住宅関連大手に見る中東情勢の影響

 緊張が続く中東情勢により、住宅産業の先行きは不透明さを増している。住宅を構成する素材や設備の多くが、ナフサ由来の化学製品によるもので、その供給不足や価格高騰により、すでに建材価格の上昇や納期遅延が発生。住宅建設やリフォーム工事などの遅れが、懸念されている。

原油なしでは成立しない
現代の住宅と暮らし

 住宅は、さまざまな素材や建材、設備で成り立っているが、プラスチックや塗料などのナフサ由来のものも多く使われている。たとえば、木材には防腐剤、床材や屋根材、外壁材には塗料が、壁紙も化学製品製が多い。建材に目を移すと、窓サッシも金属やガラスのほかに、プラスチック、化学系の樹脂・ゴムなどで構成されている。設備機器については、トイレを例に取ると、陶器便器のほかに、便座などにプラスチックが使われている。水道管なども同様だ。鉄やアルミなどの金属も、原油価格に連動して高騰気味である。

 現代の住宅は、素材の海外依存度が高まっており、サプライチェーンが複雑化している。具体的には、キッチンやバス、トイレなどは海外に生産拠点があり、搭載される電子機器の部品などは多品目にわたる。日本に輸入されて建設現場に運ばれ、設備機器が設置されるまでには、海外も含めて多くの製造過程を経なければならない。このため、何か1つの部品が調達できなくなると、製品全体の供給が滞ってしまうことになり、だからこそ現在進行形の「ナフサショック」は一筋縄ではいかないのだ。【表1】は、主な住宅設備や素材を製造するメーカーのこれまでの動きをまとめたものだ。すべてが製品の値上げを実施しており、なかには受注停止や納期調整を行っている企業も多く見られる。

【表1】主な住宅設備・建材メーカーの動向
【表1】主な住宅設備・建材メーカーの動向

 では、現状、今後について確認していく。住設・建材、住宅の各メーカーの2026年3月期決算から読み解いていく。【表2】は5月18日までに発表された決算のなかから、主要企業の26年3月期実績と27年3月期計画(いずれも連結ベース)をまとめたもの。26年3月期については、国内住宅着工が減少基調にあり、従来からの原材料調達費の上昇を受けながらも、価格転嫁が順調に進んだことなどにより、すべての企業が増収となった。

【表2】住宅・設備・素材メーカー(3月期決算)の連結業績と次期計画
【表2】住宅・設備・素材メーカー(3月期決算)の連結業績と次期計画

業績予想に
中東情勢の影響を織り込めず

 一方、27年3月期についても、ほとんどが増収増益を予想するが、なかには中東情勢を業績予想には織り込めないとする企業も見られる。

 住設最大手の(株)LIXILが、その1つだ。同社では、今年4月単月の売上も前年同月比で増収を確保。しかし、今後の最大のリスクとして、紛争の長期化にともなうサプライチェーンの混乱や、アルミ・銅・原油などのコモディティ価格の再急騰を注視し、とくにアルミ価格については、中東の供給拠点の稼働停止などによる影響を懸念しているという。また、情勢の悪化によりコストが上昇した場合には、「速やかかつ大規模な追加の価格改定」を行うことで対応し、さらに再生材活用などの環境配慮型商材の展開を強化し、材料高騰リスクの低減も図るとしている。

 TOTO(株)は中東情勢による業績へのマイナス影響について、営業利益が総額70億円(日本事業40億円、海外事業30億円)押し下げられることを今期計画に織り込んでいる。このうち日本事業への影響は、第1四半期(4~6月)の売上減少による利益減が主因。浴室事業においては部材調達難にともなう販売一時停止が発生し、6月頃までには一定の落ち着きを見せると想定し、電子部品や樹脂などの外部調達コストの上昇は、通年で続くと見ている。海外事業への影響としては、主にエネルギーコスト(天然ガスなど)の上昇を想定。アジアにおいては、27年3月期初めの価格改定に、中東情勢の影響を織り込めていなかったため、その後の原価上昇分が利益を圧迫する見通しだとしている。今後の対応として、海外では例年通り物価上昇分の価格転嫁を継続するが、日本国内については市場動向を慎重に見極め検討するという。

浴槽にも化学製品が使われている
浴槽にも化学製品が使われている

 タカラスタンダード(株)は、とくに石油由来のケミカル素材やナフサ由来の原料について、価格上昇による収益圧迫の可能性があると見ている。サプライヤーからの素材供給にも不安が生じており、物流コストの上昇も懸念材料として浮上。建築費用のさらなる高騰による住宅計画の延期やリフォーム需要の減退を招くリスクが注視されると分析している。これに対し同社は、「複数の調達先の確保」による安定運営に努めるとともに、コスト上昇分については「機動的な価格改定」で対応する方針。なお、足元では6月頃までの部材確保にメドが立っており、情勢を慎重にモニタリングしつつ、影響を最小化するための取り組みを加速していく考えだ。

価格転嫁や高付加価値化などで

 次に化学メーカーであり、かつ住宅事業も展開している旭化成(株)と積水化学工業(株)について、ナフサショックへの対応を確認しておく。

 旭化成は「ヘルスケア」「住宅」「マテリアル」という多角的な3領域経営を展開しており、特定の事業環境が悪化してもほかで補完できる「業績下振れへの耐性」を強みとしている。このため、現時点では中東情勢による大幅な利益毀損のリスクは限定的であると判断しており、情勢を慎重にモニタリングしつつ、事業ポートフォリオの変革による企業価値向上を継続していく考えだ。マテリアルを中心に原燃料価格上昇などにともなう需要減少を懸念するほか、住宅では中東情勢次第ではサプライチェーン上のリスクが変化する可能性があるため、市場動向を注視しながら顧客やサプライヤーとのコミュニケーションを適切に図り、適宜対応するとしている。

キッチン回りも同様
キッチン回りも同様

    積水化学工業も「住宅」「環境・ライフライン」「高機能プラスチックス」「メディカル」の4カンパニー制で、リスク分散型の経営を展開している。中東情勢の悪化による原材料調達の影響については、状況を注視しつつ、必要量の確保に努めるとともに、調達先の分散や代替品などのヘッジ策を進めていくという。価格上昇に対しては販売価格への速やかな転嫁などにより、影響の最小化を図っていくとしている。このうち、住宅カンパニーでは、26年3月期に都市部を中心に集合住宅、高価格帯戸建の受注が拡大したことを受け、27年3月期は商品ラインアップ強化により、地方部での受注棟数回復を狙っていく方針を示した。

次期中期経営計画の発表を先送りに

 国内建設最大手の大和ハウス工業(株)は、「中東情勢が26年9月頃までに一定の落ち着きを見せる」ことを前提とし、27年3月期については増収減益を予測している。これは、資材価格の高騰や工事遅延のリスク、さらには中東情勢による不確実性を織り込んでいるためだ。今後のリスクとしては、サプライチェーンの混乱による納品遅延や、エネルギー・資材価格の上昇にともなう原価高騰を懸念。開発物件売却の利益計画においては、中東情勢によるマイナス影響を約150億円程度あらかじめ織り込んでいるという。足元の受注状況に特段の懸念はないとしつつも、情勢が長期化・悪化する場合には、価格転嫁を含めた丁寧な顧客対応が必要になるとしている。なお、事業環境の先行きを見極める必要があるとして、27年3月期を初年度とする「第8次中期経営計画」の発表を延期。このことから、中東情勢に対してとくに強い警戒感をもっていることをうかがわせる。

断熱材にも化学製品が使われている
断熱材にも化学製品が使われている

 賃貸住宅供給で最大手の大東建託(株)は、中東情勢による不確実性は考慮されているものの、現時点では「合理的な影響額の算定が困難」であるとして、27年3月期の計画数値には直接的に織り込んでいない。ただ、主要取引先172社への調査では、5割強の取引先から「特段問題ない」との回答を得ており、足元の事業運営に大きな支障は出ていないなどとしている。

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 注目されるのが、各メーカーが中東情勢リスクの緩和策として「価格転嫁」を挙げている点だ。実際、すでに【表1】に見られるようにその動きが加速している。また、多くの企業が調達先の多角化を、リスク回避策の1つに位置づけている。だが、それは思惑通りに進むのだろうか。東日本大震災後にも部資材調達に混乱が見られたが、それは東日本のサプライチェーンが寸断されたためで、他の地域のそれを活用することで対応することができた。今回のナフサショックは、世界全体のサプライチェーンを混乱させている。その点も含め、仮に今後、中東情勢がすぐに鎮静化したとしても、部資材調達の体制が元通りになるには相当の時間が必要になりそうだ。

【田中直輝】

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