西部ガスHD研究(5)揺れるグループ会社・九州八重洲(まとめ編)

ありきで進められた新社名選考

 九州八重洲は1977年設立の「九州八重洲興業(株)」を直接のルーツとし、2027年に50周年を迎える。そのため、同社では社名変更へ向けて動いているのだが、実はすでに決定しており、「西部ガスグループ」を強くイメージさせるものとなる。そんな旨が告発文書には記載されている。この新社名決定の過程が、一連の混乱の原因を象徴しているように思われる。

 告発文書によると、新社名決定の過程は以下のようなイメージだったのだという。社内公募を行ったが、あらかじめ用意された候補のなかから選ぶ形式で、上層部で決定済みの社名に誘導されるようになっており、社員らの意見を反映するものではなかった。

 では、なぜ上層部はこのような社名決定の手法をとったのか。そこには縮小局面にある住宅市場にあって、ブランディングの強化を図りたいという思惑があったからだ。厳しさを増す事業環境にあって、知名度が高いグループ名を冠する新社名とすることは、消費者の関心や信頼を得るのに効果があるとの考えからだ。

 園田社長へのインタビューでは、従来の「売建」主体から「建売」への軸足変更の話があった。前者は注文住宅の手法で顧客の要望を反映させるため営業効率の面で難があるが満足度は高くなる。後者はあらかじめ人気のある仕様や設備を盛り込むことで、営業効率とコストパフォーマンスが高くなるが、競合が多く価格競争がより厳しさを増すというリスクがある。

 社名変更は、その対処法の1つとして重視されたのだが、プロパー社員たちの捉え方は複雑。ブランディング強化は大事だが、そこに注力するあまり、これまで培ってきた強みを疎かにし、失おうとしているのではないか、と映ったわけだ。八重洲の名前に親しみと誇りをもって働いていた告発者が伝えようとしているのは、そうした想いだろう。

 社名変更はあくまで1つの事例だが、社員の十分な理解と共感を得られない上層部によるそうした施策が、事業のあちらこちらに混乱を招いているのはたしかなようだ。たとえば、文書で懸念されていたことの1つに、良質な住まいを提供するのに欠かせない施工体制への影響がある。退職者には施工監理者や自社大工もいたという。

社内の風通しの悪さを改善できるか

 そこで、文書内容の信憑性を確認するため、ある施工協力会社の関係者に話を聞いたところ、次のような旨を話していた。「親しく仕事をしてきた社員の方々が退職されたことで、作業の段取りがうまく進まないなど、私たちの業務にも少なからず影響が出てきています。長くお付き合いさせていただいてきた会社ですし、今後も継続して仕事をしていきたいと考えていますから、若い退職者が多い状況も含め今後について心配して見ています」。

 住宅会社にとって、協力会社を含む施工体制は供給する住宅の品質、顧客満足度に関わる屋台骨と言っていい、最も重視されるべきものだ。だから、住宅事業者間では今、優秀な施工人員・協力会社の確保に躍起になっている。ブランディング強化の大切さは否定しないが、その一方で強みとしていた施工力に悪影響がおよぶのは好ましいことではない。なお、内部文書ではその他業務についても似たような状況を懸念する記述があった。

 九州八重洲の混乱は社内のコミュニケーション不足、風通しの悪さであることは明らかだ。ではなぜそうなってしまったのだろうか。それは、西部ガスHDから派遣された園田社長以下の経営陣と、プロパー社員が違う方向を向いていたからに他ならない。親会社出身の経営者とプロパー社員の意思疎通がうまくいかないことはよくあることで、それは「大企業病」の1つと言ってもいいだろう。

 今回の一連の記事が園田社長をはじめとする上層部、社員、そしてホールディングスの関係者が、九州八重洲の持続的な存続、発展につながる契機になれば幸いだ。前述のように現状を心配する協力会社、信頼して住まい購入をした既存顧客もいる。できれば幅広いステークホルダーを巻き込んだ議論になればなお良いだろう。

 次回以降はとくにM&Aにより傘下入りした企業を中心に、西部ガスHD(株)傘下の企業、さらには西部ガスHD全体の現状について見ていきたい。

【特別取材班】

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