LPガス料金の透明化を巡る改正と不動産管理への影響

岡本弁護士
岡本弁護士

    2021年度末におけるガスなど利用世帯数の比率は、LPガスが約36%、都市ガスが約44%、その他オール電化等が約20%となっており、都道府県別に見ると、地方を中心に7割(32)の自治体では、LPガスの普及率が50%を上回っています。この状況で、LPガス取引の独特の商慣習が問題視されていました。

 とくに賃貸住宅においては、LPガス事業者が建物オーナーや管理会社に対し、ガス設備だけでなく、エアコン、インターホン、インターネット設備(Wi-Fi機器)といったガス消費と関係のない設備までを無償で提供し、その費用を入居者のガス料金に上乗せして回収するという不透明な商慣行が横行していました。同様に、物件の契約を勝ち取るために、LPガス事業者がオーナーや不動産会社に対し、物件紹介について高額な紹介料、協力金等の名目での現金を支払うケースも多々あり、紹介料なども最終的には入居者のガス料金に転嫁されていました。

 この結果、入居者は入居後に初めて高額なガス料金を知り、また、ガスの供給事業者を切り替えることも事実上困難であるため、不当に高い費用を負担せざるを得ない状況が生まれていました。

 こうした商慣行を是正し、料金の透明性を確保し、消費者の利益を保護するため、液石法施行規則が改正され、一部は24年7月2日、多くは25年4月2日から施行されています。

 主な改正点として、次の3点が挙げられます。

(1)過大な営業行為の制限
 LPガス事業者が、不動産オーナーや管理会社に対し、「正常な商慣習を超えた利益供与」を行うことや、消費者の事業者選択を阻害する恐れのある「切り替えを制限する条件付き契約」を締結することが禁止されました。

(2)三部料金制の徹底と設備費用の計上禁止
 LPガス料金の請求時、「基本料金」「従量料金」「設備料金」の三部に分けて明示する「三部料金制」が徹底され、料金の内訳が明確化されました。さらに、LPガス消費と関係のない設備費用(電気エアコン、Wi-Fi機器など)をLPガス料金に計上して請求することが禁止され、さらには、賃貸集合住宅向けのLPガス料金においては、ガス器具等の消費設備費用についても、LPガス料金として請求することが禁止されました。

(3)LPガス料金等の情報提供の義務・努力義務
 LPガス事業者は、賃貸集合住宅への入居希望者に対し、直接またはオーナー、不動産仲介業者などを通じて、LPガス料金を事前に提示するよう努めなければならない(努力義務)とされ、さらには入居希望者から直接情報提供の要請があった場合は、それに応じることを義務化されました。

 今回の法改正は、LPガス事業者だけでなく、賃貸住宅のオーナーや不動産管理業者にも大きな影響を与えます。

 ガス料金に設備費用を上乗せすることが原則できなくなるため、物件オーナーは、設備費用を自己負担するか、家賃設定を見直す必要があります。管理会社は、オーナーに対し、この変更点を説明し、新たな費用回収スキームを提案していく必要があります。また、仲介業者は入居希望者に対し、LPガスの利用開始前に料金情報を確認できる仕組みがあることを明確に伝えることも求められます。管理会社は、LPガス事業者との間で、過大な利益供与を受けたり、切り替えを制限するような不当な契約を締結したりしていないか、既存契約を点検し、法令に準拠した関係を構築するよう務めなければいけません。

 これらの対応を怠ると、入居者との間でトラブルになるだけでなく、法規制の趣旨に反する行為として、社会的信用を失うリスクもあります。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/


<プロフィール>
岡本成史
(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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