競争より協業 職人不足への実践論

(株)イワイ工業
代表取締役社長 加納康志 氏

(株)イワイ工業 代表取締役社長 加納康志 氏

 深刻な職人不足と高齢化が影を落とす建設業界。地域インフラの維持すら危ぶまれる逆風の下で、(株)イワイ工業はこれまでの慣習を打ち破る「攻め」の経営を貫いている。経営統合による組織の強靭化、DXへの大胆な投資、SNSの活用や独自のキャラクター採用など、従来の型にはまらない戦略採用。変革の最前線を走る代表取締役社長・加納康志氏に、業界の未来を切り拓く独自の経営ビジョンを聞いた。

組織再編の背景

 ──まず、建設業界における職人不足の現状をどう見られていますか。

 加納 本当に、現場の景色が変わってしまったな……というのが率直なところですね。熟練の職人さんたちが高齢になり、現場を去っていく。それ自体は自然な流れですが、あとに続く若い力が圧倒的に足りないんです。今はどこも「案件はある。でも人がいないから断らざるを得ない」という状況になっています。この状態が続けば、私たちの生活に不可欠な道路や建物のメンテナンスさえ滞ってしまう。そのような危機感を抱いています。

 これは単なる人手不足ではなく、数十年にわたる構造的な歪みが噴き出した結果でしょう。建設業は景気の波に左右されやすく、どうしても「不安定な世界」というイメージが先行してしまいました。その負の印象が、若者たちの足を引き止めてしまった。この構造自体にメスを入れない限り、真の解決はないと考えています。

 ──どのように対応されていますか。

 加納 2023年8月、私が代表を務めていた(有)加納工務店は、(株)イワイ工業と合併しました。創業50年を迎えるイワイ工業が抱えていた「後継者不在」という課題を解決し、組織基盤を強化することが最大の目的です。M&Aの目的はまず、組織の基盤を強くすることでした。深刻な職人不足のなか、互いの力を合わせて受注基盤を固め、安定した仕事量を確保することこそが、従業員や協力会社を守る道だと確信していました。

 正直なところ、重責を感じましたが、迷っている時間はないという思いでした。18年ごろから統合の話を始めて、合併まで5年を費やしたのは、現場の「心理的融和」を最優先したからです。トップだけの合意で終わらせず、実質的な信頼関係を築くために、まずは業務提携から始め、互いの現場を行き来し、ともに働きながら関係性を築いていきました。時間はかかりましたが、その過程があったからこそ、強固な組織へと進化できたのだと思います。基盤強化により、ゼネコンからの信頼度も高まり、より安定した案件を受注できる体制が整いました。

採用戦略の転換

 ──若手採用のための施策が注目されています。

 加納 最初に取り組んだのはイメージ改革です。建設業にはびこる「きつい」「怖い」という先入観を払拭しなければ、若い世代の関心は得られません。そこで、本社が幹線道路沿いにある利点を生かし、アニメキャラクターの巨大幕を提示しました。まずは通行人の目にとまり、「何の会社だろう」と検索してもらうことが第一歩だと考えたのです。

 この取り組みは着実に効果が現れました。今の若年層は企業の理念や雰囲気を重視する傾向にあります。キャラクターやSNSでの発信を通じて社風を知ってもらうことで、実際に2名の若手採用につながりました。

(株)イワイ工業

 ──働き方の見直しも重要ですね。

 加納 当社では、建設業界では珍しい「完全週休二日制」を導入しました。ワークライフバランスを重視する若い世代にとって、長時間労働が常態化している環境のままでは、魅力ある職場にはなり得ないと考えたからです。導入当初は社内外から懸念の声もありましたが、現在では採用面における大きな強みとなっています。

 また、私はベテランと若手の「架け橋」となる世代です。だからこそ、社長と社員の壁を取り払い、誰もが自由に発言できる「風通しの良さ」を大切にしています。若手が自分らしく、安心して長く働ける。そのような心理的安全性が保たれた組織、環境づくりにこれからも全力で取り組んでいきます。

定着と生産性

 ──外国人技能実習生の受け入れについて、教えてください。

 加納 当社では現在、6名のフィリピン人スタッフが活躍していますが、実は全員が「親族」同士です。かつては他人同士で共同生活をしてもらうかたちをとっていましたが、生活のストレスから離職につながってしまった苦い経験がありました。その反省を生かし、私たちは「親族単位での採用」という新しいかたちを選びました。

 最初1人が「この会社なら安心だ」と地元の家族に伝えてくれたことから、今では現地の親族から次々と入社希望が届くようになっています。異国の地での暮らしも、親族がそばにいれば心強く、仕事へのモチベーションも自然と高まります。私たちは、彼らが心地良く過ごせるよう、一軒家をリノベーションした寮を準備しました。休日にはみんなで食卓を囲んだり、地域のイベントに参加したりと日本の暮らしを楽しんでいます。こうした取り組みの結果、定着率は飛躍的にアップしました。「次は自分も働きたい」という声が現地で広まっていることは、私たちにとって何よりの誇りです。

 ──生産性向上への投資については、いかがですか。

 加納 型枠工事には、ベニヤ板の切断や穴あけなど、手間を要する工程が多く存在します。愛媛県の工場で、数値データに基づき自動で加工を行う「NC加工機」を視察した際、「これだ」と直感し即導入を決めました。単純作業を機械に委ねることで、職人は組み立てや納まりといった、より高度な技術を要する作業に集中できます。その結果、手間単価を維持しながら、生産性を向上させることに成功しました。

 「勘」に頼る経営では、次世代の信頼は勝ち取れません。高騰する労務単価に対応するため、我々はデータ分析とDXによる変革を急いでいます。デジタル化は職人を代替するものではなく、その技術と価値を研ぎ澄ますための強力な武器なのです。

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 ──多能工化についてもお聞かせください。

 加納 現在、北九州では日本製鉄の電気炉転換や物流倉庫建設など、大規模プロジェクトが相次いでいます。当社では常に120~130%の仕事量を確保し、社員が将来に不安を感じることなく仕事に打ち込める経営を貫いています。事業領域は物流倉庫、マンション、病院、学校、住宅基礎にとどまりません。現在は港湾のテトラポット施工にも挑戦しています。「釘がボルトに変わるだけで原理は同じ」という考えの下、技術を積極的に横展開し、多能工を推進しています。

 職人不足という課題は1社で解決できるものではありません。組織の強化、採用の工夫、働き方の是正、そして「人を大切にする」姿勢。これらに加え、同業者同士の協力が不可欠です。人材は単に「雇う」ものではなく、「育て守る」もの。その意識を業界全体で共有できたとき、建設業は真に持続可能な産業へと進化できると信じています。

【内山義之】


<COMPANY INFORMATION>
(株)イワイ工業代 表:加納康志
所在地:北九州市門司区
    大字伊川1951-2
設 立:1971年6月
資本金:2,000万円
URL:https://iwai-industry.com


<プロフィール>
加納康志
(かのう・やすし)
1986年6月生まれ、福岡県北九州市出身。2005年3月、東海大学付属第五高等学校(現・東海大福岡)、09年3月に西日本工業大学を卒業後、同年4月、(有)加納工務店に入社。18年2月に代表取締役に就任。23年8月、(株)イワイ工業と合併し、代表取締役社長に就任。

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