村上大祐嬉野市長の配湯事業引き受け表明を問う(3) 会見に見えた源泉所有者会議の影響
漏湯量を不問にする村上市長の不可解
村上市長は昨年12月23日の記者会見で、嬉野温泉配湯(株)(以下、配湯会社)からの配湯事業の引き受けを前向きに検討する姿勢を示したが、その理由は報道によるとおおよそ次の通りだ。
昨年1月に表面化した源泉水位低下の一因には配湯会社の漏湯があるが、その問題を解決するために必要な配湯管の更新といった対応を取る力がもはや配湯会社にはないので市が引き受ける、というものだ。では、その問題となっている漏湯とはどのような状況なのか。報道によると、配湯会社などが所有する配湯管で41カ所の漏湯が見つかり、12月18日時点で34カ所が修理されたという。
しかし、市が引き受けを検討するにあたっての肝心な情報、すなわち、配湯会社がどの程度の漏湯を生じさせており、それが嬉野温泉に対してどれくらいの影響を与えているかを示す「量」の情報がまるでない。
記者会見を報じたのは新聞社5紙、テレビ局3局だが、各報道を横断的に読むと初めて次のようなヒントが得られる。漏湯量については「源泉の水位低下が発生してからは(中略)1日約1千トンの配湯のうち6割が漏れていた」(朝日新聞)、「くみ上げた量と実際の使用量の差をみると、くみ上げた量の半分以上が漏れ出している状態」(読売新聞)という。また、漏湯量の影響を理解するために必要な嬉野温泉全体の情報としては、「嬉野温泉で適正とされている1日のくみ上げ量2500t」(読売新聞)、「24年12月、温泉地全体で1日当たりのくみ上げ量を前年比1割減の2800tに抑えるよう旅館などに要請」(毎日新聞)とある。
これらの3紙をつなぎ合わせると、「嬉野温泉の適正揚湯量2,500t/日のうち、配湯会社は1,000t/日をくみ上げて、そのうち6割が漏れている」ということが分かる。この3社以外は情報に触れてすらいない。それは無理もない、村上市長が会見でこのことを正確に説明しなかったからだ。かろうじて報じた3紙も、村上市長以外からの取材か、25年1月時点の取材情報を基にしている。
配湯事業の引き受けの是非を考えるうえで重要な漏湯量の情報が、なぜきちんと説明されていないのか。理由は、村上市長は配湯会社の正確な漏湯量を知らないふりをしているか、あるいは本当に把握していないからだ。
漏湯量を把握することは決して難しくない。販売している湯量を配湯会社に申告させるとともに、配湯先にアンケートを実施して購入量の情報を収集すればよい。そうすれば揚湯量との差し引きで漏湯量は分かる。この情報は本来、配湯事業の引き受けを論じる以前に、漏湯対策を講じるために重要な基本情報である。にもかかわらず、配湯事業引き受け姿勢を明らかにする段階に至っても、その情報を曖昧なままに事を進めようとしている。まったく不可解と言わざるを得ない。
村上市長による配湯事業引き受け表明は、漏湯量だけでなく、あらゆる情報が不足している段階で拙速に行われた。それは検討不足というだけでなく、広く議論するために必要な情報を共有する姿勢が村上市長に欠けていたことを示している。
このように情報共有を軽視する村上市長の姿勢はどこに由来するのか。嬉野温泉問題を取材してきた筆者の目から見れば、これは源泉水位低下問題の本質をひた隠しにしてきた「源泉所有者会議」の秘密主義とまったく同じスタンスである。村上市長は、配湯会社と同じく、源泉所有者として源泉所有者会議に参加しているが、その会議を覆っている秘密主義の延長線上で、今回の配湯事業の引き受け表明に踏み切ったように思われる。
源泉所有者会議の秘密主義
源泉所有者会議とは、嬉野温泉において源泉を所有する11事業者が出席する会議のことだ。嬉野温泉には、現在、温泉をくみ上げることができる源泉が17(うち1つは休止中)あるが、温泉資源保護を理由として佐賀県は新たに源泉を掘削することを認めていない。そのため実質的にこの17の源泉を所有する11事業者が嬉野温泉の利用を独占している。源泉を所有しない温泉事業者は、所有している事業者から温泉を供給してもらうことによって初めて利用できる。その源泉を所有しない事業者のほとんどに対して供給を行っているのが配湯会社である。
源泉所有者会議というものものしい名前が付いていても、何ら決議に拘束力はなく、情報共有のための任意の集まりに過ぎない。だが、温泉行政を管轄する佐賀県は揚湯量を制限するルールを条例などでまったく設けていない。そのため、実質的にこの会議体が、温泉保護のために揚湯量などを協議して調整を図ることができる唯一の場所となっている。このように何ら権限のない任意の集まりが、実質的に嬉野温泉の命運を握っていることは、明らかに温泉行政上の欠陥である。
25年1月に嬉野温泉の源泉水位低下が全国的なニュースとなって取り上げられたが、この問題は23年10月の段階で源泉所有者会議の内部で共有されていた。しかし何ら有効な対策を講じることができないまま時間を浪費していた。その要因の1つは会議内部の秘密主義だ。対策を検討するための必要な情報である、個々の源泉の揚湯量の情報が24年11月まで共有されなかったのである。理由は、各源泉所有者の同意が得られないというものだ。配湯会社が1,000t/日のうち6割を漏湯させているという情報が初めて共有されたのもようやくその頃であった。そして翌12月には佐賀県からの揚湯量の削減要請となったのである。
一方、会議に参加できない、源泉を所有しない事業者たちに対しては、いまだに一切の情報が伏せられている。会議の議事録はもとより、嬉野市がモニタリングを行っている各源泉の揚湯量の情報についても、まったく共有されていない。このモニタリング事業は市の予算で行われているにもかかわらずだ。このような秘密主義に対しては、源泉を所有しない温泉事業者から批判があり、源泉所有者のなかにも情報公開が必要と考える事業者もいるが、いまだに秘密主義が貫かれる状態となっている。このことが源泉水位低下問題のみならず、嬉野温泉全体での協力体制を阻害する要因となっていることは明らかだ。
市政への秘密主義の持ち込みは嬉野市の利益にならない
村上市長は源泉を所有する嬉野市の担当者としてこの会議に出席しているが、本来、はたすべき役割はほかの事業者と大きく異なる。他の出席者は事業者として自身の利益を考えて行動せざるを得ないが、嬉野市長は嬉野市全体の利益を代表する立場として行動することができる。そこには当然、源泉を所有しない温泉事業者の利益も含まれている。
そのような立場から行動することを期待されて、当初、村上市長は会議の議長に推挙された。しかし、まったく役割をはたすことができず、むしろ一部の事業者の肩をもつような姿勢を取っているとして、議長を降ろされる事態にすらなっていた。
一連の会議のなかで村上市長は、嬉野市全体の利益のために行動した様子は見えない。むしろ25年1月の記者会見において、「源泉水位低下の原因を観光客の増加」と説明したように、源泉水位低下を招いた主な原因と、源泉所有者会議の機能不全を隠蔽する方向に動いたのである。この「観光客増加説」は、外部の要因にすることで一部の源泉所有者にとっては利益になったものの、嬉野温泉が受け入れ可能な観光客が限界に達したかのような誤ったイメージの流布は、嬉野温泉全体としてはまったくの不利益であった。
12月23日の村上市長の配湯事業引き受け会見も、その延長線上にある。配湯事業の引き受け方針を表明することは一見、配湯会社に命綱を握られた源泉を所有しない事業者の利益に沿った行動のように見えるが、これまでもたびたび述べたように、現時点での拙速な表明は嬉野市全体の利益に反する行動であり、売却主である配湯会社(源泉所有者)にとって最も都合の良い発表であるにすぎない。
このような村上市長の姿勢は、源泉所有者会議の秘密主義と同じ論理であり、嬉野温泉の一部の既得権者を守ることはあっても、決して嬉野温泉全体の利益につながることはない。源泉水位の問題を解決するうえでも、また嬉野温泉が日本一の温泉地として真に飛躍するためにも、源泉所有者会議の秘密主義を市政に持ち込もうとする姿勢は許されない。
(つづく)
【寺村朋輝】








