26年も引き続き増加
九州の2025年の外国人入国者数は581万3,588人となり、18年の511万6,366人を上回って過去最高となった(参照:九州運輸局「九州への外国人入国者数の推移について」)。内訳は通常入国者が483万4,706人、船舶(クルーズ船)観光上陸者が97万8,882人。
国・地域別では韓国が270万2,503人で46.5%を占めており、依然として最多。中国は125万8,796人(21.7%)で前年比36.0%増と大きく増えたが、過去最多の18年の実績(170万7,942人)にはおよばなかった。25年11月以降の日中関係の悪化とそれにともなう航空便の減便・運休が影響しており、回復には不透明感が残る状況だ。
台湾は81万7,564人、ASEANは31万2,962人、欧米豪は29万4,607人と、それぞれ順調に増えており、18年と比べると台湾は約2倍に、ASEAN、欧米豪は2倍以上に増えた(参照:日本政府観光局「訪日外客数」)。
香港は38万295人で同5.1%減と前年割れしたが、昨夏に日本で巨大地震が発生するとの噂でキャンセルが相次いだことが一因だ。その後回復し、25年12月は前年同月比6.3%増となっている。
この九州の外国人入国者数全体のうち、福岡市が約75%を占めており、福岡一極集中の傾向が依然として続いている。福岡市からの入国者数は433万2,000人と24年の390万人に続き、2年連続で過去最高を記録している(参照:法務省「出入国管理統計」)。
福岡県の宿泊動向については、25年の延べ宿泊者数は2,417万5,000人泊で全国8位。内訳は日本人が1,626万6,180人泊、外国人が790万9,710人泊で約3分の1を占め、外国人延べ宿泊者数は全国6位。客室稼働率は72.6%と、大阪、東京に次ぐ3位で、福岡市に限ると、25年は80.6%と依然として高水準を維持している。
今年に入っても、九州の入国者数は1月が47万8,605人(船舶観光上陸者数を含む確定値)、2月は44万8,226人(速報値)、3月は44万4,257人(速報値)とそれぞれ同月の単月で過去最多を更新している。
新興市場への期待
福岡のインバウンドの状況について、(株)西日本日中旅行社の代表取締役社長・橋口康祐氏は、「九州におけるインバウンドのルートは、福岡から入り、熊本・阿蘇を経て、別府を回り、最後に福岡で買い物をして帰るという流れが今も主流で変わらない」と説明する。
国・地域別に見ると、ここ半年の最大の変化は中国人観光客の減少だ。25年12月から大幅減に転じており、同月は2万5,340人で前年同月比48.6%減、26年1月は1万5,939人で同83.3%減となった。福岡・中国間の直行便は主に中国系航空会社が運航しているが、中国東方航空は上海便を4便から徐々に減便し、現在は1日2便となっている。中国国際航空は10月まで大連・北京便を運休にしている。「上海便は減便の影響もあって価格が上昇したが、4月から座席数が以前より多い機体に変更されており、価格は今後落ち着いていくのでは」と橋口社長は話す。
中国人観光客の減少がとくに顕著に出ているのが、クルーズ船だ。大型クルーズ船は従来中国発がメインであり、船舶観光上陸者数は25年12月が1万3,232人で前年同月比57.0%減、26年1月が670人で98.9%減となった。市内の風景にも変化が現れており、以前はクルーズ船で訪れた観光客が、櫛田神社を参拝する合間に周囲のコンビニに押し寄せて店内がごった返す光景が日常的に見られたが、現在はほぼ見られなくなった。
主に韓国と台湾、加えてASEANなどの増加で中国の減少分を補っているのが現在の状況だが、今後はインドなどの新興市場が新たなターゲットとして浮上し、市場の多様化が進むことが期待される。(株)ニューオータニ九州の代表取締役社長・山本圭介氏は、「従来の中華圏に加え、ベトナムやタイ、インドといった東南アジアや南アジアの富裕層や企業経営者のインセンティブ旅行などでの利用が増えている」と話す。西日本日中旅行社の橋口社長も、親会社の第一交通産業(株)がインドに拠点を持つ強みを生かし、現地企業のインセンティブ旅行の将来的な受け入れを視野に入れているようだ。
観光目的の多様化
観光のスタイルにも変化が見られる。西日本日中旅行社・橋口社長は、「体験など特定の目的をもつ旅行へのニーズが強まっている」として、たとえば、企業・団体や自治体への訪問、学校との交流、あるいはプロチームの指導を受けるスポーツ交流(野球、サッカーなど)といった、個人では手配が難しい専門的なツアーへの需要が根強いと感じているという。
消費動向については、以前のような「爆買い」は落ち着いたが、繁華街に位置するドラッグストアの店員によると、依然として中国人客は韓国人客らより購入点数が多く、客単価は高い傾向にあるという。また、景気低迷により飲食店の単価が下がっている中国国内においても、日本料理店の単価は落ち込んでおらず、本格的な懐石料理や寿司は、日本より上海のほうが高いという。そのため、本場の日本で食べるほうが高品質で、価格面でも割安感があるため、食体験に高額の消費をする中国人観光客は多い。
福岡初進出ホテルも
インバウンド受け入れにおける課題の1つは、宿泊施設の整備だ。福岡など都市部のビジネスホテルでは稼働率が高止まりし、料金は平日で1万円台が週末には3万円台、大型イベントの開催時などには空室そのものがないなど、「泊まれない街」になっている。橋口社長によると、福岡から新幹線で約15分の距離にある小倉に泊まるケースもよく見られるという。
今年すでに開業した、あるいは今後開業予定の福岡の主なホテルについて、触れておこう。
3月には、西武グループの基幹ブランド「プリンスホテル」が福岡進出をはたした。「福岡プリンスホテル ももち浜」(福岡市早良区)は、百道浜の福岡タワーとシーサイドももち海浜公園に隣接する立地で、客室は全室オーシャンビュー。本部担当者は「滞在自体が目的となるホテル」である点をアピールする。ある旅行業関係者は、同ホテルについて「百道浜という人気の海辺エリアに位置し、非日常感のある滞在を提供できるため、レジャー・インバウンド双方に強い訴求力をもつ」「福岡タワーやみずほPayPayドーム福岡など主要スポットへのアクセスが良いうえに、MICE対応のクラブラウンジ、多目的ホールなど、ビジネス・会議系需要も呼び込む設計」と評価する。インバウンド向けに韓国、台湾出身のスタッフも配置している。
(株)星野リゾートの福岡県初進出となるのが、7月24日開業予定の「BEB5門司港 by 星野リゾート」。若年層向けのカジュアルなブランドだ。門司港レトロ地区は宿泊施設の少なさなどから日帰り観光が多いことが課題として指摘されているが、星野リゾートが対岸の下関市あるかぽーと地区で25年12月に開業したリゾートホテル「リゾナーレ下関」と合わせた展開で、関門地域の回遊性向上と滞在時間の延長につなげる。前出の旅行業関係者は、「海峡ビューおよび観光地・門司港レトロとしての立地と相性が良く、北九州の新たな周遊拠点になる」とし、地域の飲食店の利用増加や夜間観光の消費額増加にも貢献すると期待を寄せる。
「リーガロイヤルホテルズ」を運営する(株)ロイヤルホテルは9月1日、新ブランドホテル「バウンシー・バイ・リーガ 福岡博多」を福岡市博多区で開業する。コンセプトは「HOTEL BAR」で、「櫛田神社前駅徒歩約1分という立地の良さで、観光・食・ナイトシーンを楽しむ若年層やカップルを取り込める」(前出の旅行業関係者)と見込む。立地、設備の点からも、インバウンドに訴求する設計となっている。
ほかに北九州市で時期は未定だが、小倉および黒崎のホテルがマリオット・インターナショナルの「コートヤード・バイ・マリオット」へとリブランドされる予定だ。同市待望の外資系ホテルとして、インバウンド集客効果も期待される。27年には天神地区で「イムズ」跡地に米「エースホテル」のアジア2号店、福岡空港国内線地区で「ソラリア西鉄ホテル福岡エアポート(仮称)」の開業も控えている。さらに30年には、大濠公園近くにインターコンチネンタルホテルズ&リゾーツが開業する予定だ。
今後も新規開業続く
外資系ホテルの増加は、福岡の都市としてのブランド力を高める。ニューオータニ九州・山本社長は、「ホテルはまちづくりの拠点であり、私たちの使命はまちに賑わいをつくること」と話したうえで、「『ザ・リッツ・カールトン福岡』のような外資系ラグジュアリーホテルの進出は福岡のブランド力を向上させ、より多くのお客さまに福岡を知ってもらい、来てもらう機会をつくる」と好ましく捉えているようだ。ニューオータニとザ・リッツ・カールトンにはそれぞれロイヤリティの高い会員がおり、近年のほかの新規開業施設を見ても、宿泊客の棲み分けがなされているとの見方を示す。
福岡市の客室数は15年の2万4,495室から20年に3万5,589室、25年には3万9,812室と、この10年で1.6倍になった(参照:「福岡観光統計」)。今年は21年以降で最多の892室が増加する見通しだ。
前出の旅行業関係者に、供給過剰に転じる潜在的なリスクについての見解を聞いたところ、福岡では「予約困難と価格高騰のほうがより大きな課題」であり、「年間を通して供給過剰になることはない」との見通しだ。
国内旅行会社の役割は
一方で、インバウンド増加は、必ずしも日本国内の旅行会社の収益増加につながるとは限らない。そのため、国内の事業者により多くの収益が入る仕組みの構築も、課題の1つだ。西日本日中旅行社・橋口社長によると、近年はOTA(オンライン旅行社)が普及し、航空券や宿泊の予約から送迎の手配まで、スマホ1つで完結させる個人客が増えているという。また、台湾や韓国など訪日旅行を頻繁に扱う旅行会社では、日本のホテルやバス会社に直接予約を入れる傾向が強い。そうしたケースでは、日本国内の旅行会社が関わることがほぼなくなってしまう。
このようにインバウンド、とくに個人旅行においては、旅行会社が介在する価値が問われる状況となっている。そのため、通常の旅行ではなく、インセンティブ旅行やMICE、また専門的、体験型のツアーなどに注力していくのは、1つの手だろう。その一例として、たとえばスポーツ交流で一流のスポーツ選手に直接指導を受けられるとなると、プレミア感から多くのお金を出す海外の富裕層・中間層がいると見込まれることから、すでに選手と交流できるプログラムのプランを策定しているチームもあるという。
九州・福岡においてもインバウンドが依然として増加傾向にあるなか、今後は国内旅行会社それぞれが、インバウンド目線でこれまで以上に価値ある旅行体験の提供に努めていくとともに、それを求める層にアピールできるよう、訴求力と専門性を高めていけるかが問われてくるだろう。
【茅野雅弘】

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