国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏
世界が注目するなか、高市早苗新首相とドナルド・トランプ米大統領の初顔合わせとなる日米首脳会談が東京にて開催されました。高市首相は出会った瞬間からトランプ大統領を惜しみなく称賛し、両国関係の「黄金時代」を築くことを誓ったものです。さまざまな分野での日米協力の可能性で盛り上がったことは間違いありません。なかでもトランプ氏の歓心を呼んだのは、重要鉱物資源、とくにレアアースの確保に関する日米合意でした。
トランプとの“蜜月”演出
ドナルド・トランプ米大統領が10月27日に訪日しましたが、ホワイトハウスによると、高市早苗新首相はトランプ氏の訪日に備えてあらゆる手を尽くし、ノーベル平和賞への推薦まで表明する熱の入れようでした。気を良くしたトランプ氏は「日本は米国にとって“最強レベルの同盟国”だ」と対応。トランプ氏は初対面の高市氏に対し、「今後最も偉大な首相の1人となるに違いない高市氏に就任早々、ご一緒できることを大変光栄に思う」とべた褒め。
高市氏も、タイとカンボジアの停戦に向けたトランプ氏の努力や、イスラエルとパレスチナの対立を克服しようとするガザ地区停戦合意に対して、「前例のない歴史的偉業」と称賛しました。お互いに相手を絶賛しまくるという演出過剰状態で、石破前首相がトランプ大統領と会談した「ぎこちない雰囲気」とは大違いです。「とても力強い握手ですね」とトランプ大統領は高市首相に親しみを込めて囁いていました。
今回、とくに関心を呼んだのは、両国が「重要鉱物およびレアアースのサプライチェーンの強靭性と安全保障の達成」を目指す協定に署名したこと。というのも、中国政府は10月、レアアース産業に対する包括的な規制を発表し、トランプ大統領は報復として中国からの輸入に100%の関税を課すと警告していたからです。
トランプ政権とすれば、中国への過度の依存度を減らすうえでも、日本が南鳥島近海で埋蔵が確認されている高品質かつ大量のレアアースをアメリカと共同開発する方向に踏み出したわけで、日本の提案を大歓迎。一方、南鳥島周辺での資源探査を加速させていた中国は警戒心を高めたはずです。AIをはじめ、電気自動車やドローンなど先端分野では欠かすことのできない希少鉱物資源をめぐっては、米中間の対立が激化する一方でしたので、そのことを踏まえたうえでの高市提案はトランプ氏の胸襟に触れたことは間違いありません。
また、高市氏との会談後、トランプ大統領は北朝鮮に拉致された日本人の家族と面会し、「アメリカは皆さんとともにいる」と述べ、「できる限りの支援を継続したい」と激励し、拉致問題への関心の高さを見せたものです。しかし、韓国訪問中に「北朝鮮の金正恩総書記といつでも会いたい」と語っていたトランプ大統領でしたが、今回は実現できませんでした。
防衛費前倒しと“忖度外交”の影
安全保障面では、「台湾派」と目され、対中強硬派の高市氏は、「国内総生産(GDP)の2%を防衛費に充てるという目標を2年前倒しで達成する」と、トランプ大統領を喜ばせる発言を繰り出しました。実は、日本に約6万人の米軍兵士を駐留させているアメリカは、日本に対し、6月にNATO加盟国が約束したGDPの5%に匹敵する、さらなる防衛費の増額を求めています。
東京大学公共政策大学院のイー・クアン・ヘン教授はAFP通信に対し、高市首相が防衛費増額を求めるアメリカの圧力をかわすため、「先手を打って」目標を前倒ししたに違いないと解説。国際社会からはそうした受け止め方が多く聞かれ、恐らくその通りではないでしょうか。
実は、アメリカへの日本からの輸入品の大半は15%の関税の対象となっていますが、これは当初警告されていた25%よりも少ないわけで、トランプ政権の関税戦争による影響は少なく抑えられています。とはいえ、これはトランプ大統領の一存で、いとも簡単に前言が覆される可能性があるため、高市政権とすれば、トランプ大統領の顔色を常にうかがうという「忖度外交」を余儀なくされそうです。
レアアース協定がもたらす
日米接近と高市政権の追い風
ホワイトハウスが7月に発表した貿易協定の条件に基づき、日本は米国に5,500億ドル(約84兆円)の投資を行うことが見込まれているため、そうした資金をレアアース開発に活用することは喫緊の課題に他なりません。こうしたレアアース関連技術は中国が世界の最先端を走っています。結果的に、この市場の8割近くを中国が独占しているのが現状です。習近平国家主席がトランプ大統領との韓国での首脳会談においても、強気の姿勢を見せていたのも、この「レアアース・カード」がモノを言ったものと推察されます。
いずれにしても、「彼は本当に彼女を気に入っている」と、トランプ政権の高官は、非公開で高市氏とのやり取りを観察したうえで結論付けていました。幸い、高市氏はタイミングの恩恵も受けています。トランプ氏の相互関税が市場を揺るがし、アメリカの同盟関係を再構築した後に首相に就任したため、貿易協定交渉でトランプ政権と揉める必要はなかったからです。
高市氏にとって、トランプ氏と肩を並べることは、国内での立場を強固にする効果があったはず。就任後、彼女の支持率は急上昇していますが、自民党は最近の選挙での相次ぐ敗北を受け、依然として少数与党のまま。「政治とカネ」にまつわるスキャンダルに対する国民の不満も根強く残っています。日本の影響力を海外に発信し、ワシントンとの絆を再構築することは、結果次第ですが、彼女の国内での政治基盤を強化するうえで役立つかもしれません。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








