過疎地の給水問題解決へ「分散型水循環システム」

ゼオライト(株)

「水道カルテ」公表 水道耐震化進まず

代表取締役社長・嶋村謙志氏
代表取締役社長・嶋村謙志氏

    国土交通省では2024年12月、全国の水道事業者(自治体や水道企業団等)の事業者ごとの耐震化や経営状況をまとめた「水道カルテ」を作成・公表した。

 同カルテによると、九州エリア(沖縄県除く)の196事業者のうち、国土強靱化基本計画などで掲げる28年度末までの水道の基幹管路の耐震適合率60%以上という目標数値を達成できている事業者は、わずか27事業者。残り169事業者のうち20事業者は10%にも達しておらず、水道インフラの耐震化が遅々として進んでいない状況が明らかとなった。

 24年1月に発生した能登半島地震では、耐震化未実施であった水道の基幹施設等で被害が生じたことで、広範囲かつ長期の断水が発生。改めて水道管などの耐震化の遅れと重要性が認識された。一方で、人口減少などにともなう料金収入の減少や水道管などの老朽化にともなう更新コストの増加により、今後は全国各自治体における水道事業の経営状況は厳しくなっていくことが見込まれている。

 「全国的に水道インフラの老朽化が進むなか、利用者の多い都市部においては優先的に基幹管路の耐震化などの更新が進んでいくと思いますが、中山間地などの地方の過疎地域においてはそうした更新は期待できず、将来的に水供給問題が発生する懸念があります。ですが、当社の技術を用いれば、そうした地域ごとに独立した水供給システムを構築することで、問題を解決することができます」──と語るのは、水処理プラント事業やメンテナンス事業などを全国で手がける、ゼオライト(株)の代表取締役社長・嶋村謙志氏だ。

生活排水の再利用と井水浄化利用を併用

 同社は、主に逆浸透膜(RO膜)や精密ろ過膜(MF膜)処理を中心とした水処理プラントのほか、水処理機器の保守管理、ROボトルドウォーターの製造および宅配などを手がけており、高純度で安全な水をつくることができるRO膜を利用した専用水道事業においては、国内随一の実績を誇っている。

井水浄水システム
井水浄水システム

    同社がとくに得意とするのは、地下水を高度な処理で安全な水へと浄水して供給する「井水浄化システム」で、これは深層地下水を利用することで、水道代のコストダウンのほか、公共水道との併用による水の2元化、緊急災害時の補給などに寄与するもの。日本全国の大型商業施設やホテル、病院などに多数の納入実績がある。

排水再利用システム
排水再利用システム

    また同社は、建築物内の排水を再利用する「排水再利用システム」にも強みをもっており、こちらは汚濁負荷が低く、水量が安定して豊富にある排水を活用することで水のリサイクルを実現するもの。こちらも商業施設やホテル、工場などのほか、温浴施設などにも多数の納入実績がある。同社では現在、これら井水浄化システムと排水再利用システムの2つを併用する「分散型水循環システム」により、過疎地域における水供給問題の解決に乗り出しているところだ。

 「実は一口に『下水』といっても、生活排水などの汚染度の低いものと、いわゆる『汚水』と呼ばれるトイレ利用後の水と、2つに大別され、それぞれの排出先の経路は分かれています。前者の生活排水であれば、当社の排水再利用システムを用いることで、飲用以外のさまざまな用途に使える『中水』としての再利用が可能で、貴重な水資源を循環させることで、飲用となる『上水』としての水源は従来の約5分の1まで減らせます。その水源にしても、当社の井水浄化システムによって地下水を利用すれば、外部からの供給の必要はありませんし、地下水の利用が困難な離島などでは、海水を浄化して利用することもできます。こうした当社の分散型水循環システムであれば、場所を選ばずに独立した水供給システムを構築することが可能です」(嶋村社長)。

災害時の給水確保に 移設可能な可搬式

 同社では現在、この分散型水循環システムを1つのコンテナ内に集約した「可搬式分散型水循環システム」を開発し、過疎地域を中心とした全国自治体への働きかけを行っている。同可搬式(コンテナ)では1ユニットで1時間あたり25tの水を供給でき、複数ユニットを組み合わせることにより、小規模な集落だけでなく、最大1,200人規模まで水を供給することが可能だ。その最大の特徴は、コンテナ式のため移設が容易なことで、通常の水供給システムと比べて、建設にかかる費用や時間を大幅に圧縮することができる。また、内部電源とソーラーパネルを備えており、一定時間であれば外部からの電源供給なしに稼働が可能で、日常的な利用だけでなく、緊急災害時の給水確保での活躍も期待できる。

 「都市部であれば、従来型の大規模な集約型の水道供給システムのほうが最適だと思います。ですが、水道インフラの更新もままならない中山間地などの過疎地域では、コンテナ式を含めた当社の分散型水循環システムが、大いにお役に立てると思っています」(嶋村社長)。

 これまで水に向き合いながら培ってきた、同社の技術力を結実させた「分散型水循環システム」。全国的に水道インフラの老朽化が進むなか、同システムは過疎地域における水供給問題を解決する最善手となり得るだろう。

【坂田憲治】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:嶋村謙志
所在地:福岡市博多区那珂5-1-11
設 立:1970年8月
資本金:9,000万円
URL:https://www.zeolite.co.jp/

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