「DIYの家」
DIYの作業スペースも設けられた「DIYの家」

    茶山台団地でこのような団地再生の取り組みが本格化したのは約10年前のこと。当時は入居者の半数以上が65歳以上で、近隣のスーパーが撤退するなどし、住民生活の利便性が損なわれていた時期だった。ただ、上記のような取り組みを、コロナ禍の時期にも持続的に行ってきた結果、子育て世帯を中心とした入居者が増え、2017年度に83%だった入居率は今では93%にまで回復。団地や地域の活力復活にもつながっている。

再生へ動く開発事業者

 戸建団地にも集合団地と同様の問題を抱えているものがある。「上郷ネオポリス」(横浜市栄区)は、大和ハウス工業(株)(大阪市北区)が1970年に開発を始めたもので、総区画数は約850区画、人口約5,000人(周辺地域も含む)。何よりの特徴が約49%という高齢者率の高さ(2020年現在)だ。それにより、ネオポリス内にあった商店の閉店により買い物の利便性が著しく低下したほか、同時進行した少子化により小学校が廃校になるなど、まちとしての機能が低下していた。

 大和ハウス工業は14年から開始した住民との意見交換を開始。以降、「まちづくり協定」の締結、大学(東京大学、明治大学)や高齢者住宅協会も加わった「まちづくり協議会」の発足などを通じて、この団地の再生に取り組んでいる。それを象徴するのがコンビニを併設した集会所を設けたこと。さらに、お年寄りの移動をサポートする近距離モビリティの実証や、離れて暮らす家族・知人とのテレビ電話を用いた生活支援の実証など、産官学民と連携して積極的に行っている。

コンビニを併設した集会所
コンビニを併設した集会所

    団地を開発した事業者自らが、その再生に乗り出す──。超高齢化、少子化社会はそんな団地再生の動きをも促しているのだ。なお、このほか近年は、(独)都市再生機構(UR)が「無印良品」ブランドを展開する(株)良品計画(東京都文京区)と組んで再生に乗り出すなど、団地開発事業者が民間事業者や大学などと連携し、この問題の解決に乗り出す事例も見られるようになっている。

空き家問題の解決への試金石

 このように書くと団地再生の動きが大きく広がっているように見えるが、実はまだ限定的なものにとどまっている。というのも、団地再生にはそれぞれの団地が有する事情が大きく関係し、成功事例の水平展開が難しいからだ。たとえば、成功事例とされる堺市の茶山台団地は、大阪市の中心部へのアクセスの良さ(徒歩圏内に泉北高速鉄道線の和泉中央駅がある)など入居者獲得におけるポテンシャルの高さがあり、だからこそ大阪府住宅供給公社はそこを団地再生のモデル団地としいち早く再生に取り組んだ。しかし、そうではない団地ではいまだ試行錯誤の状態で目に見えた成果を上げられずにいる。そうした事情は名島団地の再生に取り組む福岡県住宅供給公社についても同様のことがいえる。

 ところで、そもそも団地には保育施設や学校などが近くに整備されるなど、生活基盤がすでに整っているものがほとんどで、子育て世帯にとっては大変良い住環境が整っている。名島団地の場合、家賃は3万円台からと、周囲の民間賃貸住宅と比べれば格安といっていい。もちろん老朽化をはじめとする問題も多いが、このまま未活用にしておくのは何とももったいない。これは戸建団地においても同じだ。その活用を促すために、各自治体の住宅公社のみならず、民間企業のノウハウや柔軟な発想が生かされるようになったのは、少なくとも前向きな動きではある。

 一方で、大きな課題となるのが、民間企業が団地再生に取り組む際の収益化スキームの構築である。それが可能になればより多くの民間事業者の参入が期待できるようになるし、今後より深刻化するとみられる空き家問題の対応策にも役立てられ、社会的貢献度が増すものと期待されるからだ。

【田中 直輝】

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