雇用保険法改正

岡本弁護士
岡本弁護士

    本誌vol.80(2025年1月末発刊)で育児介護休業法の改正などが行われたことをご紹介しましたが、雇用保険法の改正も行われています。そのなかでも、事業者が注目すべきは、今年4月から適用されている「自己都合離職者の給付制限の見直し」です。

 従来、自己都合離職者に対しては、失業給付(基本手当)の受給に当たって、7日間の待機期間に加えて、原則2カ月間の給付制限期間が設けられていました。そのため、ハローワークでの手続きに必要な日数を含めて考えると、給付までに約2カ月半かかっていました。この制限は、自己都合離職者は計画的に再就職の準備ができるという考えに基づいています。

 ところが新制度では、労働者が安心して再就職活動を行えるようにする観点などから、原則の給付制限期間を2カ月から1カ月に短縮されることになりました。ただし、5年間で3回以上の自己都合離職の場合には、給付制限期間は3カ月となっています。

 さらに、離職日前1年以内に「自ら」所定の教育訓練を受けたものは、給付制限が解除され、待機期間7日間を経ればすぐに失業給付を受けられることになりました。また、離職日以後に訓練を受けている者は、受講開始日以降制限が解除されることになります。

 これまでは、2カ月の給付制限期間があるため、安易に自己都合離職することが困難でした。しかし、今回の給付制限期間の見直しにより、退職してもすぐに給付を受けられる環境が整えられたことで、離職のハードルが低くなり、労働者の自己都合離職が増加することが危惧されます。

 自己都合離職者が増えることは、事業者にとっては「人材の定着」という面から見れば、明らかなリスクとなります。制度が変わるときこそ、事業者の法的対応力が問われます。就業規則の見直しや人事制度の再構築を通じて、「人を生かし、守る」企業体制を整える必要があります。

 その他、4月以降「就業手当」(安定した職業以外の職業に早期再就職した場合の手当)が廃止され、「就業促進定着手当」(早期再就職し、離職前の賃金から再就職後賃金が低下していた場合に低下した賃金の6カ月分を支給する手当)の上限が、支給残日数の40%相当額(再就職手当として支給残日数の70%が支給された場合は30%相当額)から20%に引き下げられます。これらの手当は、受給者数が比較的少ないことから見直しがされたものです。

 また今後、教育訓練やリスキリング支援の充実の一環として、「教育訓練休暇給付金」が創設されたり、雇用保険の適用拡大(週所定労働時間「20時間以上」→「10時間以上」)などが施行されますので、適宜フォローが必要になります。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

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URL: https://okamoto-law.com/


<プロフィール>
岡本成史
(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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