日本の森林は貴重な戦略資源(後)
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福岡県森林組合連合会
会長 横田進太 氏カーボンニュートラルやSDGsなどを背景に、我が国において林業の活性化や木材活用が前向きに議論され、実際にそれに即した法制度の整備や官民の動きが見られるようになってきた。では、それは具体的にどのようなものなのか。今回は、福岡県の状況のほか、全国の動向にも詳しい福岡県森林組合連合会の横田進太会長に、これまでの経緯や今後へ向けた提言について話を聞いた。
民間でも木造・木質化
──福岡県は地域によって、林業への関わりが異なります。
横田 うきは市や八女市などでは古くから林産業が盛んな大分県日田市や、家具製造が盛んな大川市との関係が強く、林業や木材活用への理解がある地域といったイメージですね。
木材消費地である北九州市は、鉄鋼業など石炭を大量消費する工業地帯として発展してきたことから、地域の木材への需要が少なく、その山林は自然林が多いのが特徴で、林産業事業者も少ないのが実状です。最大の消費地である福岡市において、木材活用の動きが出始めたことは、他の自治体への波及効果が期待されるため、良い傾向といえそうです。
──民間の事業者においても、木材活用を促進する動きが広がりつつあります。
横田 たとえば、大手コンビニエンスストアチェーンでは、8月下旬に福岡市早良区百道で木造店舗をオープンする動きもあります。福岡市産木材を用いて建設するもので、私どももオープンセレモニーに招待されています。このほか、大手ゼネコンの5階建の社員寮が、CLT(Cross Laminated Timber)により竣工するなどといった事例も見られるようになってきました。今後、一般流通木材を活用した規格化が実現されれば、より多くの建築物が民間によって建設され、それにともない国産材や地域材の活用の広がり、さらなるコストダウンも期待されるのではないでしょうか。
もちろん、木造・木質建築物の普及には課題もあり、とくに設計者の理解が進んでいないことがその1つとして挙げられますので、私たちはさまざまな関係者と協力し普及を促進したいと考えています。このほか、カーボンクレジット(実際の排出量が下回った場合、その差分をクレジットとして認証する制度)市場が整備され、CO2削減効果がより評価されるようになれば、木造・木質建築物の普及は一層進むものと期待しております。いずれにせよ、自治体や企業のトップは、建築物の木造・木質化、それによるカーボンニュートラルへの貢献を重視する方向へと次第に舵を切っているように思われます。
一般の理解広がるか
──市民の理解については、いかがでしょうか。
横田 実はそこが最も難しいところでもあります。福岡市内のある森林を大規模に伐採したところ、「どうして木を伐ってしまったのか」と一般市民の方から、森林組合や市役所に問い合わせなどがあったそうです。
森林を伐採した後、再造林をして適正に管理をすることをお伝えし、納得していただけましたが、このことは森林の機能が適正な管理の下に成り立っているということを一般の方々に広く理解していただく必要があると感じました。
山のなかに入る、あるいは木に触れられる機会をより多く提供するなど、幅広い方々に対しての教育、啓発活動にさらに積極的に取り組むことも、私たちの課題であると認識しております。森林環境税の導入を皮切りに、林業再生と木材活用推進への国民的理解が広がればと考えています。
──ほかに課題として、どのようなことがありますか。
横田 今後、住宅市場の大幅な縮小が確実視されることが第一です。1973年度には年間に190万戸、バブル期には160万戸台を記録していた新築住宅供給が、23年度には80万戸ちょうどに減少し、40年代には50万戸台になるといった予測もあります。木材の主要な売り先は住宅向けですから、それに代わるものとして、先ほど述べたような商業施設などの非住宅分野での活用を拡大することが求められます。また、森林や木材は、我が国にとって数少ない、国内で自給自足が可能な「戦略資源」ですが、これまで積極的な活用がされてきませんでした。一方で、木材は今、グローバルな市場のなかで取引されており、低価格な日本の木材を海外に輸出するケースも増えるなど、注目度が高まっています。
たとえば、当連合会では浮羽事業所で原木市場を運営していますが、数年前に中国人のブローカーが「市場にあるすべての原木を購入したい」と、取引を迫ってきたという出来事もありました。中国では近年、環境問題から国内の木を伐採できなくなっています。その一方で住宅向けや梱包材、土葬が禁止されたことから、棺桶の素材として木材の需要が高まっているといいます。結果的にこの話はお断りしましたが、これは国内の需要者とのこれまでの関係を重視するため、県内の木材を外国から買い占められる前例をつくりたくなかったからです。
福岡県内ではあまり聞かれませんが、近年は日本の山林を外国人や日本に拠点を置く外国企業が購入する事例が、北海道などで増えています。水源の確保が主な狙いのようですが、これは安全保障上の点でも好ましくありません。福岡県民の皆さまには、林業再生や木材活用の促進は、そうした観点においても重要であることを認識していただければと感じています。
(了)
【田中直輝】
<INFORMATION>
会 長:横田進太
所在地:福岡市中央区天神3-10-25
フォレストドルフ天神3階
設 立:1941年6月
出資金:1億1,526万1,000円
TEL:092-712-2171
URL:http://www.fukuoka-moriren.org/
<プロフィール>
横田進太 (よこた・しんた)
1944年生。国士館大卒。79年5月から福岡市議会議員。83年5月から福岡県議会議員。95年5月から96年5月まで県議会議長を務める。2012年5月から福岡県森林組合連合会の7代目会長に就任。15年3月に旭日小綬章受章月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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