国貿促の訪中の狙いと中国側の出方(前)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏

 2026年6月21日から24日に予定されている日本国際貿易促進協会(国貿促)の代表団による訪中は、昨年11月の高市早苗首相による「台湾有事」答弁以降、日本の経済団体として初めての公式訪中となる見通しです。御年89歳(1937年生)となる河野洋平氏にとって、今回の訪中が長年の日中友好の集大成、いわば「最後のご奉公」となる可能性は極めて高いと考えられています。

河野氏という「個人のパイプ」

 中国側は、慰安婦問題への「おわびと反省」を表明した「河野談話」の主である河野氏を「歴史認識が近い信頼できる相手」として極めて重視してきました。高市政権の対中姿勢を厳しく批判している中国にとって、河野氏は対話可能な数少ない日本の「重鎮」と見なされています。

 政治レベルでの対話が途絶えるなか、河野氏という「個人のパイプ」を使い、経済界が窓口となって関係改善の糸口を探る、まさに背水の陣の外交となる可能性を秘めているわけです。ギクシャクする日中関係のなか、国貿促が提示すると見られる「切り札」や戦略はどんなものでしょうか?

 まずは、サプライチェーンの再構築と協力でしょう。代表団は北京で開催される「中国国際サプライチェーン促進博覧会」に合わせて訪問します。中国が懸念する「デカップリング(切り離し)」に対し、経済界として「互恵協力の重要性」を再確認し、安定的な供給網の維持を売り込む段取りです。

 また、「対日輸出規制」の改善要求もなされるはずです。中国が発表した軍民両用(デュアルユース)品の対日輸出規制などの懸案事項に対し、経済実務の立場から改善を求め、実利を通じた緊張緩和を図ろうとするはずです。

 当然でしょうが、ハイレベル対話の再開要請も行うものと思われます。河野氏は習近平指導部との面会を求めており、昨年の李強首相との会談に続く「要人との直接対話」そのものが、高市政権への強い牽制と、日中関係の「ガードレール」構築に向けた最大のカードとなります。

中国がちらつかせる経済優遇案

 2026年5月のトランプ大統領の訪中を前に、中国側が河野訪中団に対して提示を準備しているとされる「経済優遇案」は、「米国と直接手を組む前に、日本に有利な条件で先行ディールをもちかける」という、極めて戦略的な「日米離間」の性格を帯びた内容になりそうです。では、中国側が検討している具体的な優遇案はどんな内容でしょうか。

 具体的には、「ホワイトリスト企業」への優先的な市場アクセスが想定されます。トランプ政権が対中関税や輸出規制を交渉材料にするなか、中国は日本企業に対し、「政治的に友好的な企業(国貿促会員企業など)」を対象とした「特別優先枠」の創設を提案する見通しです。

 内容としては、中国国内の公共事業やハイテクプロジェクト(デジタル・シルクロード関連)への入札において、日本企業に米国企業よりも有利な条件、あるいは先行的な参画権を与えるというものです。

 次に想定されるのは、輸出規制(タングステン・レアアース)の「弾力的運用」でしょう。中国は現在、日本に対して実施している重要鉱物の輸出管理を、トランプ氏との交渉では「全面撤廃」のカードとして使いますが、日本に対しては「特定の企業向けに限った実質的な解禁」を提示する可能性があります。

 その狙いは「トランプ大統領が米国の利益を最優先して中国と合意する前に、日本企業が安定的に資源を確保できるスキームを構築しよう」ともちかけ、日本の製造業の中国依存を固定化させることにあると思われます。

 さらには、「中日共同・次世代全固体電池規格」の提案も想定されています。トランプ訪中の成果として「米中EV協力」が噂されるなか、中国は日本に対し、世界をリードする日本の全固体電池技術と中国の量産ネットワークを組み合わせた「アジア共通規格」の策定を打診するというシナリオです。

 その狙いは、米国(テスラ等)が主導する規格から日本と中国が連合して自立することで、トランプ氏の「自動車産業保護政策」を無効化し、日本を中国の経済圏に引き寄せる「究極の餌」の提供となります。

日米同盟を揺さぶる「日中独自交渉」

 河野氏は、これらの提案を「日中関係改善の絶好の機会」として評価する一方で、高市首相は「中国による日米離間の罠だ。トランプ氏が中国と何らかの合意をする前に、日本が中国と独自に動くことは、同盟の信頼を損なう」と極めて冷ややかに見ています。

 いずれにしても、国貿促の訪中団に対し、中国側は「受け入れ」の意向を示しており、習近平指導部幹部との面会も調整中です。中国側は、歴史認識において中国の立場に近いとされる河野氏に対し、高市政権への反発とは対照的に好意的な姿勢を見せているようです。

 政経分離の窓口としても価値を見いだそうとしているものと思われます。政府間関係が冷え込むなか、経済団体である国貿促を「対話の窓口」として活用することで、日本国内の親中派世論を維持し、高市政権の強硬路線を牽制する狙いも見え隠れしています。

 河野訪中団は習近平指導部との面会を要請しており、25年6月の訪中では、李強首相との会談が実現していました。今回も要人との面会を求めて調整が進められており、李強首相を含む最高指導部メンバーが顔を見せる可能性は否定できません。

 トランプ大統領が中国の動きを察知して日本に突きつけた「訪中前の日中独自交渉の禁止」という趣旨の警告は、26年3月の日米首脳会談や、それに先立つ電話会談などを通じて示された「米中の大規模ディールを最優先する」というトランプ流の外交方針に基づくものです。

(つづく)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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