【経済事件簿】HEARTSグループで相次ぐ訴訟 英真トランスポートの混乱は他社にも波及
HEARTSグループの物流子会社・(株)英真トランスポートをめぐる混乱が、さらに深刻さを増している。既報の粕屋町の倉庫賃料トラブルでは、建物明渡しと未払い賃料などの支払いを命じる判決が下された。さらに取材を進めると、同社が使用していた福岡市内2カ所の倉庫でも明渡訴訟が提起されていたことが判明。加えて、2024年に取得した旅客運送会社にも訴訟がおよんでいる。英真1社の問題にとどまらず、HEARTSグループ全体の統治と経営責任が改めて問われる局面に入った。
買収後に噴き出した
資金繰り悪化
2024年5月、地元で相応の実績を有していた物流会社・(株)英真トランスポートは、HEARTSグループの(株)HEARTSモビリティによる買収後、新体制へ移行した。同年9月6日には、HEARTSモビリティ代表の戸島匡宣氏が同社代表に就任している。
しかし、買収後まもなくして賃料や運送代などの支払いが滞り始めた。会社側は元代表による横領疑惑や引き継ぎの不備を背景事情として説明していたが、下請業者の撤退が進むなか、従来の取引先から計1,100万円を借り入れても資金繰りは改善せず、賃料や銀行返済の遅延が相次いだ。混乱は収束するどころか拡大し、最終的に粕屋町の倉庫をめぐる訴訟へとつながっていく。
粕屋町倉庫訴訟で
明渡しと支払い命令
25年7月、粕屋町の倉庫オーナー企業は英真トランスポートに対し、建物明渡しと遅延損害金の支払いを求めて提訴した。提訴前にも賃料滞納が発生しており、その際、英真トランスポートは再発防止を約束したうえで、再び滞納した場合は契約解除と退去に応じる旨の合意を交わしていた。こうした経緯がありながら、再度の未払い発生後も同社は直ちに退去せず、契約継続を求めて争う姿勢を示した。
英真トランスポート側は、M&A後の社内混乱や、買収した当時の代表だった戸島氏が財務・契約状況を十分に把握できていなかったことなどを事情として主張した。しかし裁判所は、こうした事情は賃料不払いを正当化する理由にはならないとして退け、今年2月、建物明渡しと4,735万円の支払いを命じた。請求額との差はあるものの、オーナー企業側の主張がほぼ認められた格好だ。
判決後、当該倉庫で英真トランスポートから転貸を受けていた店子企業と、オーナー企業との間では、直接契約への切り替えに向けた協議が進んでいる。係争のあおりで契約関係が不安定化していた店子企業にとっては一定の救済となる可能性がある一方、敷金を英真トランスポートに差し入れていた場合、その返還をめぐって新たな損害が生じる懸念も残る。
東浜・多の津でも明渡訴訟
倉庫トラブルが拡大
問題は粕屋町の1件にとどまらない。英真トランスポートは粕屋町のほか、福岡市東区東浜、同多の津にも物流拠点を置いていたが、いずれの倉庫でも賃料未払いが発生し、オーナー側との法的紛争に発展している。「買収後の支払い停滞」が、複数倉庫にまたがって広がっていた格好だ。
東浜の倉庫をめぐっては、オーナー企業が25年12月、建物明渡しと未払い賃料など1,760万円の支払いを求めて提訴した。英真トランスポートは23年5月から同物件に入居していたが、25年11月分、12月分の賃料支払いが滞った。この時点では、すでに粕屋町倉庫をめぐる裁判が始まっており、同社の支払いトラブルは利害関係者の知るところとなっていた。粕屋町のケースでは最初の遅延から訴訟提起まで一定の時間があったのに対し、東浜では未払い発生の翌月には提訴に踏み切られており、オーナー側の警戒感の強さがうかがえる。オーナー企業は、英真トランスポートと契約を交わしていた店子に対しても退去交渉を行っておりすべての店子が退去する方針とされる。ある店子は移転に数千万円の費用が発生する事態となっており、HEARTS側に対して「とんでもない会社だ」と憤りを示す。
さらに、多の津の倉庫についても、オーナー企業が今年1月下旬、建物明渡しと未払い賃料702万円の支払いを求めて提訴している。この物件は14年に契約が締結され、10年以上にわたり賃貸関係が続いていたが、買収後しばらくして25年11月分、12月分の賃料が支払われなくなった。オーナー側は催告を行ったものの、改善せず、訴訟に至った。長年継続してきた契約関係ですら維持できなくなっていたことが浮き彫りとなった。
注目されるのは、この2件の訴訟で英真トランスポートが代理人弁護士を付けずに争っていることだ。粕屋町倉庫訴訟では代理人を立てていたが、結果として建物明渡しと4,735万円の支払いを命じられている。案件ごとに訴訟対応の姿勢に濃淡がみられることも含め、同社の資金繰りと責任処理の実態に疑問が残る。少なくとも、複数倉庫で明渡訴訟を抱える状況は、物流事業が大きく揺らいでいることを示している。
貸付金・業務委託料でも
支払い命令
訴訟は倉庫問題にとどまらない。25年10月には、英真トランスポートに計1,100万円を貸し付けていた卸売業者が返還を求めて提訴した。既報の通り、この貸付は、買収後も当初は事業運営に関与していた元社長からの依頼を受けて行われたもので、貸主側は従来の英真トランスポートの経営姿勢や元社長への信頼を背景に資金を出していた。しかし、経営母体が変わると返済を求める電話や内容証明にも反応がなく、訴訟へと発展した。その過程で、本社の大阪移転や戸島氏から阪口浩基氏への代表交代も明らかになっている。今年1月の判決では、英真トランスポートに1,100万円の支払いが命じられた。
業務委託料をめぐる訴訟も起きている。買収後の24年8月、英真トランスポートは人手不足を背景に物流業者へ荷役業務やチャーター業務を委託したが、24年12月分から委託料の支払いが滞り始めた。受託側は、荷主業務の停滞を避けるため自社で費用を立て替えながら業務継続を図ったものの、状況は改善せず、25年8月に提訴に踏み切った。英真トランスポート側は引き継ぎ不備などを主張して争ったが、今年2月には支払いを命じる判決が下されている。倉庫賃料だけでなく、資金手当ての借入や日常業務にともなう委託料まで不払いが広がっていたことになる。
元社長が辞任登記放置で提訴
保証請求は旧経営陣へ
25年11月、英真トランスポートの元社長は、同社を相手取り、自らの取締役辞任登記を求めて提訴した。元社長は24年5月の株式譲渡後もしばらく取締役として残り、事業に関与していたが、HEARTS側との間でトラブルが相次ぎ、M&Aの有効性そのものを争う係争にまで発展した。最終的にM&Aは有効と整理され、元社長は25年6月、英真トランスポートに辞任届を提出し、受領もされていた。
ところが、英真トランスポート側は辞任登記の手続きを進めず、元社長の名前は取締役として残り続けた。このため元社長は、法的手続きによって登記の抹消を求めるに至った。その間の25年12月には、同社の本店が大阪へ移転し、戸島氏の代表退任と阪口氏の就任が登記されている。
元社長には、銀行借入、機器類、車両リース代などに関する連帯保証の履行請求が相次いだ。こうした請求が9社におよんでいたとされる。また、元社長への役員報酬も支払われていなかった。
今年3月の判決では、元社長を取締役から抹消する登記手続きを命じる判断が示され、英真トランスポートは4月、25年6月に遡るかたちで元社長夫妻の辞任登記を実施した。ただ、登記が是正されたからといって、保証責任そのものまで消えるわけではない。支払い不能のしわ寄せが、旧経営陣へと逆流していた。
貸切バス会社でも訴訟
混乱は旅客運送分野にも波及
HEARTSグループの車輛
英真トランスポートだけではない。HEARTSが24年1月にM&Aしたバス運行業者・(株)えびす交通でも、車両賃貸契約をめぐる訴訟が起きている。
訴状によると、観光バス運行などを手がけるえびす交通は、24年8月から大阪府内の企業が所有する車両2台を賃借していた。25年7月分までは約定通り賃料を支払っていたが、8月末の支払いが滞り、貸主側は督促を経て、今年1月、車両返還と4,195万円の支払いを求めて提訴した。契約期間は5年で、賃料の支払い遅延があった場合には残存期間分の賃借料請求可能な内容だったとしている。
これに対し、えびす交通側は車両返還には応じる一方、遅延損害金などの支払いについて争う姿勢を示している。主張の骨子は、車両を返還すれば貸主側は再処分などによって経済的利益を得ることになり、なお残存期間分まで請求するのは信義則に反するというものだ。ただし、訴状によれば、一定の条件では車両の無償譲渡の条項が記されており、えびす交通にとっても不利益を避ける条項が盛り込まれている。
この訴訟では、25年7月以降にえびす交通で従業員の退職が相次ぎ、最終的には全員が退職したことも明らかになっている。旅客自動車運送事業の許可取り消しにより、事実上の事業停止状態にあるという状況が確認できる。約50年の業歴をもつバス会社が、経営権の移行後わずか1年程度で急速に停滞した事実は重い。
なお、えびす交通でも代表交代が行われており、25年6月に戸島氏が退任し、今年の1月9日に阪口氏が代表に就任したものとして、提訴日と同日の今年1月30日に登記が行われていた。
司法判断が問う
HEARTSグループの経営責任
英真トランスポートをはじめHEARTSグループと関係する企業をめぐっては、倉庫明渡し、貸付金返還、業務委託料請求、辞任登記、車両賃貸契約など、性質の異なる訴訟が相次いで発生している。しかも、その対応をみると、代理人弁護士を立てて争う事案と、そうでない事案に濃淡があり、案件ごとの処理方針に差があるように映る。
その一方で、英真トランスポートとえびす交通では、問題の顕在化と前後して代表権が阪口氏へ集約されていく構図も浮かぶ。HEARTSホールディングスはグループ会社の経営管理を担う会社として位置づけられる。代表取締役社長は戸島氏だが、個別企業の訴訟対応や責任処理がどのようになされるか注視する必要がある。
さらに、既報の通り、HEARTSグループをめぐっては商業施設「アイランドアイ」(福岡市東区)の運営会社をめぐる訴訟で(株)やずやから4億円強の支払いを求められている。
司法判断が相次ぎ始めた今、問われているのは個社の支払い能力よりもHEARTSグループが、傘下・関係企業の契約、債務、そして説明責任にどう向き合っていくのか。その経営責任が、これまで以上に厳しく問われる局面に入っている。
【鹿島譲二】










