イーロン・マスクの世界観とニュー・ビジネス・モデル(後)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

 マスク氏の構想は、もはや一企業家の事業戦略にとどまらない。衛星通信網Starlinkは戦争や安全保障のインフラとなり、人型ロボットOptimusは労働の概念を変えようとしている。さらにStarshipによる火星移住計画は、国家の宇宙戦略とも結びつき始めた。後編では、マスク氏の未来ビジネスが通信、AI、ロボット、宇宙開発、さらには国際政治におよぼす影響を読み解く。

スターリンクが変える通信と安全保障

Starlink イメージ 従来の衛星通信は、地球から3万6,000キロ離れたはるか彼方の静止衛星を使っていたため、データの往復に時間がかかり、通信速度が遅いのが致命的でした。しかし、Starlinkはわずか高度550㎞の「低軌道」に数万機もの小型衛星を網の目のように配置する着眼点により、光ファイバー並みの高速・低遅延通信を地球の裏側や砂漠、太平洋の真ん中、飛行機のなかにまで届けることに成功。

 他社がロケットを1回打ち上げるのに数百億円かけるなか、スペースXは自社の再利用ロケット(ファルコン9)を使って、自社製の衛星を毎週のように大量に「格安」で打ち上げています。競合他社がコスト面で絶対に追いつけない圧倒的な独占状態をつくりました。

 ウクライナ戦争や各地の紛争において、地上にある従来の通信基地局(アンテナや海底ケーブル)が破壊されても、空を見上げればつながるStarlinkは、軍の作戦行動やドローン兵器の制御に不可欠な「生命線」となりました。

 一民間人であるマスク氏の「一存」で、ある地域のStarlinkをオン・オフできる権力が生まれているわけです。実際、過去には台湾周辺やクリミア半島周辺での運用をめぐり、国防総省や各国政府と緊張関係が生じたほどです。「国家の通信・安全保障が、1人の気まぐれな天才実業家に握られている」という状況は、現在の国際政治における最大の地政学的リスクの1つとして議論されています。

 宇宙をネットで覆うインフラ(Starlink)と、それを制御する最強の知能(xAI)。これらを組み合わせることで、マスク氏は「地球を飛び出し、火星に人類の文明を築く」という、SF小説のビジョンを本気で実現しようとしているに違いありません。

ロボットと火星都市、
労働力を再定義する構想

 マスク氏が「テスラの企業価値の大部分を占めるようになる」と豪語するのが、開発中の人型汎用ロボット「Optimus(オプティマス)」です。多くのロボット企業が「研究室での歩行実験」にとどまるなか、マスク氏はテスラの自動車工場にある「大量生産技術」と「自動運転AI」をそのままロボットに移植する着眼点を取り入れました。

 テスラ車の自動運転に使われる「目(カメラ)」と「脳(AI)」を人型ロボットの体に埋め込むことで、世界最高峰の認知能力を持つ自律型ロボットを「格安で大量生産する(目標価格は2万ドル:約300万円以下)」ことを可能にしています。

 まずはテスラの自社工場に導入され、部品の運搬や溶接といった重労働を担い始めています。将来的には、飲食店の厨房、荷物の配達、さらには高齢者の介護や家事代行など、あらゆる「肉体労働」を代替する計画です。マスク氏は「労働力の不足という概念がなくなり、世界の経済成長率は無限(GDPの制限が消える)になる」と予測。

 マスク氏のすべてのビジネス(テスラのバッテリー、Starlinkの通信、xAIの知能)は、実は彼の長年の夢である「火星に人類の自給自足都市を建設する」という究極のゴールのために存在しています。その要が全長120mを超える、人類史上最大・最強のロケットです。これまでのロケットと異なり、上段も下段も「100%完全再利用」できるように設計されています。

 テキサス州のスペースXの施設(スターベース)では、すでに「ロケットを1日に1機製造する」レベルの驚異的な量産ラインが構築されているのです。度重なる飛行試験を経て、ブースターと宇宙船の双方を「巨大アーム」で空中キャッチして回収する技術など、常識外れのSF的テクノロジーを次々と成功させています。

 地球に巨大隕石が衝突したり、核戦争が起きたりしても、人類の文明と意識を生き残らせるためには、火星に100万人が住む「自給自足の都市」をつくる必要があるというのが彼の「第一原理思考」による結論です。そのため、NASAのアルテミス計画の月着陸船としてStarshipを就航させ、その後、地球と火星の距離が最も近づく2年ごとの周期に合わせて、数千機のStarshipを一斉に火星へと送り出す計画を着実に進めています。

UFO発言に見る国家予算と宇宙戦略

 ところで、宇宙に目を向けるマスク氏は、地球上に宇宙人が「今まさに」存在している可能性があると主張しています。数年前、「宇宙人が地球に潜んでいるのかとよく聞かれるが、見たことがない!と答えている」と語っていたものです。頭に触角のある緑色の宇宙人は見たことがないが、恐らく「非常に目立たない存在なのだろう」とも述べています。さらに「宇宙人の存在が真実かどうかはともかく、人類はほかの銀河を探査する宇宙人になるべきだ」とも発言。

 マスク氏の会社スペースXは、アメリカ航空宇宙局(NASA)と協力関係にあり、国際宇宙ステーションから宇宙飛行士を地球に帰還させることにも成功。そのため、宇宙に存在する可能性のあるものについて、マスク氏は多くの人よりも詳しい知識をもっています。とはいえ、マスク氏は地球外生命体発見の可能性についてあまり楽観的ではないとも述べ、自身のスターリンク衛星もUFOに遭遇したことがないと語ってきました。

 その一方で、マスク氏は、人類の宇宙理解の未来に大きな期待を寄せており、人類は「生命を多惑星種にすることができると信じている」と語ったものです。曰く「私たちは、この輝かしくすばらしい宇宙の未来を現実のものにし、朝目覚めたときに生きていることを心から喜べるような、感動的で刺激的な出来事を実現したい」。

 マスク氏は、惑星の配置が許せば、26年には最初のスターシップロケットを火星に送る計画を進めていると明言していました。はたして、本年中に実現するでしょうか?スペースXへの多額の資金援助を続けているZOZOの創業者、前澤友作氏も期待しているようです。

 マスク氏はまた、未確認飛行物体(UFO)は「米国政府の莫大な秘密予算のなかに隠された新たな兵器開発計画」であるという説を支持している模様です。最近のタッカー・カールソン氏とのインタビューで、「未確認飛行物体はたしかに存在するが、常に新型航空機、新型ミサイルなど多くの機密プログラムが進行中で、見分けが難しい」とマスク氏は語ります。さらに、「自分こそが地球外生命体の存在を最初に明らかにする人物になる」とも約束し、「発見した瞬間にXプラットフォームに投稿する」と述べるほどの自信家です。

 トランプ大統領もUFOには多大な関心を寄せています。マスク氏はNASAとの契約もそうですが、国家予算の獲得には並外れた戦略を行使してきました。月にとどまらず火星へアメリカの国旗をたなびかせようとマスク氏とタッグを組む可能性が出てきたようです。

(了)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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