地域材サプライチェーン活性化へ ESG金融の先導役として取り組む

(株)佐賀銀行
地域支援部副部長 稲富英夫 氏

(株)佐賀銀行 地域支援部副部長 稲富英夫 氏

 木材産業のサプライチェーンにはさまざまなプレイヤーが存在し、それぞれの地域の実情や立場で事業を進めているが、これまでそれが全体の活性化を難しくする状況にあった。そんななか、(株)佐賀銀行は木材関連産業の課題分析を行い、ESG金融の視点からプレイヤー間の仲介役を担うことで関連産業の活性化に取り組もうとしている。そこで、同行地域支援部副部長・稲富英夫氏に、取り組み内容について詳しく聞いた。

調査から見えてきた
「佐賀の山は宝の山」

 (株)佐賀銀行が木材産業の活性化に着目したのは、坂井秀明頭取などの銀行上層部が、佐賀県内にある森林の豊かさを再認識したことがきっかけだ。そこで、環境省が実施している「ESG地域金融の普及・促進事業」において「地域の森林資源を活用した木材産業サプライチェーンの構築支援」を打ち出し、2024年度と25年度の2年連続で採択された。ESG地域金融とは、各地域金融機関が基盤とする地域の資源を持続可能なかたちで活用し、地域経済の活性化と、中長期的な環境・社会課題の解決を同時実現させるための金融行動。1年目はサプライチェーンの現状や課題の把握などを調査し、2年目は具体的な事業の検討などを行ってきた。

 調査で見えてきたのは、「佐賀の山は“宝の山”」(坂井頭取)であること。人口林率(67%)、地籍調査進捗率が全国1位(99%)であり、成長が早く強く、花粉が少ない「サガンスギ」という地域ブランド産材もある。人工林は伐採期を迎えており、地籍調査進捗率の高さは林業の集約化がしやすいということを表す。

 一方で、優先して取り組むべき課題として挙がったのは、「多様な人材の確保と育成」「小規模分散した私有林の効率的な管理体制構築」「県産材の安定供給と需要拡大」「木材生産と森林の多面的機能を両立する管理計画の実施」など。同行の地域支援部副部長・稲富英夫氏は、「調査の過程で、佐賀県では林業経営体(事業者)が2010年の2,291事業者から20年には406事業者と10年間で82.3%も減少していることがわかり、衝撃を受けました」と述べている。このほか、スギの成長量約56万m3に対し、素材生産量は14万m3にとどまっており、育成・伐採・利用・再造林という循環サイクルがうまく機能していないと分析。その課題について、佐賀県における木材需要の低下の要因を特定し、【図1】のように示している。

【図1】 佐賀県における木材需要の低下の要因分析(佐賀銀行提供)
【図1】 佐賀県における木材需要の低下の要因分析(佐賀銀行提供)

 【図2】は、佐賀県内の木材産業のサプライチェーンの様子を表すもの。川上には原木の生産・収穫・再造林・原木市場などを担う事業者、川中には地場の製材工場、全国展開する集成材・プレカット工場、木材販売業者、さらには合板や木材チップを生産する工場もある。川下には、設計事務所やハウスビルダー、家具メーカーのほか、製紙会社や発電・熱利用をする事業者も存在する。このように多数・多様なプレイヤー存在し、どのように分布しているのかを把握するのは容易ではないが、各関係者とのネットワークを駆使することのできる金融機関の強みを生かし整理を行った。

【図2】 佐賀県の木材産業サプライチェーンの分析図(佐賀銀行提供)
【図2】 佐賀県の木材産業サプライチェーンの分析図(佐賀銀行提供)

森林信託やCLT工場誘致などを検討

 「ESG地域金融の普及・促進事業」の2年目はこうした調査・分析から、①「森林信託事業」、②「CLT工場誘致」、③「温泉地への木質熱供給」の検討を行った。森林信託事業とは、森林所有者が森林を金融機関に信託し、金融機関が林業事業者に経営管理を委託、その収入を受益者に配当する仕組み。佐賀県の地籍調査進捗率の高さに着目したもので、検討の結果、森林所有者の管理負担の軽減、相続未登記や森林荒廃リスクの低減といったメリットが創出できることがわかったという。ただし、林業は収益性が低く、小規模事業者を対象にする場合には、限られた収益のなかから信託報酬を確保しなければならないというハードルもある。

 「林業資源を活用した別事業の展開や林業のブランド化、大規模・集約化による生産性の向上を金融機関が促すなどの必要性があります。今後は、岡山県内で唯一実施されている事例などを参考にしながら、森林信託事業の実現に向け動いていきます」と、稲富氏は話す。

【図3】 森林信託事業のスキーム(佐賀銀行提供)
【図3】 森林信託事業のスキーム(佐賀銀行提供)
3事業がもたらす提供価値
3事業がもたらす提供価値

 CLT工場は現在、九州においては素材生産地に近い宮崎県と鹿児島県で3工場が稼働している。ただ、大消費地の北部九州とは距離があるため、完成材の供給には長距離輸送が必要で、コスト上昇要因になる。そこで、福岡県・熊本県・大分県に距離が近い佐賀県鳥栖市が生産地と消費地の間で最適なバランスを持つ立地とし、工場誘致の働きかけやサプライチェーンの構築、関連事業者への融資などを検討している。「関連調査では、CLT建築物は需要の多い都市部だけでなく、県内にCLT工場を持つ都道府県を中心に竣工が増えている状況も見えてきました」(稲富氏)と指摘する。

スウェーデンのCLT建築物(佐賀銀行提供)
スウェーデンのCLT建築物(佐賀銀行提供)

    温泉地への木質熱供給については、県内温泉地の化石燃料依存を木質バイオマス燃料に転換するモデルを構築し、燃料コスト削減と観光資源の付加価値向上を同時に目指すというものだ。これらESG地域金融の普及・促進事業を通じて、地域関連産業への雇用創出などの波及効果、脱炭素効果、水源涵養(かんよう)機能の強化、生物多様性の保護と言った効果を見込めるとし、3つの事業で得られる価値も明示した。このほか、一連の調査にあたっては、持続可能な木材産業が構築されているスウェーデンの現状も視察。現地でのCLT建築物の視察や工場に関する情報収集なども行ってきた。

法定耐用年数の壁超える
「目利き力」の重要さ

 ところで、木造非住宅の普及を推進するうえで、金融機関が直面する最大の障壁の1つが「法定耐用年数」だ。税法上、木造の耐用年数は22年と定められており、これはRC造の47年に比べて短い。従来の金融慣習では、この耐用年数を融資期間の基準としてきたが、現代の木造技術、とくにCLT建築物は50年以上の耐久性を備えている。つまり、制度上の寿命と実態のそれの間に、乖離があるのだ。

 稲富氏は、「法定耐用年数に縛られた融資が抱える問題は、財務諸表上のアンバランスにあります。耐用年数を超える長期融資を実行した場合、帳簿上では減価償却が終了して資産価値がゼロになっても、負債だけが残る期間が生じます。このアンバランスが、自己資本比率の低下や企業の格付け評価への悪影響を招く懸念があり、金融機関が融資に二の足を踏む一因となっています」と語る。

 そのうえで、「金融機関には“目利き力”の向上が求められています。これは形式的な基準に依存せず、建物の実際の性能や資産価値を多角的に見極めること。具体的には第三者評価のガイドラインの内容を銀行側が適切に読み解き、融資審査に反映させるなどといった能力です。非財務価値の評価も重要です。木造建築が持つ炭素固定能力や脱炭素への貢献度は、ESG金融の観点から高い価値があります。これまでケースバイケースで対応も行ってきましたが、今後は、木造建築に対する目利き力をより高めて取り組んでいきます」と、稲富氏は強調した。

店舗や社宅、研修所などの木造化も

 佐賀銀行では脱炭素社会の実現に向け、「金融機関による先導的な取り組み」として、30年度までに3,000億円のサステナブルファイナンスを実行する目標を掲げている。それを実現するため、たとえば佐賀県や各自治体、金融機関などと「SAGAネットゼロ・コンソーシアム」を形成。さまざまなステークホルダーとのネットワークを持つ強みを生かし、コーディネーターとしての役割を担っている。CLT建築物の普及や工場誘致などには県境を越えた仲介役も担うほか、銀行の店舗や社宅、研修所などを木造建築物とするなど、脱炭素社会の実現、木材産業のサプライチェーンの活性化に向けた情報発信も強化する方針だ。

 これまで木材産業振興の出口となる木造非住宅の普及に及び腰だった感がある金融機関。そのなかで、佐賀銀行の取り組みはその状況が改善され、普及を加速させる可能性があることを感じさせる。

木造で建築された社員寮(佐賀銀行提供)
木造で建築された社員寮(佐賀銀行提供)

【田中直輝】

「木材産業振興セミナー」を初開催

セミナー(福岡会場)の様子
セミナー(福岡会場)の様子

    佐賀銀行は3月4日、福岡市内で「木材産業振興セミナー」を初めて開催した。同行の取り組み事例の紹介に加え、川上、川中、川下の事業者らが事例紹介や、産業振興に向けた意見を交わした。そのなかで、CLT建築物の普及に取り組む(株)フォレストヴィラホームの代表取締役・中安章氏は、「木造はRC造に比べ軽量なため、基礎工事費を削減できるなど低コストでの建築が可能」などと指摘していた。

 会場には坂井頭取、九州経済連合会会長・池辺和弘氏が出席。また、木材産業の関係者をはじめ、自治体や大学、商社など幅広い関係者約164人(現地76人、オンライン88人)が参加した。「準備期間が短いなかでしたが、会場いっぱいに参加者が集まり、木材産業振興への関心の高まりが感じ取れました」(稲富氏)という。なお、同行では3月30日にも、佐賀市内で同様のセミナーを実施した。


<COMPANY INFORMATION>
頭 取:坂井秀明
所在地:佐賀市唐人2-7-20
設 立:1955年7月
資本金:160億6,200万円
URL:https://www.sagabank.co.jp/
 

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