熊本震災10年、攻めのDXで切り拓くLib Workの未来図

 導体産業の集積が進む熊本で、(株)Lib Workはレジリエンスとテクノロジーを両輪に住宅産業の再定義に挑む。同社代表取締役社長・瀬口力氏に、震災の教訓と次なる成長戦略を聞いた。

震災が問い直した「住まいの本質」

代表取締役社長・瀬口力氏
代表取締役社長・瀬口力氏

    ──熊本地震から10年を迎えました。あの経験は、住宅メーカーとしてどのような転機となりましたか。

 瀬口力氏(以下、瀬口) 震災当時、私たちが最も強く感じたのは、建物そのものの被害に加え、生活インフラの断絶が暮らしに与える影響でした。電気や水、ガスが止まれば、家が残っていても生活は成り立ちません。住宅とは単なる構造物ではなく、生活を支える社会インフラの一部だという認識がより明確になりました。

 それ以降、私たちは「住まいの復元力」を最優先に考えてきました。太陽光発電と蓄電池を組み合わせた自立型エネルギー住宅の提案、震度7にも耐える設備補強、配管や固定金具といった見えない部分の強化まで、細部にわたってレジリエンスを追求しています。災害に強い住宅は特別仕様ではなく、標準であるべきだと考えています。

 一方で、震災の記憶が風化していく現実も感じています。時間が経てば、どうしても危機感は薄れます。しかし、企業がその教訓を忘れてはならない。お客さまから求められなくても備えを標準化する。それが震災を経験した企業の責任だと考えています。

BCP再構築と組織の強靭化

 ──事業継続の面ではどのような変化がありましたか。

 瀬口 震災では初動対応の難しさを痛感しました。情報が錯綜するなかで、迅速な判断ができなければ企業は立ち行きません。そこで外部コンサルタントと連携し、BCP(事業継続計画)を全面的に見直しました。現在は、震度5強以上の地震発生時には1時間以内に全社員の安否確認と情報集約を完了し、経営判断を下す仕組みを整えています。また、平時から訓練を行い、役割分担を明確にしています。有事のルールを平時から共有することで、組織としての強度が高まります。

 BCPは単なるマニュアルではありません。企業文化の一部として根付かせることが重要です。私たちは、災害対応をCSRの延長ではなく、経営の中核に位置づけています。

半導体集積と変わる地域ニーズ

 ──熊本ではTSMC進出を契機に産業構造が変わりつつあります。

 瀬口 半導体産業の集積は熊本にとって歴史的な転機です。第2工場で3ナノクラスの生産が決定したことは象徴的でした。関連企業や研究機関の集積が進み、都市の姿そのものが変わり始めています。

 住宅市場も例外ではありません。短期的には供給不足や賃料上昇などの課題がありますが、長期的には人口流入と雇用創出が進む可能性があります。私たちは20年、30年という時間軸で地域の成長を見据えています。

 同時に、水害リスクも無視できません。地震後は耐震性を重視した平屋が人気でしたが、人吉水害以降は垂直避難を想定した設計の見直しも進んでいます。地域特性を踏まえ、複合災害に備える住宅提案が求められています。

ストック活用とDXの融合

業界初のIPライセンス事業で展開する「niko and ...EDIT HOUSE」
業界初のIPライセンス事業で展開する
「niko and ...EDIT HOUSE」

 ──人口減少社会を見据えた戦略は。

 瀬口 新築一辺倒ではなく、既存ストックの活用が重要です。(株)アダストリアの「niko and ...」との提携を軸に、今後はリノベーション再販事業を強化していく計画です。中古住宅を買い取り、デザイン性を高めて再生する取り組みです。環境負荷を抑えながら付加価値を生むモデルといえます。

 建設業界の2024年問題に対しては、工程管理をコントロールセンターに集約し、現場監督の負担を軽減しました。遠隔管理やデータ活用によって、品質管理を効率化しています。

 さらに、3Dプリンター住宅にも着目しています。海外では実用化が進んでおり、日本でも将来的な選択肢となるでしょう。私たちは、単に住宅を建てる会社ではなく、住宅産業のプラットフォームを構築する企業を目指しています。

3Dプリンター住宅「Lib Earth House model B」
3Dプリンター住宅「Lib Earth House model B」

AIと組織文化の進化

 ──社内のAI活用について教えてください。

 瀬口 各部署がAIエージェントを活用しています。照合作業が数日から数分に短縮されるなど、生産性は大きく向上しました。重要なのは、効率化によって生まれた時間を創造的な業務や家庭との時間に充てられることです。

 AI一次面接も導入しました。評価の公平性を高め、最終面接で人間同士がしっかり向き合える環境を整えています。AIは人間の仕事を奪うものではなく、能力を引き出す存在だと考えています。

 ──今後の展望をお聞かせください。

 瀬口 震災を原点に、守りのレジリエンスを強化しましたが、今は攻めのDXへと進化しています。AIや科学的管理手法を住宅業界以外にも広げ、停滞する産業を再生する構想もあります。

 地方からイノベーションを起こす。熊本から全国、そして世界へ。震災から10年という節目は、次の10年への出発点でもあります。住宅産業をテクノロジーで再定義する挑戦を続けていきます。

「Lib Earth House model B」室内
「Lib Earth House model B」室内

【内山義之】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:瀬口力
所在地:熊本県山鹿市鍋田178-1
設 立:1997年8月
資本金:13億2,150万円
URL:https://www.libwork.co.jp

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