下請法改正

 最近、物価上昇や賃上げという言葉を聞かない日がないですが、政府も「物価上昇を上回る賃上げ」の普及・定着を目標に掲げています。近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇のなかで、「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するためには、事業者において賃上げの原資の確保が必要です。中小企業等の事業者が賃上げの原資を確保するためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくことが重要になります。協議に応じない一方的な価格決定行為など、価格転嫁を阻害する商慣習を一掃していくことで、取引を適正化し、価格転嫁をさらに進めていくため、下請法が改正され、2026年1月1日から施行されることになりました。

 なお、「下請」という用語が対当でない関係があるような印象であり、また最近はこのような用語を使うことも少なくなったことから、「親事業者」を「委託事業者」に、「下請事業者」を「中小受託事業者」に、「下請代金」を「製造委託等代金」などに改正し、法律の名称からも下請という表現がなくなりました。

 価格転嫁を進めるために、従前から禁止されていた「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定める」「買いたたき」の禁止に加えて、改正法では、中小受託事業者から価格協議の求めがあったのに、協議に応じなかったり、委託事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定することも禁止されることになりました。

岡本弁護士
岡本弁護士

    また、本誌77号(24年12月末発刊)において、期間が60日を越える長期手形での支払が禁止されることになるとの紹介をしておりましたが、手形などを用いることにより、親事業者が下請事業者に資金繰りの負担を求める商慣習が続いていることが問題視され、改正下請法では、そもそも手形払などが禁止されることとなりました。

 これまでメーカーや卸売事業者などが荷主として、自社で製造や販売する製品の運送を運送事業者に委託することは、下請法の対象外(運送事業者から別の運送事業者への外注は下請法の対象)とされていました。しかし、立場の弱い運送事業者が荷役・荷待ちを無償で行わされているなどの問題が顕在化していることなどを踏まえ、改正法では発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引を、「特定運送委託」として新たな規制対象に追加しました。

 さらに、下請法は親事業者と下請事業者の資本金額により、適用範囲が決められていたため、下請法の適用を免れるために、親事業者が資本金を少額に抑えたり、あるいは減資したり、さらには下請事業者に増資を求めるなどの例もありました。そこで、改正法ではこれまでの基準に加えて、従業員数300人(製造委託等)または100人(役務提供委託等)を基準とする従業員数の基準を新たに追加しました。

 これらの改正によって、これまで下請法の適用対象外であった委託先でも、その従業員数を確認して、新たに適用対象とならないか確認することが必要になります。また、手形払等の禁止の結果として、資金繰りの検討も必要になります。来年の施行に向けて検討、対応を進めましょう。


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岡本綜合法律事務所

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<プロフィール>
岡本成史
(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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