木造・木質化普及へ、技術者育成が急務(後)
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(株)環・設計工房 会長 鮎川透 氏
S造やRC造に加えて、木造・木質化建築物が公共施設のほか商業ビルなど民間の施設にも徐々に広がりつつある。では、本格的な普及を目指すうえで、どのような課題をクリアしなければならないのだろうか。今回は、福岡県や九州において早くから木造・木質化建築物の設計に携わり、国内や県内の状況にも詳しい、(株)環・設計工房の会長で、(公社)福岡県建築士会の会長である鮎川透氏に話を聞いた。
コストや調達など山積する課題
──木造・木質化において、とくに課題となっていることは何であるとお考えですか。
鮎川 建築物の木造・木質化が普及するためには、調達、加工、そして設計できる技術者の存在が重要になります。調達の問題をクリアするために、福岡県では川上(林業)・川中(木材加工・流通業)・川下(設計者や施工技術者、建築主、エンドユーザーなど)の情報交流と連携を図るため、福岡県の支援により県の建築士会、森林組合連合会、木材組合連合会などが集まる福岡県木材活用促進協議会ができ、そのなかで意思疎通を図っています。福岡県は住宅用の製材をつくる加工場が多く、しかもそれを住宅産業が支えてきたわけですが、住宅産業が縮小局面にあるなか、製材を使った中大規模建築物にシフトすることが求められており、九経連などにおいて住宅用製材でビルを建てる「モクビルプロジェクト」を展開するなどといった動きもあります。
しかし、大規模・高層を実現したいケースにおいては、住宅用製材だけでは対応が難しいケースも出てきますから、エンジニアリングウッドの使用を視野に入れなければならない、ということも福岡においては課題となっています。当社では、久山町において「けやきの森幼稚園」(18年開園)を設計したのですが、これは町有林からスギとヒノキを調達することで調整が行われました。しかし、大空間が必要な遊戯室を実現するためにはエンジニアリングウッドを使用せざるを得ませんでした。そのため、町産材を加工場がある県外に送って、集成材を製造し、久山町に戻すという検討をしました。ウッドマイレージ(※2)の視点からすると、これは好ましいことではありませんが、致し方ないことでした。
※2:木材の量、木材の産地と消費地までの輸送距離を掛け合わせた指標。指標が高くなるほど環境負荷が高い。
依頼主などへのメリット訴求も大切
──そのような話は至るところで耳にします。
鮎川 実は、福岡県産材によるCLTの供給を実現しようという計画があるようですが、CLTのハブ工場を県内につくるのだと思っていたら、それは県産材を九州の県の木材加工事業者に運んで製造し、戻すのだそうです。輸送コストなどの問題もあり、そこを支援して実現しようということでしょう。このほかにも似たような経験をしています。熊本県内の温泉施設ではかつて、木造建築物(明治期に建設)を復元するというプロジェクトに携わったこともあります。市有林から木材を調達するスキームが組まれたのですが、地元の製材事業者との十分な意思疎通と協力関係を構築できなかったために、木材調達ができなくなるという事態に遭遇しました。結果、ほとんどの木材を市場から調達することになりました。つまり、地域材の調達にあたっては、地元の関係者のなかにさまざまな思惑や利害関係があり、事業が円滑に進まないケースもあるのです。
クライアントやユーザーに、しっかりと受け入れられるようにすることも重要です。建築はアートではないのですから、機能性や快適性など居心地の良さを含めた総合的な魅力づくりが大切です。SDGsなどの重要性は認知されつつあり、それは建築物の木造・木質化に追い風になっていますが、木材に対する親しみやすさや、木材を多用することで建物が軽くなり、それにより基礎工事費用が低減できることなどを、広く知っていただく努力が必要でしょう。福岡県ではまだその段階には至っていませんが、グローバル企業が地球環境保全への貢献度が問われるようになった昨今、関東ではそれが少しずつ浸透しているため、今、木造ビルが建ち始めているのです。
未来を担う人材を育成
──福岡県建築士会の会長としての立場で、木造・木質化でとくに課題となっていることは何でしょうか。
鮎川 人材、とくに技術者の育成が急務です。私たちが建築を学んだ時代は、大学に木造建築について学べる環境がなく、木造建築物の設計に触れる、慣れる機会がありませんでした。今も、大学で木造を教えている先生は各大学に1人か2人かといった状況です。そこで、福岡県建築士会では木造の設計・施工を学べる「中大規模木造建築技術者講座」(福岡県農林水産部林業振興課委託事業)を3年前に立ち上げました。毎年30~50人ほどの建築士が3年かけて、設計のための知識やスキルを学ぶ内容です。ただ、1年目を経過した段階で脱落する人も出ており、内容を修正する必要にも迫られています。とくに若い建築士の多くは日常の業務を数多く抱えていますから、勉強を継続するのは難しいのでしょう。
いずれにせよ、有望な建築士も育ちつつありますから、今後も木造建築物を面白いと関心を持つ未来を担う人たち、そして社会に私たちの経験をさらに還元できるよう取り組みを進めています。11月15日に「中・大規模木造建築物普及シンポジウム」が開催されますから、設計関連の関係者のみならず、川上・川中・川下のさまざまな皆さんにぜひ、参加していただければと考えています。
(了)
【田中直輝】
中・大規模木造建築物普及シンポジウム
<日時>
11月15日(金) 午後1時半~4時半
<場所>
TKPガーデンシティ PREMIUM 天神スカイホール メインホールA
(福岡市中央区天神1-4-1西日本新聞会館 16階)
<主催>
(一社)日本建築構造技術者協会(JSCA)九州支部<COMPANY INFORMATION>
代 表:杉本泰志
所在地:福岡市南区大橋2-2-1
設 立:1980年4月
資本金:1,000万円
TEL:092-561-6160
URL:https://www.kanarc.jp/
<プロフィール>
鮎川透(あゆかわ・とおる)
1951年福岡県生まれ。九州芸術工科大学芸術工学部、同芸術工学専攻科を経て、75年に第一工房入社。80年に(株)環(かん)・設計工房を設立し、独立。2017年に会長に就任した。(公社)福岡県建築士会会長。(一社)日本建築家協会九州支部役員、九州大学芸術工学部非常勤講師、福岡大学工学部非常勤講師を務めた。元九州大学産学連携センター客員教授(デザイン部門)。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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