NetIB-NEWSでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は北陸新幹線の大阪延伸問題について言及したうえで「政治の劣化があまりにも深刻である」と指摘する5月14日付の記事を紹介する。
北陸新幹線の大阪延伸問題の紛糾はこの国の劣化を象徴する事案。日本全体にとって何が最善であるかを考えて結論を導くべきだ。ところが、それぞれの主体が〈自己の利益〉を基軸に主張を展開している。愚の骨頂だ。
わが町に新幹線を呼び込みたい。この発想自体が時代遅れの昭和の発想だ。わが町がどうなるではなく、日本全体にとって何が最善かを考えるべきだろう。
急激な勢いで少子高齢化が進む。住宅でさえ過剰になる時代。日本経済の衰退は目を覆うばかり。ほとんどの国民が老後の生活が成り立つのかどうかを不安に感じている。財政危機が叫ばれるが、社会保障支出を切り刻めとの号令が発出されるほど日本の財政事情が悪化している。財政事情が悪化している局面での財政対応においては「不要不急の財政支出を抑制する」が基軸に置かれねばならない。
敦賀まで建設された北陸新幹線。バイパスとしての機能を確保するには早期の延伸実現が必要。建設費と工期を考慮すれば米原ルート、あるいは湖西線ルートに勝る方策はない。米原-新大阪間は現在の東海道新幹線を活用することになるが、バイパス機能を重視するなら、のちに米原-新大阪間にバイパスを建設することを検討してもよいだろう。東海道新幹線とのダイヤ調整が必要になるなら、米原-新大阪間を複々線化することを検討するべきだ。
ここに浮上するのがJR西とJR東海の利害調整。しかし、企業の利害が前面に出て、国民の利益が軽んじられること自体がおかしい。民営化は国民の利益を増大させるために実施されたものであって、分割民営化されたJR各社の企業エゴを放置することが是認されることがおかしい。国家の見地、国民の見地から判断されるべきものだ。
小浜ルートを採用すれば工期と工費がけた違いに大きくなる。これに巨額の資本を投下することが妥当な時代でなくなっている。可能な限り安価で、可能な限り早期に開通させることが望ましい。滋賀県は米原ルートに反対しているが、その理由は滋賀県にとってメリットが小さくデメリットが大きいということ。
新幹線新駅はせいぜい一つしか新設されないのに費用負担を負うことになる。さらに並行在来線の費用負担が大きくのしかかる。要するにこれも〈自己の利益〉が判断の基準なのだ。
問題点があるなら、その問題点を克服すればよいだけのこと。京都府は京都市で猛烈な反対運動が生じているが、北部では新幹線を求める声が強く、府としての方針を示せずにいる。しかし、小浜ルートは敦賀-小浜間で大きな問題が生じないが、小浜-京都間が大難工事になる。残土の問題も生じる。さらに京都市内の地下を掘削すれば地上の水に重大な問題が発生する恐れが懸念される。
誰がどう考えても、米原ルートか、湖西線=京都ルートしか現実的な選択がない。この問題をこじらせているのが西田昌司参議院議員。憲法記念日に沖縄でひめゆりの塔展示に関連して暴言を吐いて謝罪・撤回に追い込まれた人物。強引に小浜ルートを強行しようとしている。
※続きは5月14日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「リニアと北陸新幹線の考え方」で。
▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』
【6/20】植草一秀プレミアム・セミナー開催
6月に新刊『財務省と日本銀行』を上梓する植草一秀氏を講師に迎えて、日本の財政政策の実態を読み解き、経営者が今後の経済環境にどう向き合うべきかを考えるセミナーを開催します。植草氏と直接意見交換ができる貴重な機会です。ぜひご参加ください。
<INFORMATION>
日 時:2025年6月20日(金)午後3時~6時
場 所:福岡市民ホール(小ホール)
プログラム詳細
講演『財務省の正体とビジネス防衛論』 午後3時~4時半
質疑応答 午後4時半~5時15分
交流会(軽飲食付き) 午後5時15分~6時
講 師: 植草一秀氏(政治経済学者)
参加費:1万円(飲食、書籍、資料代含む)
主 催:(株)データ・マックス
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。