復興を超えて飛躍のフェーズへ
TSMC進出のインパクト
熊本地震から5年が経過し、震災からの復旧・復興が一段落し始めたあたりから、熊本都市圏を中心とした熊本県内は、復旧・復興を超えた次なる飛躍のフェーズに入っていく。その契機となったのは、世界最大の半導体受託製造企業であるTSMC(台湾積体電路製造)の熊本進出だ。
21年11月、TSMCが熊本に工場を新設すると正式に発表した。その建設場所は、熊本県菊陽町の北東部に位置する工業団地「セミコンテクノパーク」の南側に隣接する一角で、大津町との町境に位置するほか、合志市との町境も近い場所だ。同工場の建設は22年4月に開始され、一時は現場の作業員5,000人体制で昼夜問わず工事が進行。23年末に竣工を迎え、24年2月には開所式が行われた。完成した同工場の運営を手がけるのは、TSMCの日本子会社であるJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(株))。すでに稼働しており、24年末から本格出荷を行っている。
さらに、24年2月には、TSMCが日本での第二工場を熊本県内に建設すると正式に発表した。第二工場の建設地については、当初ははっきりと明言されていなかったが、やがて第一工場の東側隣接地だと判明。24年6月から同地での造成工事が開始され、一時は中断したものの現在は工事が再開されており、26年末までの完了予定で造成が進んでいる。
さて、この世界的な半導体企業であるTSMCの進出は、立地する菊陽町のみならず、周辺の熊本都市圏、さらには熊本県内や九州全域にまで、多大な影響を与えている。まず、TSMCが立地する菊陽町を含めた周辺では、土地の取得合戦と開発合戦がさらに過熱。一帯では工業地だけでなく商業地や住宅地でも地価が高い上昇率を示すなど、さながら“TSMCバブル”といった様相を呈している。
TSMCの進出が決定して以降、25年末までに計70社の半導体関連企業が熊本県との立地協定を締結したとされており、周辺エリアや熊本県内では半導体関連企業などの集積が進んでいる。さらに、そうした進出企業の受け皿となる工業団地の整備も進行。たとえば大和ハウス工業(株)(大阪市北区)は23年12月、益城町のくまもと臨空テクノパーク内において工業団地「D-Project Industry シリコンヒルズ熊本」の開発工事に着手。同工業団地の造成工事は24年5月に完了している。
熊本市は23年9月、半導体関連産業の集積に向けて市内3カ所・計約48haの産業用地を整備する旨を発表し、それぞれの産業用地整備事業に係る協定を(株)林倉庫(福岡県久留米市)、(株)ジョイント(熊本県菊陽町)、福岡地所(株)(福岡市博多区)と締結した。整備された用地には半導体関連企業や倉庫などが入る予定で、協定を結んだ3社がそれぞれ企業誘致も行うほか、協定には産業用地の整備や企業の誘致がスムーズに進むよう、熊本市が3社に対して支援を行うことなどが盛り込まれている。
合志市では、24年12月から市営工業団地「東部工業団地」の整備に着手。同工業団地は、TSMC第一工場をはじめ半導体関連企業が集積するセミコンテクノパークに隣接する約11.0haを整備するもので、2区画に分譲。すでに今年2月までに造成工事は完了しており、3月末までには立地候補企業が決定する見込みだ。
大津町でも現在、新たな工業団地の整備を検討中だ。場所は国道325号にも近い大津町杉水地区の約9.8haで、将来的には中九州横断道路(大津熊本道路)の(仮称)大津西ICがすぐ近くに設けられる予定。半導体関連企業の誘致を想定しており、今夏ごろには造成工事に着手したい意向だ。
新たな工業団地の計画が
さらに、TSMCの第一工場・第二工場が立地する菊陽町でも現在、さらに新たな工業団地の整備が計画されている。場所は、第一工場・第二工場から道路を挟んですぐ南側の約24.2haで、今後は地権者との交渉を進めながら必要な許認可を取得し、31年度の分譲開始を目指している。「この新たな工業団地の用途は、半導体関連産業を想定しています。もしTSMCが第三工場を熊本県内に計画するのであれば、その適地となり得る場所ですが、町としてはTSMC以外の半導体関連企業の進出や誘致も想定しながら、整備を進めていく方針です」(菊陽町半導体産業支援室)。
熊本県内の周辺エリアでは、ほかにも工業団地の整備計画が複数進行している。どの自治体もTSMC進出にともなう好影響を取り込もうと、半導体関連企業進出のための受け皿の拡充に余念がないようだ。
菊陽町・大津町では
新たな開発が続々進行中
こうしてTSMC進出にともない新たな工業団地などの開発も進むなか、周辺ではTSMCを含めた台湾からの移住者の増加などで、居住ニーズも増加している。
まず、TSMCの第一工場・第二工場が立地する菊陽町は、もともと熊本市のベッドタウンとして、光の森エリアを中心に住宅地として高い人気を誇っていた。だが、「ここ2~3年で町内の外国人が500人ほど増加しており、そのほとんどは台湾人です」(菊陽町半導体産業支援室)というように、TSMCの従業員用などでさらに居住地としての人気が高まっており、とくに台湾からの移住者が増えているようだ。だが、菊陽町では幹線道路から少し入ると途端に一面の農地が広がるなど、町内の大部分が市街化調整区域であり、農業振興地域(農振)がかかっているところも多い。市街化区域は町西部の国道57号沿いなどの限られた部分のみで、町全体の約15%にしか過ぎず、新たな住民を受け入れる住宅の捻出がなかなか難しい状況にある。
こうした状況を打破すべく、菊陽町では開発可能な土地を新たに捻出し、受け皿を拡充していく取り組みに注力している。たとえばJR原水駅から南に約200mの距離にある元農地では、新たな住宅地の開発が進行。住友林業(株)による分譲住宅地「フォレストリータウン原水駅南」(全143区画)として開発され、現在、新たな住宅が次々と誕生している。
さらにJR原水駅の北西側、JR線路より北側の約70haという広大なエリアでは現在、「(仮称)原水駅周辺土地区画整理事業」として大規模な土地区画整理が行われようとしている。同区画整理事業は、菊陽町における人口増加の新たな受け皿や、職住近接に対応した市街地の整備、交流・にぎわい拠点および交通結節拠点としての都市機能を備えたまちづくりを目指して行われるもの。24年11月には、三井不動産(株)を代表とし、九州旅客鉄道(株)(JR九州)を構成企業とするコンソーシアムが、同区画整理事業に関する将来ビジョン具体化に向けた事業検討パートナーに選定された。さらに今年3月16日、菊陽町は熊本大学と「知の集積の推進に向けた地域連携に関する協定」を締結した。同協定は、原水駅周辺土地区画整理事業に係る「知の集積」において、地域の発展、人材育成および学術研究の充実を図ることを目的としたもので、菊陽町と熊本大学とが協力しながら、大学や企業の研究・サテライト施設の誘致などを進めていく予定だ。
同区画整理事業が進むエリアにおいては、JRの新駅設置の計画も進んでいる。新駅は、JR豊肥本線・三里木~原水間での設置が予定されている。ホームや鉄道路線等の鉄道施設のほか、交通広場や交流施設等の周辺施設も整備する方針で、23年12月に菊陽町とJR九州とで新駅設置に関する覚書を締結。新駅の開業目標時期は27年春を予定している。
なお、菊陽町内ではこの区画整理事業のほかにも、主に国道57号沿いやJR光の森駅の周辺で、新たなマンション開発が相次いでいる。
菊陽町の東側に隣接する大津町でも、TSMC進出による好影響を取り込もうと、新たな開発が進んでいる。たとえば、JR肥後大津駅からも近い国道57号・大津バイパス沿いでは、TSMC進出以降に地場不動産会社の(株)アズマシティ開発(熊本市東区)や(株)明和不動産(熊本市中央区)などが複数棟の賃貸マンションを開発。一時は供給が落ち着いていたものの、TSMCの第二工場の工事再開を受けて、再び開発が活発化しつつある気配だ。
さらに大津町引水では、(株)サンケイビル(東京都千代田区)が大規模複合開発プロジェクト「Grand'X 大津熊本」に着手した。同プロジェクトの第1弾となる大規模賃貸レジデンス開発事業「(仮称)熊本大津B区画建築工事」は、サンケイビルと(株)長谷工不動産による賃貸レジデンスで、RC造・地上14階建の全619戸を予定。施工は、サンコービルド・江藤産業・肥後木村組JVが担当し、竣工は28年12月を予定している。
なお、JR肥後大津駅は、将来的に整備される熊本空港アクセス鉄道への分岐駅にもなる予定となっている。肥後大津駅から熊本空港の間には、中間駅の設置も検討されているといい、町内に中間駅が設置されるとなれば、大津町での開発にもさらに弾みが付きそうだ。そのJR肥後大津駅の至近地では現在、JR九州による新たなオフィスビル「肥後大津オフィスビル(仮称)」の開発も進んでいる。同オフィスビルの建物はS造・地上7階建で、延床面積は約9,212m2。施工は大和ハウス工業(株)が担当し、27年春の竣工を予定している。
さらに合志市でも、「合志みなみプレイス」や「クレストタウンかすみヶ丘」などの新たな住宅地の開発が相次いでいる。それぞれの周辺自治体では、TSMC進出にともなう居住ニーズの増加を受け止めようと画策している模様だ。
(つづく)
【坂田憲治】

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