清水建設の欺瞞(3)復帰した仕事人 修繕工事は完璧だったのか 報告書にあふれる疑惑
AMT一級建築士事務所代表
都甲栄充 氏
スーパーゼネコンの清水建設が事業主(施主)・設計・施工・工事監理・販売を手がけ、耐震上の重大な欠陥が見つかった仙台市のマンションの修繕工事は、問題を指摘したマンション側の顧問建築士を「カヤの外」に追いやって実施された((2)参照)。
工事終了後に住民側から再委託されてカムバックした(株)AMT一級建築士事務所の都甲栄充代表が、修繕工事完了の報告書に目を通すと、いくつもの疑問点が浮かび上がった。清水建設は新築建設時に住民をあざむき、修繕工事でも誠実な工事をしなかったのだろうか?
清水建設が、仙台市に3月末に提出した建築基準法12条5項の報告書を、都甲代表が精査した。
欠陥の全体像と構造スリット総数の相違
このマンションで問題になったのは、地震の揺れから建物を守るために設置する構造(耐震)スリットがほとんど設置されていなかった、ということだ。構造スリットとは、柱と壁、梁と壁の間に数㌢の隙間(スリット)を開けて設置する「緩衝材」のことだ。耐震構造上は重要でない壁(雑壁)が地震で揺れた際、耐震上重要な柱や梁を押し出して建物を倒壊させる危険から建物を守るために設置するものだ。直下型の地震であった阪神淡路大震災で多くのビルが倒壊したことを教訓として、法改正により設置が義務づけられることになった。
『報告書』はその構造スリットを設置すべき総数の522カ所のうち、474カ所で不存在、36カ所で不適正な設置があったと結論づけている。実に全体の97.7%に上る。私が初期段階で85カ所を抽出調査した際には74カ所で未施工が見つかり、不存在率は87%だったので、実態はもっと悪かったことになる。
次に、522カ所とされた総数にも疑義が生じる。図面のチェックでは、構造スリットの総数は557カ所と計測されていた。従って、『報告書』では35カ所の工事が抜け落ちている疑いがあるのだ。
ぴったり過ぎるスリット材の数量
報告書全体を見渡しての最大の疑問は使用した材料を搬入した際に確認する「材検写真」がないことだ。一般の工事であれば、材料が搬入される度に数量を確認して撮影するはずだが、この工事において、材検写真はすべての材料で1枚も確認できなかった。
材料の搬入は「出荷証明書」で一応は確認できたが、これは1枚の紙切れに過ぎず、このマンションへの「材料搬入の担保」になるとは言えない。
しかも、この証明書で確認すると、新たな疑念が生じた。計画段階で構造スリットの敷設に必要なスリット材の総延長がロス率15%と換算して706mだったのに対し、工事進捗に合わせ2024年8月から11月にかけて計24回搬入したとする「証明書」の合計搬入量が706mで完全に一致しているのだ。計画から寸分違わぬ「完璧」な工事だったということか。それとも後から数字合わせで後から資料をつくったかは不明であるが
また、『報告書』で構造スリットの総数とされた522カ所のうち、474カ所が構造スリット不存在、36カ所では不適正な設置であったという。差引すると、12カ所では構造スリットが正しく設置されていたので、少なくとも12カ所のスリット材はいらないはず。それなのに、なぜ総延長が一致するのか?
そもそもこのスリット材の総延長706mは、設計図面からカウントした構造スリットの総数、557カ所に対する数量、という可能性もあるのではないだろうか?
窮屈過ぎるスリット材料

前述した通り、構造スリットとは柱と壁、梁と壁の間に隙間を開けて設置する「緩衝材」を指す。このマンションの場合、構造スリットが敷設されていなかったため、補修工事は柱と壁、はりと壁の間に切り込みを入れてコンクリートを抜き取って空洞(溝)をつくり、そこにスリット材を入れて表面を覆う工事が必要となる。
報告書では、この空洞(溝)の幅が29~34mmと示されている。この隙間に35mmのスリット材を押し込んだということだ。「材検証明書」にあるスリット材「NNロックウール」を入手して、手触りを確認した。34mmの空洞であれば、差の1mmを圧縮して隙間へ押し込むことはできそうだが、さすがに29mmの隙間へ押込むには、6mmの差は大き過ぎるだろう。
作業に対応していない工事写真
報告書に添付されている施工中の写真を見ると、疑問がさらに膨れあがる。通常の建設現場では、作業に合わせて場面ごとにすべての場所で写真撮影するのだが、今回の修繕工事に関してはそれがない。
まず、作業手順の1番は、柱と壁の取合い部のコンクリートを切り出して、空洞(溝)をつくることだ。この工程では全522カ所すべての写真が存在する。
次の工程に入る前に、切り出した溝の深さ、長さ、幅を測って写真撮影をするはずなのだが、この場面の工事写真は、ほとんど確認できなかった。

最後に、隙間(溝)にスリット材を入れ込む作業をする。スリットを入れ込んでいる最中の工事写真は522カ所中1カ所だけだった。代わりに、スリット材を入れ終わった後の表面のポリエチレンだけを確認できる工事写真が180枚近く(全体の30%程度)あるだけで、ほかは工事写真さえ添付されていない。

見えない切断した鉄筋
柱や梁と壁の間に隙間(溝)をつくる切り込み作業は、時としてなかに入っている鉄筋にぶつかる場合がある。切り出し作業中に、鉄筋を切断した場合は、次の作業に移る前に鉄筋の切り口にさび止めを塗る必要が出てくる。作業効率を上げ、さび止めの塗り忘れを防ぐためには、鉄筋があった場所に目印を付けるのが一般的だ。
報告書をみると、赤線を引いて目印を付けて施工した場所が確認できる一方、鉄筋を切断したであろう場所に目印がついていない工事写真も散在する。赤線を引かなくても確認するすべがあったのか、不思議でならない。


(報告書から)
(*そもそも、構造スリット部には鉄筋(水平)が貫通していては、雑壁と大切な柱や梁が水平鉄筋によってつながり縁が切れてない。だから水平鉄筋が存在しているということは、最初から新築時代に清水建設として構造スリットを設置しないという確信犯と断言できる事実と思われる)
顧問建築士再登板の力
細かな疑問を上げたらキリがなくなりそうだ。構造(耐震)スリットが適正に敷設されたかどうかをはっきりさせれば住民も納得できるだろう。再任された顧問建築士として、取るべき行動は1つだ。新築建設時の欠陥を見抜いた時と同様、現地調査をするしかない。清水建設との交渉はこれからだ。住民の理解と信頼を得るという点で、清水建設とは利害が一致している。きっと、現地調査に応じてくれると信じている。
(つづく)
<プロフィール>
都甲栄充(とこう・ひでみつ)
福岡県北九州市生まれ、明治大学工学部卒業。大成建設(株)、住友不動産(株)を経て、2009年に(株)AMT一級建築士事務所を開設。主な資格は、一級建築士、管理建築士、一級建築施工管理技士、宅地建物取引士、管理業務主任者、監理技術者、特定建築物定期調査員。(一社)日本建築学会司法支援建築会議・元会員、東京地方裁判所・元民事調停委員(建築裁判専門)、(一社)日本マンション学会・元会員、八王子市マンション管理組合連絡会・元会長。