子ども向けタクシー送迎サービスのイメージ
「移動」が、マンションの新たな付加価値として浮上している。大手デベロッパー2社による送迎サービスを付加したマンションが、都内で相次いで登場した。子どもの送り迎えや車をもたない世帯へのニーズに対応するもので、その背景にあるのは、マンション価格の高騰と、それにともなう居住者ニーズの変化だ。
子どもの送迎サービス
東京建物(株)は、計画中の新築分譲マンション「Brillia 町屋」(東京都荒川区町屋2丁目、総戸数40戸、2027年7月上旬竣工予定)において、TOPPAN(株)とインターホンなどを製造・販売するアイホン(株)との連携による、子ども向けタクシー送迎サービスの導入を予定している。
子育て中の共働き世帯が増加傾向であり、近年高騰したマンションの中心購入層と合致。一方で、共働き世帯にとって、子どもの送迎は大きな負担となっている。小学校や学童、習い事教室と自宅との間をつなぐ、子ども向けタクシー送迎サービスを導入する。
このサービスは、スマートフォンのアプリによって送迎予定やタクシーの位置の確認が可能だ。さらに室内のインターホンとも連動してタクシーの到着を通知することで、スマートフォンをもたない子どもでも乗車・降車時にエントランスで送り迎えができる。今後、東京建物は首都圏のファミリー層向け物件を中心に、このサービスの導入を検討するとしている。
子ども向け送迎サービスは、東京建物が展開する住まいの共創プロジェクト「bloomoi(ブルーモワ)」から生まれた。現役子育てファミリーへのアンケート調査やグループインタビューを基に、サービス導入を決定した。このサービスは、乗りタクシー送迎サービス「こどもび®」を運営するTOPPANが提供。スマートフォンで事前に予約リクエストした情報を基に、小学校・学童・習い事教室などの目的地と自宅をつなぐ最適なルート設計とタクシー配車を行う。また、相乗りの場合は乗車距離に応じて送迎利用料が按分されるため、各家庭でタクシーを手配する場合に比べ、手軽に送迎を利用することが可能だ。
「Brillia 町屋」においては、アイホンが提供する集合住宅用インターホンと連動し、スマートフォンをもたない子どもであっても、マンションの自宅室内で送迎タクシーの到着を確認することを可能とした。送迎タクシーの到着まで外で待機する必要がなく、親の時間的な負担を軽減するという特徴がある。東京メトロ千代田線「町屋」駅から徒歩5分の立地の「Brillia 町屋」は、定期借地権付き分譲マンションで、26年3月上旬からの販売開始を予定している。販売戸数や価格は未定で、間取りは2LDK~4LDK(専有面積53.31~82.31m2)。
賃貸住宅で実証実験
東急不動産(株)は、賃貸マンション「コンフォリア二葉」(東京都品川区二葉2丁目、総戸数81戸)と「コンフォリア森下リバーサイド」(東京都江東区常盤1丁目、同180戸)において、居住者専用の配車プラットフォームサービス「RAKU MOVI by COMFORIA」の実証実験を開始した。
入居者は無料で利用でき、自宅から商業・オフィスエリアにアクセスが可能。移動手段はシェア乗りタクシーで、配車プラットフォームサービスは、(株)NearMe(東京都中央区)が開発したシステムを使って実現した。期間は、「コンフォリア二葉」が10月1日から12月31日まで、「コンフォリア森下リバーサイド」が26年1月1日から3月31日まで。実証実験であるため目的地が限定されており、「コンフォリア二葉」が品川駅、大井町駅、天王洲アイル駅、戸越銀座駅、しながわ水族館、アコーディアガーデン東京ベイ、「コンフォリア森下リバーサイド」が東京駅、錦糸町駅、秋葉原駅、豊洲駅、東京ドーム、東京国際フォーラムとなっている。目的地に駅を設定し、公共交通機関の利用を促すことで、タクシーの利用を減らすことを狙う。
利用イメージとしては、通勤時や休日のショッピングで自宅から駅までの移動、大型イベントやコンサート、ライブ観賞のための会場までの移動、雨の日や荷物が多い日の利用、家族と一緒にレジャースポットや公園への外出などを想定している。
都心の分譲マンションの高騰で、購入を断念した層が都心の賃貸マンションに流れ込み、ファミリー向け賃貸マンションのニーズも高まっている。これにともなって居住者のライフスタイルも変化し、それに対応する新たなサービスが「配車」サービスとなっている。東急不動産によると、都心の賃貸マンションは分譲住宅に比べ、車の所有率が低く、タクシーの利用頻度が高いという。今回、シェアモビリティサービスを提供することで、単独利用によるタクシー利用を減らし、シェア乗りタクシーや公共交通機関の利用を促進するとともに、CO2排出量や交通渋滞の軽減を図る狙いがある。
<プロフィール>
桑島良紀(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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