高市・トランプ首脳会談 明らかになったアメリカの衰退(後)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏

 アメリカのトランプ大統領にとって、「安倍元首相の後継者」扱いされる高市早苗新首相を通じて日本との緊密な同盟関係を強化することは、中国の習近平国家主席との、より激しい論争を巻き起こす会談を前に、外交上の勢いを得ることになるとの判断が働いたことは想像に難くありません。高市氏は公明党との連立を解消し、自由経済、自由市場、自由貿易を主張する日本維新の会と連携しました。高市氏は安全保障と軍事化に関して保守的な立場をとっており、妥協点を見いだせると判断した模様です。そして、日本維新の会は、新政権が彼らの経済政策も採用することを条件に、政権に参加しました。

トランプを喜ばせた日米ビジネス会談

 トランプ政権では、貿易枠組みの一環として日本から5,500億ドルの投資という目標を「今回の訪日でほぼ達成した」と受け止めています。東京のアメリカ大使館内で行われたビジネスリーダーとの夕食会で、トランプ大統領もラトニック商務長官も、「日本企業から最大4,900億ドルの投資を得られることになった」と笑みを浮かべていました。

 「皆さんはすばらしいビジネスマンです」と、トランプ大統領は夕食会の前に集まった日本企業の幹部たちに語っていました。さらに、「我が国は皆さんを失望させません」と自らが投資のリターンを保証するような発言も繰り出すほどの力が入っていたものです。これらの投資がどのように運用されるのか、現時点では明らかではありませんが、トランプ大統領は高市氏との親睦を深めた一日を締めくくるにあたって、ビジネス界のリーダーを前に大々的な勝利宣言をしました。

 圧巻は高市氏が迎賓館でのワーキングランチで米国産牛肉とアメリカ米をメインに、高市氏の地元奈良県産の「大和丸なす」やデザートに「富有柿」などの食材を混ぜた料理を準備するなど、両国の食材の合作を繰り広げたことです。

 また、会談に駆けつけた記者たちは、迎賓館の入り口近くに停まっていた金色のフォードF-150に目を奪われることに。トランプ大統領は、「日本ではアメリカ製の自動車が走っていない」としばしば批判してきていました。アメリカ車は幅が広すぎて日本の狭い道路では実用的ではないという道路事情の違いをトランプ氏は理解していません。しかし、日本政府は道路やインフラの点検用にフォードのトラックを100台から150台も購入することを検討していることをアピールするため、フォード車を並べたという演出でした。

 その後、アップルのティム・クックCEOをはじめとするCEOが詰めかけた東京のアメリカ大使館での夕食会で、トランプ大統領はこれらの取引を大いに喜んだ次第です。何しろ、「高市氏からトヨタが米国の自動車工場に100億ドルを投資すると聞かされた」とも述べていました。ソフトバンクや日立、パナソニックもエネルギー関連の投資を検討していることを表明。また、ウエスチングハウスやGEベルノバは日本への小型核融合炉の輸出契約が進んでいるとのこと。各々1,000億ドルを超えるものです。トランプ大統領にとっては大きなお土産になったことは間違いありません。

米空母での共演“スター?”高市の登場

 トランプ大統領は対アジア外交において関税と貿易に重点を置いてきていましたが、東京滞在中、横須賀の米海軍基地に停泊中の航空母艦「ジョージ・ワシントン」でも演説を行いました。大統領は高市氏を同行させ、彼女にも演説をさせたのです。トランプ氏の横で左手を高く振り上げる高市氏の様子は「あたかもロックスターのようだ」と話題となりました。

 大統領は航空母艦の艦上で、米軍の兵士を前に、国家安全保障政策や米国経済について語りました。それと同時に、自衛隊のF-35戦闘機に搭載される最新鋭の空対空ミサイルの第一陣の提供を承認したと発表しました。ミサイルは「今週到着するはずだ。予定より早い」とトランプ大統領は自慢げに述べたものです。

 加えて、アメリカの軍事的優位性を強調し、「今後、もし我々が戦争に巻き込まれたとしても、我々は勝利するだろう。間違いない」と自信を見せました。トランプ大統領は高市首相や同行した小泉防衛大臣を前に、アメリカの海軍力を称賛し、「どの国の海軍もおよばない」と述べ、「アメリカは世界最高の装備、弾薬、兵器、ミサイル、航空機を製造している」とも補足。

 トランプ氏は、先進兵器に加え、「アメリカ軍の力は人員にかかっている」と強調。「それらの兵器を扱う適切な人材がいなければ、何の意味もない」と海軍の兵士たちに語りかけました。自分たちへの期待と評価を聞き、艦上の兵士たちは満足げに頷いていたようです。

追随外交に懸念も

 トランプ大統領に続いて演説した高市首相は、日本がアジア太平洋地域全体の平和と安定に「積極的に貢献する」ことを誓いました。さらに、高市首相は、自身とトランプ大統領が訪問している空母は「この地域における自由と平和を守る象徴だ」とも述べ、アメリカ軍の兵士たちからは大歓声が沸き上がったものです。

 高市氏は、故安倍首相の地域安全保障に対する姿勢を想起し、「地域全体の平和と繁栄の基盤となる“自由で開かれたインド太平洋”」に向けた「決意」を「継承していく」とも力を込めて発言。最後には、日米同盟を「最高の同盟」と称し、「さらに偉大な高みを目指す」と述べて締めくくりました。

 高市首相の高揚感は明らかでしたが、あまりにもトランプ氏に追随し過ぎた言動にはインド太平洋の国々からも「かえって緊張が高まりかねない」と、警戒感が生まれているようです。しかも、トランプ大統領が誇らしげに語った「最新鋭の空対空ミサイル」ですが、材料のレアアースの調達が思うに任せず、アメリカ国内では在庫が不足していることが問題になっています。それだけアメリカの現状は厳しく、かつてのような栄光の時代は過ぎ去っていることを認識しておくことが必要です。

(了)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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