政治経済学者 植草一秀
筆者が執筆する会員制レポート『金利・為替・株価特報』では、2026年のキーワードを「陽極まれば陰に転ず」としてきた。株価も高市内閣も「陽の極み」が謳歌される状況が生み出されてきたが、「陽の極み」に衰退の兆しが忍び込むことを見落とせない。
米国のトランプ大統領は「国際法は必要ない」と明言。米軍最高司令官としての判断について「自らの道徳観にのみ制約される」と表明した。これほど危ういことはない。
主権国家に対して一方的に軍事侵略を行い、国家元首を拉致する、暗殺する。完全なる国際法違反、国連憲章違反。国際社会は米国の暴挙を糾弾しなければならない。ところが、高市首相は米国の国際法違反、国連憲章違反を批判しない。日本は米国の植民地であるから、宗主国の行為を批判できないのだ。
米国はイランに核開発疑惑があり、イランの対応が不誠実なものであったから軍事侵略を行ったとする。現在の国際社会では核兵器が戦勝国=P5によって独占保有されている。P5以外の国は核兵器の保有を許されない。これがNPT(核拡散防止条約)体制。P5の核兵器独占保有を認め、P5以外の国の核兵器保有を認めない。完全なる不平等条約だ。
イランはP5でないから核兵器を持たせない。そのイランが核廃棄の指令に従わないから武力侵攻したという。イランに対する軍事侵略を実行したのは、米国とイスラエル。問題はイスラエル。実はイスラエルは歴然たる核兵器保有国である。イスラエルの核保有は公然の秘密。このイスラエルの核武装を容認してイランの核開発疑惑を糾弾するのはダブルスタンダード。国際法および国連憲章違反の「イランに対する軍事侵略」を日本は糾弾する必要がある。ところが、高市首相は米国の国際法および国連憲章違反を批判しない。
強大国が「力による現状変更」を遂行するときに、これを容認するなら、日本自体が強大国による「力による現状変更」の犠牲になるときに、強大国を非難できない。このことを忘れるべきでない。
日経平均株価は日本企業の利益拡大期待から59,332円の水準まで高騰した。6万円の大台も視界に入る水準にまで上昇した。しかし、米国によるイラン軍事侵略によって急落に転じている。
イランはホルムズ海峡封鎖を宣言。日本が輸入する原油の9割がホルムズ海峡経由。原油等の輸入に重大な支障が生じることになる。米国とイスラエルによるイラン軍事侵略に対してイランが反撃を始動させた。米国のトランプ大統領はイラン戦争終結に数週間の時間を要するとの見通しを表明している。
世界経済の先行きは急激に不透明化している。経済情勢の混迷を受けて内外株式市場で株価下落の反応が広がっている。日経平均先物価格は3月3日の取引で54,000円水準にまで急落。2月26日の59,332円からわずか3日間の取引で5,000円超も急落している。史上最高値から発足した高市内閣の急降下が想定を超えるスピードで進行する可能性がある。
米国のトランプ大統領は3月末に中国を訪問する予定を公表している。その前に、日本の高市首相が訪米する予定。しかし、イラン情勢の変化によっては外交日程が変更される可能性も浮上する。高市首相は訪米の際にイラン問題についても討議するとしているが、発言の幅は限定される。米国の行動をいさめることは不可能。米国の行動に対する賛意の表明を強要されるだけだ。
中国はイラン戦争にもウクライナ戦争にも関与しない姿勢を貫くが、国際法と国連憲章に基づく自制的行動を諸外国に呼びかけている。米国の国際法無視、国連憲章違反の横暴に対して中国は毅然とした姿勢で批判の論評を示している。
中国は大国であるから米国に対しても「非を非」と指摘できる。日本は大国でなく、米国への従属国=植民地であるため、米国を批判することが許されない。2022年2月にロシアがウクライナでの特別軍事作戦を始動させたときは、日本政府が国際法違反、国連憲章違反だとして非難したが、米国の横暴・暴走に対しては何も言わない。言えない。
日本政府は中国に対して1972年の日中共同声明発出時に最重要の合意を明示した。第一は中華人民共和国が中国を代表する唯一の合法政府であること。第二は台湾が中華人民共和国に返還されること、この二つを日本政府は認めた。その見返りとして日本は中国に対する賠償責任を免除された。同時に、日中間のすべての問題を平和的手段で解決し、武力および武力による威嚇に訴えないことを両国政府が確認した。
ところが、高市首相は昨年11月7日の国会答弁で、台湾有事が戦艦を用い、武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得るケースと述べた。台湾の独立をめぐり、米中間で武力衝突が生じた場合、日本は米軍と共に中国との戦争状態に入ることを述べた。この発言はこれまでの日中間の外交的積み重ねを根底から破壊するもの。中国政府が激怒して日本に対する厳しい対応を示している。
このことは日本経済に重大な影響を与える。二つの重要問題がある。中国・香港からの訪日客激減とレアアースの不足だ。
訪日外国人の約3割が中国および香港からの来訪者。訪日外国人の消費が年間約10兆円ある。その3割が消滅すると3兆円の消費が消滅する。3兆円は日本のGDPの約0.5%。1994年以降の日本経済の実質GDP成長率は平均値で0.6%。3兆円の消滅は日本の成長率がほぼ完全にゼロになることを意味する。
また、日本の重要産業にとってレアアースは必要不可欠の財である。そのレアアースの9割以上を中国に依存している。中国からのレアアース供給が途絶えれば日本経済は甚大な打撃を受ける。
中東戦争激化で原油価格が急騰すれば日本の消費者は深刻な打撃を受ける。イラン戦争勃発によって日本株価に大きな影響が広がっているのはこのためだ。
トランプ大統領は拡大するエプスタイン疑惑を後退させるためにイラン戦争に踏み切ったと見られている。しかし、米国世論はトランプ大統領の対イラン軍事侵略を肯定的に受け止めていない。イラン戦争でエプスタイン疑惑が消滅することも考えられない。
国家のトップが「我が世の春」を謳歌してきた内外情勢は風雲急を告げている。高市自民は衆院選で大勝したが、圧倒的多数議席を確保した最大の要因は「選挙制度マジック」。自民は他党に流れた議席を含めれば330議席を獲得したが、比例代表得票率で算出される議席数は171に過ぎない。高市首相が多数議席にあぐらをかくなら、凋落は時間の問題になるだろう。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
ブ ロ グ「植草一秀の『知られざる真実』」
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」








