横浜傾斜マンション判決をどう見るか 都甲栄充氏「全棟建て替えは本当に必要だったのか」

請求505億円に対し判決は約13億円

 横浜市の傾斜マンション問題をめぐる訴訟で、東京地裁は6月17日、施工会社など3社に約13億円の支払いを命じる判決を言い渡した。三井不動産レジデンシャルは、施工会社の三井住友建設、杭施工に関わった日立ハイテク、旭化成建材に対し、総額約505億円の損害賠償を求めていた。判決で認められた金額は、請求額を大きく下回った。

 この判決について、一級建築士の都甲栄充氏は「妥当な判決ではないか」と見る。都甲氏は、データ・マックスにマンションの建築問題を数々寄稿してきた専門家であり、施工不良や修繕、管理組合と事業者の情報格差などについて継続的に発信してきた。

都甲氏「全棟建て替えまでは不要では」

 都甲氏は、本件問題が発覚した当時、現場近くで別のマンション補修工事に関わっており、横浜の傾斜マンション問題が報じられた翌日、現場マンションを確認したという。都甲氏は、現地を外部から見た第一印象としてこう振り返る。

「これは全棟を建て替える必要まではないのではないか、と思った。傾いているとされた棟だけを対象に、必要な範囲で住民に退去してもらい、その棟を解体して同じものを建て直すという対応でも済んだのではないか」

 都甲氏の見解の要点は、施工不良やデータ偽装を軽視するものではない。杭が支持層に到達していないことや、施工データの改ざんがあったことは、建築に対する信頼を大きく損なう重大な問題である。居住者の不安も当然であり、売主が住民対応を迫られたことにも理由がある。

 しかし、都甲氏が問題にするのは、その責任追及と、全棟建て替えという対応の必要性を同一視してよいのかという点だ。都甲氏は「施工不良やデータ偽装があったからといって、直ちに全棟建て替えが唯一の解決策になるとは限らない。建築の専門的観点からは、どの範囲にどの程度の不具合があり、どのような補修・補強で安全性を確保できるのかを詰める必要がある」と語る。

 今回の訴訟では、2025年に民事調停法17条に基づく「調停に代わる決定」として、3社が合計112億円を支払う案が示されていた。しかし、三井不動産レジデンシャルはこれに異議を申し立て、最終的に判決へ進んだ。その結果、東京地裁が認めた賠償額は約13億円にとどまった。

 都甲氏は、この流れについて「裁判所も、全棟建て替えに要した費用すべてを施工側に負わせることには慎重だったのではないか」と見る。つまり、裁判所は施工側の責任を一定程度認めながらも、全棟建て替えに要した費用全体について、施工不良やデータ偽装との法的な因果関係をそのまま認めたわけではない、という見方である。

住民対応と法的費用負担は別問題

 また、都甲氏は、問題発覚当時の三井不動産側の対応にも注目する。三井不動産側は、早い段階で全棟建て替えの方針を打ち出した。これは、住民不安を抑え、企業としての信頼回復を図るうえでは強いメッセージになった。

 一方で、都甲氏は「トップの一声で全棟建て替えが決まれば、社内で異論を唱えることは難しかったのではないか」と見る。「大企業のトップが『建て替える』といえば、部下はなかなか反対できない。外部からも、さすが大企業だ、住民対応として立派だ、という声が出る。しかし、建築の専門的判断として本当に全棟建て替えが必要だったのかは、別の問題として残る」。

 都甲氏が強調するのは、マンション不具合問題では、感情的な安心と技術的な安全性、企業の社会的責任と法的な費用負担が複雑に絡み合うという点だ。住民にとって、データ偽装が発覚したマンションに住み続けることへの不安は大きい。売主が全棟建て替えを選択したことは、住民対応として一定の合理性をもつ。一方で、その費用すべてを施工会社側に請求できるかどうかは、法的には別の問題となる。今回の判決は、その線引きを示したものともいえる。

 都甲氏は「控訴審でどう判断されるかは分からない」としながらも、少なくとも一審判決については「建築の専門家として現地を見たときの直感に近い内容だった」と話す。

「当時、現場を見て、全棟を壊すのはあまりにも大きな損失だと感じた。コンクリートを壊し、廃材を処理し、また同じような建物を建てる。それは民間企業だけの問題ではなく、社会全体の資産の使い方としても考えるべき問題だ」

 マンションの施工不良やデータ偽装は、決して許されるものではない。しかし、その対応がどこまで必要だったのか、誰がどこまで費用を負担すべきなのかは、別個に検証されなければならない。

 横浜の傾斜マンション問題は、施工不良を起こした企業の責任だけでなく、問題発覚後に売主がどのような判断を下すべきか、また建築物を社会的資産としてどう扱うべきかという重い問いを投げかけている。

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【寺村朋輝】

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