立地の良さに大手も食指
群雄割拠のホテル開発
現在の春吉・住吉エリアは、天神と博多という2つの都心部に挟まれた立地ながら、そのどちらとも違う、多種多様な性格を帯びたエリアだ。住吉神社などの古代からの歴史を有する一方で、キャナルシティ博多のような大型商業施設が立地する。バス通りでもある住吉通りやこくてつ通り、住吉通り沿いにはマンションやオフィス、商業店舗などが立ち並ぶ一方で、少し通りを入れば、昭和の雰囲気が感じられる路地や古い街並み、戸建住居やアパートなども残っている。さらに春吉・住吉エリアは、今はだいぶ薄れてきたものの、ゲイバーなどが多く集まる“ゲイ・タウン”としての側面もある。

そうしたなかでも、春吉・住吉エリアでとくに多いのが、ホテルだ。渡辺通りに面する名門ホテル「ホテルニューオータニ博多」をはじめ、キャナルシティ博多内のラグジュアリーホテル「グランド ハイアット 福岡」、日本初のデザイナーズホテル「HOTEL IL PALAZZO(ホテル・イル・パラッツォ)」、えんホールディングスグループの「ホテルトラッド博多」などの高質なホテルから、ビジネスホテルやラブホテル、さらには民泊まで、規模や価格帯、サービス内容の異なるさまざまな種類のホテルがそろっているのが、エリアの特徴だ。天神と博多の両都心部の中間に位置し、福岡市地下鉄七隈線の駅やバス路線が通る幹線道路を擁するエリアだけに、福岡市内でホテルを構えるうえで、これだけ利便性の高いエリアはそうそうないだろう。とくにインバウンド旅行客などには、エリア周辺だけでなく、福岡・九州の各方面への拠点としても重宝されているようだ。
なお、福岡市の住民基本台帳に基づく公称町別の人口および世帯数では、春吉・住吉エリア(春吉1~3丁目、住吉1~3丁目、渡辺通1・3・5丁目)は26年6月末現在で、人口1万1,822人/9,740世帯となっている。単純計算で1世帯あたり1.21人となっており、エリア内ではファミリーが少なく、単身者の割合がかなり多いようだ。過去のデータから比較すると、10年前の16年6月末時点では人口1万520人/8,230世帯、20年前の06年6月末時点では人口8,485人/6,272世帯となっている。市内の他エリアに比べるとやや緩やかではあるものの、春吉・住吉エリアでも人口および世帯数とも増加傾向にはあるようだ。

ただし、人口増であれば居住ニーズも相応に高そうだが、現在の春吉・住吉エリアでの住居開発はそれほど見られない。現在開発が進んでいるものを挙げてみても、春吉1丁目の(株)robot homeによる「(仮称)福岡市中央区春吉一丁目アパート新築工事」(木造・地上3階建、ワンルーム9戸)や、同じく春吉1丁目のテナント付共同住宅「(仮称)春吉1丁目計画新築工事」(RC造・地上7階建、22戸[ワンルーム21戸])、住吉2丁目の(株)イリスコーポレーションによる「(仮称)住吉2丁目計画」(RC造・地上12階建、50戸)くらいのようだ。

一方で、春吉・住吉エリアで圧倒的に多いのは、やはりホテル開発だ。以下、現在開発が進んでいる主なホテルを挙げてみると、春吉1丁目では太福建設(株)による「(仮称)春吉1丁目ホテル」(木造・地上3階建、2室)、春吉2丁目では(株)Mによる「(仮称)中央区春吉2丁目ホテル複合 新築工事」(RC造・地上5階建、4室)。春吉3丁目でK.ホールディングス(株)による「(仮称)春吉3丁目ホテルPJ新築工事」(RC造・地上10階建、67室)と「(仮称)春吉三丁目ホテルPJ 新築工事」(RC造・地上5階建、13室)、(有)日本歯科経営協会による「(仮称)福岡市中央区春吉3丁目ホテル新築工事」(S造・地上4階建、11室)、福岡都市開発(株)による店舗併用ホテル「(仮称)春吉3丁目ホテル 新築工事」(RC造・地上10階建)。住吉2丁目ではK.ホールディングスによる「(仮称)住吉ホテルPJ 新築工事」(RC造・地上10階建、54室)、(株)インヴァランスによるホテル「(仮称)福岡(住吉)アパートメントホテル新築計画」(RC造・地上11階建、65室)、(株)レジェンドワンによる「(仮称)住吉2丁目プロジェクト 新築工事」(RC造・地上10階建)。そして渡辺通5丁目では、(株)Welina(大阪市西区)によるホテル「仮)Welina Hotel 福岡天神」(S造・地上14階建、260室)などだ。

ほかに、灘の川橋のたもとの春吉2丁目の「ホテル ザ・サン」跡地でも、K.ホールディングスによる新たなホテル開発が計画されているほか、今回把握できていないホテル開発も、まだ相当数あると思われる。

春吉の地場不動産会社である(株)オレンジライフの代表取締役・副島直一氏は、「今の春吉で開発される物件は、9割以上がホテルです。かつてワンルームマンションが多く建った時期もありましたが、今の春吉の土地価格と利回りを考えれば、もうホテル開発という選択肢しかないようにも感じます」と話す。
「アビイ道路」の看板が
また、春吉で長年愛される中華料理店「紅蓉軒」の店主・下田浩一氏も、「私は春吉で生まれ育ち、長年この地の移り変わりを見てきましたが、今はとくにホテルばっかりになりましたね。しかも、春吉には大和ハウスグループの駐車場・Dパーキング(D-Parking)がそこかしこにありますが、おそらくあれは一時的に駐車場にしているだけで、今後は大和ハウスグループがその土地を売却、もしくは自前で、さらに開発が進んでいくと見ています」と話す。
なお、紅蓉軒の店の前には「アビイ道路」の道路看板が掲げられているが、これはビートルズ好きの下田氏が、春吉をもっと盛り上げていきたいとの思いから、名盤「アビイ・ロード」にあやかって名付けたものだ。
今後の土地価格および資材価格などの建設コスト上昇の影響はあるにせよ、春吉・住吉エリアにおけるホテル開発は、これからさらに激化していきそうだ。
マイナスイメージを払拭
地元有志がまちづくりに奮闘
そんな春吉では、外部からの「なんだか危ない」「ちょっと怖いまち」というマイナスイメージと、地元民が抱く「こんなに住みよい良いところはない」というイメージとのギャップを埋めるべく、商店主などの地元有志が中心となって、20年以上にわたって積極的なまちづくり活動を繰り広げている。それが、03年に晴好実行委員会として誕生し、19年5月にNPOとなった「NPO法人はるよし」だ。
同法人の理事の1人である吉野友紀氏は、「私たちの活動は、昔からの『暗くて近寄りにくい』というイメージを払拭し、何とか春吉の魅力を伝えたいという思いから、地元有志が集まって始めたものです。当初は、地域の店や企業を紹介するホームページづくりから始まり、やがて『夜・酒・音楽』をテーマにしたお祭り『晴好夜市』の開催などに発展していきました。やはり我々も含めた地域の人々が、自分たちのまちを楽しみ、その楽しさを外へ伝えていくことが、まちの活性化につながると考えています」と話す。

同法人ではほかにも、地域の飲食店と福岡の酒蔵をつなぐ「晴酒(はれざけ)はしご」や、月1回の清掃活動「はるよしをキレイにし隊」、地域密着型の市民劇団「劇団晴好」などの事業を実施。近年では、糸島の農家や福岡県内の酒蔵と協力し、酒米づくりから関わるオリジナル日本酒「晴好 HARUYOSHI」のプロジェクトも展開しており、単なる物販ではなく、まちの縁や物語を1本の酒に込めることで、春吉らしい美食文化を発信しようという試みも行っている。
「やはりこうしたまちづくり活動は、単に課題解決の意識だけでなく、我々メンバーが『いろいろと面白いことをしていこう』と楽しみながら行わなければ、続きません。今、春吉では各地でいろいろな開発がされて、まちがどんどん変化していっていますが、その変化のなかでも、昔ながらの良さを大切にしながら、人と人の触れ合いが感じられ、住みやすく、そして訪れて楽しいまちを、皆でつくっていければと考えています」(吉野理事)。
なお、前出のオレンジライフ・副島代表や紅蓉軒・下田店主も、NPO法人はるよしの前身である晴好実行委員会の立ち上げ時から関わってきたメンバーだ。
「私もこの春吉で生まれ育った身ですから、これまでのマイナスイメージが払拭され、春吉の良さがきちんと外から評価されて、宿泊客や観光客が増えてきていることは嬉しく思います。ただ、今はホテル開発が盛んですが、交流人口だけ増えても、そこに暮らす人々がいなければ、まちは成り立ちません。難しいとは思いますが、欲をいえばファミリータイプのマンションが開発されて、住民の数が増えていってほしいと願っています」(オレンジライフ・副島代表)。
「春吉のライブバーなべやの店主・Nabeさんがつくってくれた『春吉オン・マイ・マインド』というオリジナルテーマソングの歌詞に、『老舗の暖簾と洒落た店、交ざればそれも、楽しかろ』という一節がありますが、春吉の魅力はまさにそれだと思います。これからも開発が進んで、まちの様子はどんどん変わっていくと思いますが、そのなかでも春吉らしさは残しつつ、『大人がピシャッとあそぶ街 春吉』であり続けてほしいと思います」(紅蓉軒・下田店主)。
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今回取り上げた春吉・住吉エリアは、以前は「ちょっと怖い」「なんだか危なそう」「ちょっといかがわしい」というようなマイナスイメージが根強く残っていたこともあり、地元民以外はあまり足を運ぶことなく、天神と博多の両都心部に近接しながらも、それほど注目されてこなかったエリアだ。それが土地区画整理事業でまちや道路がキレイになり、地元まちづくり団体の活動の成果によるマイナスイメージの払拭もあって、利便性の高さをはじめとしたポテンシャルが再評価されてきている。エリア内各所で競うようにホテル開発が行われているのも、その表れだ。春吉・住吉エリアは今後、冒頭に取り上げたイーストビルの再開業と清流公園Park-PFIなどによって、都心部の水辺空間としての魅力もさらに強化され、さまざまな多様性を内包するエリアとして、ますます注目を集めていくだろう。
(了)
【坂田憲治】

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