下請法改正(2)

 本誌87号(2025年8月末発刊)で、「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」が改正され、法律の名称も「中小受託取引適正化法(取適法)」と改称されることを紹介しました。いよいよ来年1月1日からの施行が迫ってきましたので、ここで改正点以外の基本的な内容をおさらいしておきたいと思います。
 まず取適法では、委託事業者(下請法での「親事業者」)に次の4つの義務が課されています。

①発注内容などを明示する義務

 発注に当たって、発注内容(給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法)などを書面または電子メールなどの電磁的方法により明示することが必要です。なお、電磁的方法による提供は、下請法では、下請事業者から事前の承諾を得たときに限られていましたが、取適法では、承諾の有無にかかわらず可能とされました。

②書類などを作成・保存する義務

 取引が完了した場合、給付内容、代金の額など、取引に関する記録を書類または電磁的記録として作成し、2年間保存することが必要です。

③支払期日を定める義務

 発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、支払期日を定めることが義務づけられています。併せて前回紹介した通り、手形払などが禁止されることになりますので、これまで支払日までの期間を60日として、手形サイト60日の手形を交付していた場合には下請事業者が現金を受領するまで120日もかかっていたものが、改正により受託事業者は60日以内に現金受領できることになります。

④遅延利息を支払う義務

 支払遅延や減額等を行った場合、遅延した日数や減じた額に応じ、遅延利息(年率14.6%)を支払うことが必要です。下請法では、支払遅延について遅延利息を支払うよう勧告することとなっていましたが、減額についての規定はありませんでした。それが取適法では、減額についても規定が追加されています。

 また取適法では、次の11の遵守事項(禁止項目)も定められています。

①受領拒否、②支払遅延、③減額、④返品、⑤買いたたき、⑥購入・利用強制、⑦報復措置、⑧有償支給、⑨不当な経済上の利益の提供要請、⑩不当な給付内容の変更、やり直し、⑪協議に応じない一方的な代金決定

岡本弁護士
岡本弁護士

    なお、委託事業者(親事業者)が振込の手数料を委託代金から差し引いて振り込むこともよく見かけます。しかし、発注前に書面で合意がない場合に振込手数料を委託代金の額から差し引くことも③の減額に該当し、違法です。

 ただし、(1)発注前に書面で振込手数料の負担について合意すること、(2)委託事業者が負担した実費の範囲内での差引きに限ること、であれば、これまでは下請法違反とはされませんでした。もっとも「企業取引研究会報告書」において、「振込手数料を下請事業者に負担させる行為は、合意の有無にかかわらず、下請法上の違反に当たることとし、その旨、解釈を変更して、運用基準において明示すべきである。」とされています。

 そのため、取適法の施行に合わせて、運用基準も前記報告書の内容の通り、「振込手数料を下請事業者に負担させる行為は、合意の有無にかかわらず、下請法上の違反に当たる」と改正されるだろうといわれています。この点、ご留意ください。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/


<プロフィール>
岡本成史
(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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