村上大祐嬉野市長の配湯事業引き受け表明を問う(2) 配湯会社の正体と財源論の欺瞞

配湯会社は100%民間の営利企業

 村上市長が会見を行った2025年12月23日の夕方から、複数のメディアが記事や動画で会見の内容を報道した。だが、いずれの報道でも売却を申し出た嬉野温泉配湯(株)(以下、配湯会社)については詳しく報じていない。一部メディアが「民間企業」と書いているだけだ。しかし、本件を考えるには、まず配湯会社の正体について理解する必要がある。

 この配湯会社は100%民間企業である。支配する株主は、その前身企業の時代からずっと民間人だ。地域資源である温泉の配湯というある意味、公共性がある事業を行っているため、公的資本が入っている企業だと誤解する人もいるかもしれない。たとえば、第三セクターであるとか、あるいは公営部門だったものが民営化されたものではないかとか。しかし事実は、その設立時から今日までずっと民間企業であり、純然たる営利企業である。温泉街の6割の事業者の命綱といえる温泉の供給を、100%民間の営利企業が行っていると聞けば、他所の温泉地の関係者は驚くだろう。

 このような配湯会社の重要な性格について報道では触れられなかったものの、ただ1つ、一部メディアは配湯会社について重要な情報を取り上げている。それは、配湯会社の代表が「配管の更新には莫大な費用がかかる。自社では対応できない」と述べていることだ(報道では「何十億円」となっていたが、正確な額は分からないため、ここでは「莫大な費用」としておく)。もし民間の営利企業という前提なしにこの代表の発言を聞けば、利益にならない公共サービスを担う第三セクターが営業赤字を垂れ流した挙句、設備投資に回す資金が確保できなかったパターンか、と誤解する人もいるかもしれない。

 しかし、繰り返すが、この配湯会社は100%民間の営利企業だ。前身企業は戦前から長きにわたって配湯事業を続けてきた。配湯事業は本来、利益率が高い事業だ。料金設定と中長期的な設備投資計画さえ立てれば収益構造として成り立つ事業であり、それゆえに民間事業として続けられてきた。しかし、それがなぜ、配湯会社の代表が「配管の更新には莫大な費用がかかる。自社では対応できない」と述べるような事態になってしまったのか。

前身企業の2度にわたる経営破綻

 配湯会社は、前身の嬉野温泉観光(株)(以下、温泉観光会社)が2007年に経営破綻した際に配湯事業を継承した。嬉野温泉観光(株)という名称は1963年の社名変更によるもので、それ以前は嬉野温泉(株)という名称で公衆浴場の運営と配湯事業を行ってきた。社名変更の同年、温泉観光会社は新たに嬉野温泉センターを開設し、巨大施設の運営に乗り出した。80年代にはレジャー需要の拡大にともなって嬉野温泉を訪れる観光客数も増加。嬉野温泉センターも設備投資を繰り返し、87年に「七福神の湯」、さらに91年7月には5種類のプールがある巨大屋内レジャープール「ユーリープラッツ」を開設した。投資額は40億円にのぼった。

 しかし、バブル経済がピークを超えると嬉野温泉への観光客数も減少の一途をたどった。ユーリープラッツ開設後、同社の92年7月期の売上高は11億円に上ったが当初計画を下回っており、その後も利益面は赤字で推移した。また、一時期50億円に達した巨額借り入れの金利負担も重く資金繰りが悪化。97年に温泉観光会社は和議を申請する。負債総額56億円。98年に和議が成立したが、条件は負債56億円のうち30億円について7割を免除、残り3割(9億円)を10年かけて均等分割払いするというもの。その後も温泉センターの運営を続けるが、売上高は2006年7月期に5億5,000万円程度とピーク時の半分となり、07年9月に営業を停止、翌年、温泉センターは解体された。

今後必要となる「配湯管更新費用」の実態

 温泉観光会社は1990年代の経営難以降も配湯事業を続けてきたが、問題は、配湯事業の長期継続のために必要な配湯管設備の更新を適切に行ってきたかどうかということだ。もし配湯事業の収益が不振の温泉センター事業の補填や負債の返済に充てられ、配湯事業の設備投資が後回しにされたとすれば、今後、配管の更新のために必要な費用として想定されるものには、温泉センター事業の負債が実質的に転嫁されたものが含まれていることになる。和議後の2000年代に売上高5億円程度のところに、返済条件が毎年9,000万円であったことを考えると、設備投資にまわす資金繰りの厳しさは十分想定される。

 また、先述の通り、配湯会社は温泉観光会社から配湯事業を引き継ぐかたちで2007年に設立された。一時、福岡市中央区赤坂を住所とし福岡市在住の人物を代表者としていたが、09年に現商号に変更。24年7月に現代表が取締役から昇任した。一方、温泉観光会社は清算されておらず、いまだに法人として残っている。そして両社の代表者は同じである。

 ここでも問うべきは、07年以降の配湯会社の収益が温泉観光会社の負債の支払いに実質的に充てられていなかったか、その結果、配湯会社が配湯事業の収益を基に本来行うべき配湯管の更新を置き去りにしてきたのではないかということだ。もしそうであればこの場合も、温泉センター事業の負債が、実質的に今後必要となる配管更新費用に転嫁されているに等しい。

 要するに報道では、「配湯管の更新には多額の費用が必要」と報じられたが、その更新費用とは、民間の営利企業である温泉観光会社が別事業でつくった負債の実質的な転嫁が含まれている可能性を念頭に置かねばならないということだ。

どこまでが売却対象か

 以上は配管の更新費用に絞った話だが、公費負担がこれだけで済むのはあくまでも配湯事業が無償で譲渡された場合だ。しかし当然、民間企業である売却主は無償で譲渡してくれるはずはない。

 しかも先述の通り、前身の温泉観光会社は負債を抱えて経営破綻していると思われ、ドル箱の収入源である配湯事業だけを市に売却して、残された負債を自分たちで抱えるということも考えにくい。よって売却対象となるのは配湯事業だけでなく、負債まで含めた配湯会社全体と考えるのが自然だ。

村上市長の財源論先行の引き受け構想は、誰にとって有利か

 村上市長は、28日のFacebook投稿において、配湯事業の引き受けを検討するにあたって次のような「約束」を掲げている。

村上市長のFacebookの12月28日の投稿

仮に嬉野市として事業化に取り組む場合、以上の3つをお約束します。
①国の交付金事業や有利な起債事業、民間による投資を活用していくことで市民負担を極限まで抑えること。
②温泉配湯事業で得た収益や、令和7年10月より徴収を始めた入湯税超過課税を原資に、初期投資を回収して、市の財政や市民サービスに影響は与えないこと。
③初期投資回収後は適切な維持管理を行うとともに、収益は源泉保護や観光振興に資する安定財源として用いる。使途については別途情報公開を行う。

 村上市長の「約束」は、一見すると、財政面に配慮した責任ある姿勢に見える。しかし、ここで市長が語っているのはあくまで「どうやって払うか」であり、「何に対して払うのか」「なぜ払うのか」という本質的な問いが抜け落ちている。この問いを立てないうちに「国の交付金」「有利な起債」「民間投資」という財源論だけを先行させることは、負担の性質を曖昧にしたまま、公費化だけを既定路線にすることにほかならない。

 さらに問題なのは、こうした財源論先行の姿勢が、売却主との交渉を市にとって不利にしている点だ。本来であれば、市は売却主である配湯会社に対して、過去の経緯を精査し、負債の切り分けを行い、公費で引き受けるべき範囲と、売却主側が負うべき範囲を明確にしたうえで、その条件を基に厳格な交渉を行う、というプロセスを踏むべき立場にある。

 ところが、12月23日の時点で市長が「前向きに引き受けを検討する」と公に表明したことで、交渉前に市が「買う側」として名乗りを上げたかたちになってしまった。これは交渉力の観点から見て、市にとって極めて不利な出発点だ。

 村上市長は、いったい誰の利益を代表した立場で配湯事業の引き受け姿勢を表明したのか、疑問に思わざるを得ない。

 なお、本件について当社は村上市長ならびに配湯会社に対して質問状を送付したが、期日までに回答はなかった。

(つづく)

【寺村朋輝】

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