中国は26年GDP成長率目標をなぜ引き下げたか

中国経済新聞 2026年3月号掲載記事にデータ・マックスで編集を行ったものです。

イメージ

    3月5日、中国国務院の李強首相は第14期全国人民代表大会(全人代)第4回会議での政府活動報告で、2026年の国内総生産(GDP)成長率目標を4.5~5%とし、「実際の活動でより良い結果を求めて努力する」と強調した。この数値は、過去3年間続いていた「5%前後」から0.5%ポイントの引き下げとなり、年間の経済成長目標を定めた1991年以降では初めて5%を下回った(コロナ禍で目標を定めなかった2020年を除く)。決して急な修正措置ではなく、国内外の経済情勢や長期的な成長計画、質の高い発展を踏まえた中国政府の慎重な意思決定である。

 中国経済はコロナ禍からの回復をたどった過去3年間、5%前後の成長率を維持し、2025年も実質成長率5%でGDP総額は140兆元(約3,239兆円)となった。そこへ「第15次5カ年計画」(2026~30年)スタートの年に成長目標を引き下げた。これは中国が今、スピードの追求から質の高い発展や持続可能性の追求へと路線転換し、資源の枯渇を避けるという明確なシグナルの発信である。今回は目標値に広がりを持たせており(2016年の6.5%~7%、2019年の6%~6.5%に次ぐ3度目)、政策の柔軟さや実務的な姿勢が示されている。本稿では、目標値を引き下げた理由を戦略的な計画や国内外の環境、改革への必要性、リスクコントロール、潜在力などさまざまな次元から分析し、こうした決定への深い論理性を明らかにしていく。

 中国政府がGDP成長目標を引き下げた一番の理由は、長期的な成長計画に合わせるためであり、特に2035年までの長期目標に沿ったものである。中国共産党第19回五中全会や「第14次5カ年計画」(2021~25年)によると、2035年までに1人あたりGDPを2020年の2倍とし、中所得国並み(2万ドル以上)とする方針である。この計算でいくと、「第15次5カ年計画」および「第16次5カ年計画」(2031~35年)の間はGDP成長率を年平均4.17%以上で維持しなければならない。4.5%~5%とはまさにこのラインの上であり、最低限を維持しつつゆとりを残し、スピードを求めすぎて資源の誤配分をしないようにするものである。

 報告で李強首相は、この目標について「2035年までの長期目標と概ね一致させたもので、中国経済の長期的な成長力にはほぼ見合っている」と明言した。中国人民大学重陽金融研究院の上級研究員である董少鵬氏は、こうした目標修正について、「現在の経済基盤や人口の減少といった要因を踏まえ、短期計画と中長期の流れの実務を結びつけた結果だ」と分析している。仮に5%以上という高水準を維持するとなると、地方政府が非効率な投資やデータの水増しに走ってしまい、これでは質の高い発展という原則に反する。逆に0.5%ポイント引き下げて、「第15次5カ年計画」の1年目における基礎固めへゆとりを持たせるわけである。

 また今回の目標は「安定の中で前進」という基調の現れである。2025年末の中央経済工作会議では、「安定の中で前進し質や効率を上げる」と強調していた。目標の引き下げは消極的なものではなく、息切れしないための理性的な回答である。清華大学中国発展計画研究院の董煜常務副院長は、「4.5%〜5%とは『跳べば上に届き、歩みを落ち着かせる』もので、今後のさらなる成長への基礎固めだ」と指摘する。この数値は主要国のなかでは上位に入り、潜在力があることをアピールするものという。

 目標値引き下げのもう1つの大きな理由は、国内外における経済環境の大きな変化である。世界では地政学的な衝突が広がり、保護貿易主義が台頭し、多国間主義が危うくなっている。輸出大国である中国は、アメリカとイスラエルによるイランへの軍事攻撃で貿易ルートであるホルムズ海峡の航行が滞り、エネルギーの輸入に支障が出るなど、深刻な外的圧力を受けている。アメリカの関税政策や技術の輸出規制が続き、世界経済の回復が進まない。ムーディーズは、外的な不透明性が高まっているなか、目標値の引き下げは国内外の二重の課題を抱えていることの表れだ、と分析する。

 国内的には、構造的な問題が現れている。長引く不動産の不景気で地価が下がり、消費者の期待感や支出が伸びない。若者層の高い失業率で内需がさらに冷え込み、また高齢化が加速して労働力が減少し、潜在的な成長率も落ち込んでいく。S&Pグローバル・レーティングス・アジア太平洋地域のチーフエコノミスト、ルイス・クイス氏は、「経済規模が拡大することで生産率の引き上げが難しくなり、成長が鈍化する」と述べている。また董少鵬氏は、貿易環境や国内の成長要因の変化が引き下げの主因だと指摘する。

 このほか、生産過剰や「つぶし合い」も加速している。すべての業種で利益率が伸びず、企業は生産を増やすが利益は減っていく。地方政府は財政がひっ迫し、債務問題を抱えている。シャンソン・キャピタルの執行取締役・沈萌氏は、「今年の目標引き下げは経済構造の問題を反映したもので、高い目標を達成できる地方が少なくなっている」と分析する。地方の議会を見ると、15の省が「より良い結果を目指す」と強調し、7地域が目標値に広がりを設けており、中国全体で加重平均すれば成長率約5%となるが、現実を踏まえ引き下げている。こうした要因が重なって「5%以上を維持」は困難となり、0.5%ポイント引き下げは実務的な選択である。

 目標引き下げの中心的な論理は、質の高い経済成長の推進である。中国経済はすでにスピードではなく質を求める段階に突入しており、製造業やインフラへの投資に依存したかたちは長続きしない。政府活動報告では、「経済は質の有効な引き上げと量の合理的な成長をはたす」と強調している。成長率の引き下げは構造的なゆとりを生み、「スピード至上主義」からAI、半導体など新たな質の生産力を育てるかたちへ修正するためである。

 中国の就業問題が拡大しているなか、都市部の失業率5.5%前後、新規雇用者数1,200万人以上という目標を掲げており、GDP引き下げは雇用の安定につながる。


中国経済新聞を読もう

<連絡先>
(株)アジア通信社
所在地:〒107-0052 東京都港区赤坂9-1-7
TEL:03-5413-7010
FAX:03-5413-0308
E-mail:edit@chinanews.jp
URL:https://chinanews.jp

関連キーワード

関連記事