飯塚市の「駅前再編×企業誘致×人材育成」

 炭鉱都市として栄え、時代の流れとともに人口減少や中心市街地の衰退といった課題に直面してきた飯塚市。同市では現在、JR飯塚駅周辺に象徴される都市基盤整備、製造業や物流業を中心とした企業誘致、そして大学と連携した人材育成、これら3つの取り組みを同時に進める「三位一体のまちづくり」が動き出した。

飯塚駅東口側完成イメージ
飯塚駅東口側完成イメージ

三位一体のまちづくり

 飯塚市の「三位一体のまちづくり」の原点は、2010年4月策定の「都市計画マスタープラン」に遡り、18年の部分改訂、22年の改訂版を経て、現在の施策へ継承されている。

 このプランが目指したのは、「駅やバスターミナルを中心とした都市構造の再編」「産業集積の維持・拡大」「人材育成と地域定着」。かつて炭鉱都市として繁栄した飯塚は、炭鉱閉山後に人口減少と都市の空洞化に直面した。マスタープランは、こうした構造的課題に長期的視点で対応し、駅周辺などを核にした都市の再生、工業団地を軸にした産業集積、大学や教育機関と連携した人材の循環という三位一体のシナリオを描いた。

 最も目に見えるかたちで進むのが、飯塚駅周辺地区整備である。26年度の完成を目指し、東西自由通路や駅前広場、ロータリーの整備が進む。25年8月2日から東口新駅舎が供用開始され、これまで「駅裏」と呼ばれた東口は新しい玄関口に生まれ変わった。駅周辺では複数のマンション開発が動き出し、ゆめタウン飯塚の開業とともに活気を取り戻している。

 産業面では、23の工業団地をもちながらも用地不足が慢性化していた。マスタープランは産業の持続性を視野に入れ、工業用地の確保と企業誘致の制度整備を柱に据えた。24年には企業立地促進補助金が改正され、最大8億円までの支援が可能となった。沢井製薬(株)の新工場増設や(株)岡崎製作所の進出は、その延長線上にある成果である。

 人材育成も、マスタープランが示した重要なテーマである。その具体化の1つが24年1月の三者協定(立命館アジア太平洋大学・九州工業大学・飯塚市)で、理工教育と多文化教育を組み合わせ、市が地域課題の実証フィールドを提供する仕組みだ。

駅前にマンション集積

飯塚駅周辺地区マンション開発状況
飯塚駅周辺地区マンション開発状況

 飯塚駅の周辺は、22年に基本計画が策定されて以降、新しい建物が次々と計画され、街並みは刷新されつつある。27年6月までにマンション5棟・計222戸が完成予定で、福岡市中心部の価格高騰を背景に、住宅需要は確実に流入している。

 これまでのマンション購入者の多くは市内転居だったが、1~2割は市外からの転入である。とくに福岡市圏からの流入が目立ち、博多駅まで快速で約45~50分という利便性が魅力となっている。「福岡市内では買えないが、飯塚ならファミリータイプが手に入る」といった声が、子育て世帯の移住意欲を後押ししている。

 商業面でも変化がある。駅からゆめタウン飯塚へ向かう旧商店街では、新規テナント募集が進み、若手経営者の出店が模索されている。市は周遊バス「まちなかおかいものゴー」を導入し、駅・商店街・大型商業施設を結ぶ動線を形成。高齢者や学生にとって利便性が増し、商店街も「通過点」から「滞在の場」へと変わりつつある。

 飯塚駅前の市有地約1,000m2も動向が注目される。現在は臨時の送迎車用乗降場が設置されているが、整備完了後は民間活用が予定されており、マンションか商業施設かによって景観は大きく変わるだろう。

民間投資を行政が後押し

 中心市街地が変わる一方、周辺地域では産業基盤の課題が進行している。飯塚市内には23の工業団地に約160社が操業するが、24団地目となる栗尾工業団地の整備でも、空き区画は僅少である。企業からの問い合わせは続いているものの、受け皿不足で市外流出の懸念があり、既存企業も増設用地を求めて移転を検討する動きが出ている。雇用と税収の流出を防ぐことが、飯塚市にとっても喫緊の課題となっている。

 対応策として、市は補助金を大胆に拡充。24年4月改正の企業立地促進補助金は、投資規模や雇用に応じ最大8億円まで支援可能となり、従来の1.2億円から大幅に引き上げた。行政が直接投資するのではなく、民間のリスクマネーを引き出す強力なインセンティブである。沢井製薬が新工場を増設し約500名を雇用したほか、岡崎製作所などの進出も続くなど、一定の成果も現れている。企業誘致の最大の意義は、若者定着である。働く場なくして、住宅・商業整備だけでは流出を防げないが、将来像を描ける雇用があれば地域に根づく可能性は高まる。厚生労働省委託の地域雇用活性化推進事業も、この発想に基づく。

 市は「行政は環境整備、実行は民間」との将来像を推進するため、官民協働で臨む。飯塚市の企業誘致は、官主導から民間主導・行政後押しへ転換しようとしている。

産学官で人材育成基盤

飯塚駅
飯塚駅

    飯塚市には九州工業大学飯塚キャンパス、近畿大学産業理工学部、近畿大学九州短期大学が集積し、4,000人以上の学生が学ぶ。こうした教育基盤は、都市の持続性を左右する重要な資産である。この力を最大限に生かすため、24年1月にAPU(立命館アジア太平洋大学)・九州工業大学・飯塚市による三者協定が結ばれた。狙いは「科学技術×経営マインド×グローバル視点」を備えた人材の育成と定着であり、市は課題提供と実証フィールドの役割を担う。

 九州工業大学のマイクロ化総合技術センターは、LSIやMEMSの設計から製造・評価まで一貫した教育を可能とし、半導体人材育成や社会人リスキリングの拠点として機能している。近畿大学産業理工学部も24年度から半導体エレクトロニクス教育を強化し、TSMC熊本の稼働を背景に拡大する需要に応えている。

 学生は市内企業と連携し、販路開拓や建造物利活用などの課題解決に挑む。市内企業のホームページ制作に携わった学生が、そのまま入社する事例も生まれた。デジタル分野でも、市と九工大、SAPジャパン(株)、(株)テクノスジャパンが連携し、ERPシミュレーションを活用した経営教育を小中高大で展開。24年9月には市職員と学生が合同演習に参加し、実務感覚を共有した。こうした取り組みは、オンライン勤務推進やUIJターン施策と組み合わせ、大学卒業者の地域定着を促す布石となっている。

 さらに市は、外国人材の受け入れにも力を注ぐ。市内には技能実習・特定技能者等の外国人材約930人が在籍しており、外国人材の生活および就業環境等の整備に取り組む企業に対しては、最大30万円の補助金を交付。日本語教室や相談窓口も整備され、月20~30件の相談に応じている。国際交流推進協議会では、文化体験や多国籍料理バザーを開催し、地域行事への外国人参加も広がっている。

 一方、先端技術分野では民間主導の動きが目立つ。市は21年に「ブロックチェーン推進宣言」を発表したが、実装の主役は民間企業である。(株)カグヤ、(株)chaintope、(株)ハウインターナショナルが中心となり、幸袋地区で「ブロックチェーンストリート構想」を進めている。古民家群をコワーキングスペースや宿泊施設として再生し、国内外のエンジニアや企業が交流・連携できる環境を整える。行政も趣旨に賛同し、ブロックチェーン技術の研究拠点の確立に向けて、産学官の連携を強めている。

【児玉崇】

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)

ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)

法人名

関連記事