(学)旭学園(佐賀市、溝上泰弘理事長)が4月に武雄市に開学した武雄アジア大学について、設置審査に際して学校法人分科会が示した意見内容が公開された。
意見書は文部科学省の大学設置室のホームページにて、収支計画が掲載された「寄附行為認可申請書類」と合わせて、「学校法人分科会より付された審査意見」として公開されている。
https://www.dsecchi.mext.go.jp/2508nsecchi/document_2508n1.html
「学校法人分科会より付された審査意見」のうち、武雄アジア大学分のページを抜粋したものを下記に掲載する。3ページに分かれるが、1ページ目は「学生確保審査意見」、2ページ目は「面接審査意見」、3ページ目は「実地審査意見」となっている。
審査意見を読むと、学校法人分科会(以下、分科会)の問題意識は明確だ。すなわち、「武雄アジア大学は本当に定員を充足できるのか」という点である。以下では、分科会が示した主要な疑義を順に見ていく。
疑義1:武雄アジア大学が選ばれる理由
分科会は、旭学園が武雄アジア大学設置の意義について、「地元高校生に進路の選択肢を提供」し、「地元への残留率低下の歯止めになり得る」と主張することに対して、次の3点について具体的な根拠を求めた。(1)県外競合校と比べて武雄市に立地することに本当に優位性があるのか、県外進学層が武雄アジア大学を選ぶ理由は何か。(2)佐賀県で県立大学の新設が構想されていることを踏まえ、定員、ターゲット層、学問分野の違いを明らかにし、県立大学が設置された場合でも中長期的に学生を確保できる根拠は何か。(3)県外の社会科学系学部に進学していた高校生を継続的に取り込むため、県内外の競合校とどう差別化するのか。分科会は、以上の3点を具体的に説明することと、最終的に佐賀県内高校生から何人の入学者を見込むのかを数値で示すよう求めた。
疑義2:立地優位性があるというのは本当か
分科会は、「佐賀県内の高校の半数を占める佐賀駅を最寄り駅としている高校においては、武雄温泉駅間と博多駅間の所要時間に大きな差はなく、自宅から福岡市内の競合校に通学することが可能であるように見受けられるため、新設組織(武雄アジア大学)の立地に優位性があるとする根拠が不足している」と指摘。そのうえで、武雄アジア大学がターゲット層としている「進学のために福岡市等の都市部でアパートを借りていた受験生」や「経済的理由により自宅外通学などを選択できず」に進学をあきらめている人の数の推移などを、データを用いて明らかにしたうえで、その層から十分な学生を確保できると考える根拠の説明を求めていた。
疑義3:県外就職組の受け皿になるか
分科会は、旭学園が、佐賀県内の高校生の半数以上が就職し、その多くが県外に流出していると説明することについても、具体的な裏付けを求めていた。学生募集の中心となる佐賀県西部地域で、18歳人口がどの程度あり、そのうち大学などに進学せず就職する者がどの程度いるのかを明確にしたうえで、そうした層から武雄アジア大学が確実に学生を確保できる根拠を示すよう求めた。つまり、分科会は、就職者や県外流出者の存在をそのまま大学進学需要とは見なさず、武雄アジア大学への入学に結びつく論理と数値を求めていた。
疑義4:アンケート設計の妥当性
分科会は、学生確保の根拠として使われたアンケートの対象設定と集計方法についても疑義を示していた。
まず、「韓国語検定試験を実施している全国の高校」を調査対象とした理由を明らかにするよう求めた。加えて、学生募集地域以外の高校からの回答をクロス集計に含めたことの妥当性にも疑義を示した。
次に、集計方法にも疑義を示した。武雄アジア大学は、自校の学問分野について「社会科学系、主として経済・経営」と「人文科学系、主として国際文化」と説明している。しかし、アンケートのクロス集計においては、「商学・経済学」を選択した者全員を武雄アジア大学の学問分野に興味を持つ基礎集団と見なした一方で、人文科学系の要素を考慮しなかった。分科会はこのような判断の根拠と、クロス集計の妥当性の説明を求めていた。
疑義5:就職支援策は学生・企業のニーズに合っているか
分科会は、武雄アジア大学が就職支援として予定する「後継者支援システム」について、具体的な説明を求めていた。想定する業種や企業の選定方法、参加企業の見込み数を明らかにしたうえで、同大学で養成する人材が企業側の後継者ニーズに応えられるのかを説明するよう求めるとともに、その仕組みが学生確保につながる根拠や、入学志望者の希望する就職先と合致しているのかについても説明を求めていた。つまり分科会は、同システムが企業側の需要と学生側の進路希望の双方に合った就職支援策になっているのかを問うていた。
学生確保の根拠への疑義は他校にも向けられていた
以上、武雄アジア大学が示す学生確保の根拠にかかわる事項についての分科会の主な意見を取り上げた。これらの意見に対して旭学園は回答したものと思われるが回答内容は不明だ。しかし、回答がどのようなものであっても、これらの疑義はいずれももっともなように思われる。ただし、決して分科会は「武雄市に大学を置くことの意義」そのものを否定してはいない。分科会は、その意義が実際の学生募集に結びつくのかについて、旭学園に対して数値と具体的な根拠を求めていたといえる。
ところで、学生確保についての分科会の疑義は、武雄アジア大学に対してだけ向けられたものではない。今回公開された意見書の全体を見ると、すべての新設大学・短大に対して、「学生確保の見通しに関して、設定する定員が充足するか不明確」「新たな根拠に基づき説明できなければ定員を見直すこと」という趣旨の意見が付されている。
たとえば、同じく九州圏内で新設を認可された福岡国際音楽大学(太宰府市、(学)高木学園)と西日本看護医療大学(北九州市、(学)創心会)に対しても、学生確保の根拠に疑義を示している。福岡国際音楽大学に対しては、同じ立地・同分野の福岡女子短期大学音楽学科が定員未充足を理由に募集停止することを踏まえて、なぜ新大学なら定員を充足できるのかを説明するよう求めている。また、西日本看護医療大学に対しては、既存の西日本看護専門学校と併存させた場合、両校ともに継続的に定員が充足する見込みであることについて具体的に説明するよう求めている。
しかし、今年4月、いざ3校が開学すると明暗は分かれた。2校は4月の開学時にそれぞれ定員80名を超す入学生を集めた。一方の武雄アジア大学の開学初年度の入学生は37名にとどまった。
設置認可は妥当性を保証するものではない
このように実際に開学した後に明暗が分かれた設置認可審査について、どのように理解すべきか。
武雄アジア大学を誘致した武雄市の小松政市長が、文科省の設置認可をどう受け止めていたかがうかがえる発言がある。
武雄アジア大学が2025年8月に大学設置認可の答申を受けた後、9月の武雄市議会の定例会で、江原一雄議員から「武雄アジア大学のこれからの運営、学生確保、まず第1。第2に、経営が成り立つのかという不安の声が広がっているのは御承知かと思います」と問われて、小松市長は次のように答弁している。
今回、今、大学の設置の審査というのは厳格化、ここ数年、近年、厳格化されているというふうに聞いています。そういう中で実際、8校申請をした中で認可が下りたのが3校(8月答申分)であったということも、その審査の厳しさを物語っているんじゃないかと思っています。
審査においては、教育内容とか、あと、財務の状況、そして学生確保の見込み、こういったあたりについて、長期間にわたる審査が行われたというふうに把握をしています。そういった審査を経て、今回、審議会が大学設置は適切だと判断をして、国が認可を出したというところは、大変、これは重みがあることと思っています。
すなわち、国においても、武雄アジア大学のそういった教育内容、財務状況、そして学生確保の見込み、そういったものについて一定の妥当性を確認し、認めたということだと思っています。
もちろん、まだ認可という段階ですので、今後、旭学園には、学生確保や、また財務の安定の継続、そういったところについては、引き続きしっかりと取り組んでいただきたいと考えておりますし、市としては、今後、開学に向けた準備、そしてその先の大学を活用した、大学とともにあるまちづくり、ここに向けて取り組んでいきたいと考えています。
編注:()と下線は記者記入
江原議員が「学生確保」と「経営が成り立つのか」と問うたのに対して、小松市長は下線部の通り、文科省の認可を得たことを一定の妥当性がある根拠とする認識を示していた。
しかし、実際の大学設置認可は、学生確保や財務運営の将来を国が保証する制度ではない。認可はあくまで、申請時点の計画が審査基準に照らして認可可能と判断されたことを意味するにすぎない。
もう1つの疑義「旭学園の財務上の懸念」
分科会は学生確保見込みに対してばかりでなく、もう1つ重要な問題についても疑義を呈していた。それが「旭学園の財務上の懸念」だ。
分科会は、「近年、繰越収支差額構成比率が悪化していることから、大学等における教育研究活動を将来にわたり継続かつ安定して行うことができるよう、今後の資金計画について説明すること」、「近年、基本金組入前当年度収支差額がマイナスの状態で継続している中で、大学の設置において多額の資金を支出する計画となっていることから、今後の中長期的な財務の見通しを明らかにした上で、経営基盤の安定化に向けた取組について説明すること」と、ふたつの意見で懸念を示している。
これについて武雄アジア大学の収支計画と合わせて、次回記事で詳しく見る。
(つづく)
【寺村朋輝】









