福島自然環境研究室 千葉茂樹
福島県在住で自然環境問題を中心に情報発信をしている千葉茂樹氏から、磐梯山の春をレポートする記事が届いたので紹介する。
5月29日、磐梯連峰の赤埴山(1,430m)に登ってきました。赤埴林道を終点近く(約1,300m)まで車で登り、そこから登るので風景を楽しみながら歩いても、山頂まで約1時間20分です。
休まずに登れば約30~50分といったところです。私も若い頃は30分で登れましたが、老体では倍近くかかります。
途中、登山道から上がった所にある鏡沼に立ち寄りました。ここには、1888年の噴火の際にできた噴石落下孔がありますが、雪解け水のなかでした。
満々とたたえられた水面の下には「サンショウウオ」の卵の塊が多数ありました。サンショウウオは肉食性で、これから産卵されるモリアオガエルの幼生を食べます。このため、モリアオガエルより早く産卵し、あとから生まれるモリアオガエルのオタマジャクシを待ちます。
その先の登山道は、地竹(根曲がり竹)のなかを歩きます。ここの地竹は新芽がまだ出ていません。
クマは地竹の新芽を食べに来ますし、ヒトも新芽を採りに来ます。だから、春先にはクマとヒトとの闘いがおきます。山のなかでは、大抵はクマに軍配が上がります。山菜採りでは常に周囲に気を配らなければなりません。
多分、山開きのころは、地竹の新芽が出るころです。なお、今年は残雪が多く、山開きが遅れています。
例年は、5月の最終日曜日が山開きです。赤埴山の山頂に行きますと、北側に磐梯山や櫛ケ峰、南に猪苗代湖が見えます。
猪苗代湖は別名「天鏡湖」と呼ばれます。写真のように、まさに天を映す鏡のようです。猪苗代平野の田んぼも、田植えの時期で水が入れられ、湖が拡大したように見えます。
一昨年に公表された会津テラス計画では、この付近に幅約250m・三階建てのレストハウスが建設されるとのことです。ただし、写真の木の枝にみられるように、冬季にはとんでもない強風が吹き荒れます。
レストハウスと麓を巨大なゴンドラリフトで結び、オールシーズンで観光客を運ぶとのことですが、冬のことを考えると無理に思えます。
赤埴山山頂部には、山桜やこぶしの花が咲き、チョウが飛び、ウグイスなど小鳥が鳴いていました。
最後に、このように比較的容易に登れる山ですが、油断すると遭難します。写真のように、残雪の残った赤埴林道では落石が頻繁に起きています。
気を抜いて歩くと、崩落した岩の直撃を受けます。こぶし大の岩でも、その衝撃力は大きく、大けがや死亡の可能性があります。登山の際は、常に緊張感をもって歩くことが必要です。
最近、磐梯山の登山者を見ると、観光気分の方が多くなりました。山は常に危険と隣り合わせということを忘れてはなりません。
参考資料
『磐梯火山 1888年噴火の噴石落下孔』千葉茂樹、2009(PDF)
<プロフィール>
千葉茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。