熊本県知事 木村敬 氏

震災を教訓に「防災先進県」へ
──熊本地震の発生から10年を迎えます。この10年を振り返ってはいかがですか。
木村 10年前の私は、総務省から熊本県に出向し、県の総務部長を務めていました。実はちょうど任期を終え、4月19日付で東京に戻る予定だったのですが、4月14日と16日の地震の発生を受けて、そのまま熊本にとどまる決断をし、寝る間も惜しんで応急対応に全力で当たったのが、当時の状況でした。この地震では、災害関連死も含めて270名を超える方々の尊い命が失われました。そのご遺族など、残された方々の悲しみに向き<有料区切り>合いながら復興に当たってきたことが、政治家としての私の原点となっています。
この10年を振り返れば、全国から多くのご支援をいただきながら、県民の皆が一丸となって懸命に頑張ってきた、そんな10年だったと思います。当時の蒲島郁夫知事は、震災後すぐに「被災者の痛みを最小化すること」「単に元あった姿に戻すだけではない創造的な復興を目指すこと」「復旧・復興を熊本のさらなる発展につなげること」の3つからなる「復旧・復興の3原則」を打ち出されました。私自身は当初、「そんな高い目標を、本当に達成できるのか」とやや懐疑的でしたが、県民の皆が頑張って復旧・復興に取り組み、その後のTSMCの進出まで含めて考えれば、「地震の前より良い熊本にする」という大きな目標は概ね達成できたのではないかと思います。
一方で、ご家族を亡くされた方々の心の痛みや悲しみには、引き続き寄り添い続けていかなければなりませんが、やはり時間の経過とともに、少しずつ震災の記憶も薄れてきてしまいます。そこで今年は震災から10年を契機として「防災先進県」を目指すべく、これまでの10年間の歩みや行動を振り返りながら、県としての防災力を高めていきたいと思います。
今後、南海トラフ巨大地震が起きた際、太平洋側でない熊本は比較的被害が少ないと言われていますので、いざというときには、東九州を支援するための「出撃拠点」にならなければなりません。そのためにも現在、宮崎県や大分県も含めた広域での訓練を、熊本県が主導しながら実施しているところです。
良好な農工業のバランス
──現在の熊本県の強みやポテンシャル、また抱える課題については、いかがですか。
木村 まず熊本県のポテンシャルについては、九州全体のポテンシャルと言い換えてもいいでしょう。その最大の強みは、東アジアに開かれている地理的優位性です。東京を基準として見れば、九州・熊本は西の端ですが、世界地図で見れば上海や台北、ソウルといった東アジアの主要都市を1,000km圏内に収める中心地です。この地政学的な優位性を生かし、世界から人を呼び込み、海外へ打って出る「開かれた熊本」でありたいと考えています。
また熊本県は、農業と工業のバランスが極めて良いことも強みです。熊本県の農業産出額は全国6位で、私はよく「クレヨンの全色がそろう」とたとえるのですが、赤はトマト、オレンジはデコポン、白は西日本最大の産地である牛乳、黒は有明海の海苔など、実に多彩な農林畜水産物を誇っています。工業に目を向ければ、三菱電機(株)が現在の合志市で半導体工場の操業を開始して、来年2027年で60年になります。この約60年にわたる半導体産業の蓄積によって、現在のようなTSMC進出以前から、県内には強固なサプライチェーンがすでに存在しています。
一方で課題については、これは日本全国で共通のものですが、本県においても少子高齢化および人口減少が最大の課題です。また、局所的な話では、熊本都市圏の交通渋滞は三大都市圏を除いた政令指定都市のなかでワースト1といわれるほど深刻で、この渋滞解消も喫緊の課題の1つです。あとは、「令和2年7月豪雨」で被災した球磨川流域など、地域によっては大規模自然災害からの復旧・復興が道半ばのところもありますので、こちらも早期の解決を目指しています。
未来型産業の創出へ
──現在、TSMCの進出で熊本県内、とくに熊本都市圏が活気づいていますが、この効果をどのように県内全域に波及させていきますか。
木村 実はTSMC進出による好影響は、工場の立地する菊陽町周辺だけでなく、県内各地に波及し始めています。たとえば人吉市では半導体関連企業の増設があり、求人数が劇的に増えています。インバウンドも好調で、天草には1泊10万円を超えるようなハイクラスホテルが誕生し、熊本市内のホテルも高価格帯から埋まっていくような状況です。熊本県の名目GDP(県内総生産)は来年度、ついに7兆円に届く見込みで、全国平均を上回る成長を続けています。熊本空港の国際線も、地方空港としてはトップクラスの路線数・便数になっています。しかし、TSMCでつくられた半導体が、そのまま海外へ輸出されるだけでは、日本に付加価値が残りません。今、日本に足りないのは、世界に打って出る「メイド・イン・ジャパン」の製品やサービスです。
そこで私は「くまもとサイエンスパーク構想」を提唱しています。産学官が連携してイノベーションを起こし、最先端の半導体を使ったAIやロボット、自動走行、遠隔診療といった、次の世代につながる未来型の産業を、この熊本で生み出していく。そのための道筋は整ったと確信しています。
──経済の活性化にともない、交通インフラの整備も急務となっています。
木村 これまで熊本県は、九州自動車道や九州新幹線などの南北の移動軸は整っていましたが、東西の移動軸が弱いのがネックでした。現在は、国の協力の下、中九州横断道路や九州中央自動車道の整備を、これまでにない異例のスピードで進めています。
また、先ほど述べた熊本都市圏の渋滞解消に向けては、政令市である熊本市とも密に連携しながら、新たな高規格道路の整備を含めた「10分・20分構想」の実現に向けて注力しています。多くの県民が早期実現を望んでいますので、26年度の早い段階で具体的なルートを提示し、調査および検討を加速させていきます。空港アクセス鉄道については、JR豊肥本線の肥後大津駅から空港までの約7kmを第3セクター方式で整備します。こちらも27年度の整備着手に向けて、26年度中には鉄道事業の許可申請を行う予定です。
県民が主体となる県に
──最後に、木村知事が目指されている熊本県の将来像についてお聞かせください。
木村 私が県政のキーワードとして掲げているのは、「世界に広がる」「人を育てる」「共に創る」の3つです。世界のサプライチェーンの中心地を目指し、外国の方々も含めた共生社会を実現していくとともに、熊本で生まれた子どもたちの教育水準を高め、生きる力を育んでもらいながら、UターンやIターンなどの受け入れ態勢を整え、多様な人材が活躍できる熊本をつくっていきます。そして、行政がすべてを行うのではなく、県民の主体性を促しながら、県民と一緒になって県政を進めていくような、健全な民主主義を実現していきたいと考えています。
「世界に広がり、人を育て、共に創る」ことで、熊本を日本一の理想の郷土にしていきたい――。そのポテンシャルがこの熊本県にはあると、私は信じています。
【坂田憲治】
<プロフィール>
木村敬(きむら・たかし)
1974年5月、東京都出身。99年に東京大学法学部を卒業後、自治省(現・総務省)に入省。鳥取県企画部協働推進室長や文化観光局観光課長を経て、12年からは熊本県に出向し、商工政策課長や総務部政策審議監、総務部長などを歴任。20年10月から熊本県副知事を務め、24年4月に熊本県知事に就任した。現在1期目。

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