【特別寄稿】日本株は本格上昇局面に入ったのか──高市政権の積極財政が試される
(株)武者リサーチ 代表 武者陵司 氏

日本株は2023年以降、上昇の勢いを強め、26年に入っても急騰を続けている。背景にあるのは外国人投資家の買い越し、自社株買いの拡大、NISAを通じた個人資金の流入などによる需給改善だ。だが相場の持続力を左右するのは、高市政権が積極財政によって家計消費を回復させ、日本経済の成長期待を高められるかにある。財政健全化路線を転換できるかが、株高の先行きを左右する。
日本株の急騰を支える
外国人買いと自社株買い
2013年に始まった日本株式の長期上昇相場は、年率11~13%程度の上昇トレンドにあったが、23年以降、加速局面に入っている。日経平均は23年28.2%、24年19.2%、25年26.3%の上昇となった後、26年に入っても、イラン戦争と原油価格急騰にもかかわらず、5月13日までの4カ月半で25.7%と急上昇している。25年4月のトランプ相互関税ショック後の安値との比較では、13カ月で2倍の急騰である。相場のステージが変わったと考えられる。高市政権の積極財政により、日本の成長加速を市場が確信できれば、日経平均は年内7万円、3年後10万円が視野に入るだろう。
この急騰を引き起こした直接の要因は、急激な需給の改善である。NY市場でFOMO(fear of missing out)という言い回しがあるが、まさしく株高に乗り遅れた投資主体が慌てて株を買い始めているということである。
各投資主体の状況を概観してみよう。東証出来高の6~7割と圧倒的シェアを占める外国人が、今回も相場の牽引車になっている。比較されるのは、13年前半のアベノミクス開始時の6カ月で8割上昇という急騰である。そのとき買ったのは、当時ソロスファンドに籍を置いていたベッセント米財務長官など、外国人だけであった。このとき外国人は、2年間で20兆円の日本株を買ったが、その後大半を売却し、日本株式の熱狂を冷やした。
その外国人が、昨年のトランプ関税ショック以降、1年間で16兆円という大幅な買い越しに転じた。ただし外国人は先物で7兆円の売りポジションを積み上げており(4月末時点)、強気一辺倒というわけではない。この売りポジションを解消しなければならないとすれば、それはさらなる株高要因になる。
今回の急騰のもう1つの主役は、企業の自社株買いである。アベノミクス当時は年間1兆円にも満たなかった自社株買い主体の事業法人の株式購入は、岸田政権の新しい資本主義政策導入を契機に急増している。22年12.6兆円、23年14.3兆円、24年21.1兆円、25年25.2兆円、26年は4月まで25%増であり、このペースでいくと年間では31兆円に達する。
PBR1倍割れの是正を求める金融庁・東証の要請、現金の持ち過ぎによってM&Aのターゲットにされることへの懸念、自社株が最も有利な余資運用手段であることなどが理由である。外国人が売りに転じた15年以降、唯一日本株を支えた日銀によるETF購入が、最高時でも年間5~6兆円であったことを考えると、自社株買いがいかに大きく需給面を支えているかがわかる。
個人と年金も日本株へ
資金シフトは続くのか
個人投資家も大きな買い主体に育ちつつある。24年のNISA改革以降、NISA口座からの新規買い付け額は、23年の5兆円から、24年、25年ともに18兆円に跳ね上がった。今のところ買い付けの大半が海外投信だが、日本株へのシフトが起きるだろう。
年金などの機関投資家も、インフレ定着と金利上昇の下で、日本国債への投資比率の引き下げと株式シフトを余儀なくされている。さらに、政府による国公共済(KKR)など公的年金運用の積極化要請も浸透していくとみられる。このように、すべての投資主体が日本株に向かって押し出されている。
この好需給は、良好な株式バリュエーションに支えられている。株式は配当利回りだけで2%、PERの逆数である益回りは5%と国債利回り2.5%を大幅に上回り、依然超割安の状態にある。それなのに、日本の家計が保有する1,624兆円の金融資産(年金保険の積立金を除く)の68%(1,100兆円)が、利息がほぼゼロの現預金として保有され、株式と投信はわずか25%にとどまっている。著しく非理性的な運用態度だといえる。
ちなみに米国は94.5兆ドルの家計運用金融資産(年金保険の積立金を除く)の74%が株式と投信で、現預金は16%に過ぎない。今、この日本人のリスク回避に凝り固まった非理性的な運用姿勢に、深刻な反省が巻き起こっている。
政策転換への期待が
日本株を押し上げる
それにしても、日本株の割安さは10年前から変わっていない。それなのに、なぜ今、人々が割安さに気づき、日本株に殺到し始めたのだろうか。日本経済が長期デフレ、長期停滞から抜け出すという期待が高まっているからであろう。その起点は政策の転換である。
過去を振り返ると、日本の株式市場のトレンド転換は、すべて地政学的枠組みと政策選択に支配されてきた。戦後の画期は、①1950年6月の朝鮮戦争の勃発(日経平均90円から)、②89年12月末のバブルつぶしの金融引き締めによる天井(日経平均38,916円から)、③2003年5月のりそな銀行部分国有化・金融不良債権処理完了による底入れ(日経平均8,117円から)、④12年11月14日の大底から始まったアベノミクス変革(日経平均8,664円から)、の4回あった。高市政権の成立は、戦後5番目の長期トレンド形成になると考えられる。
高市政権の成立で、高市氏が推進する保守革命の輪郭が見えたことが大きい。24年10月の石破政権の成立時、高市政権を期待していた株価は急落した。それとは真逆に、25年7月の参院選挙での自民大敗により、石破政権崩壊が見え始めたことで株価は騰勢を強め、10月20日の高市政権成立で株価上昇に弾みがついた。
では、市場が高市氏に期待したものとは何か。それは、志半ばに終わったアベノミクスの完成であろう。安倍政権の成立時、日経平均は6カ月で80%の急騰を演じた。しかし、アベノミクスが消費税増税を打ち出した15年以降、株価は年率6%と低迷を続け、市場は安倍政権に失望したかたちとなった。2%インフレ目標は達成できず、デフレと異次元の金融緩和からの脱却も先送りされた。最も大きな失望は、国民生活の停滞が続いたことである。
稼ぐ力は復活 取り残された家計消費
アベノミクスがスタートした直前の12年と25年末とを比較すると、株式時価総額は3.9倍(301兆円から1,192兆円へ)、法人企業経常利益は2.4倍(48.5兆円から114.8兆円へ)、一般会計税収は2倍(40.9兆円から80兆円強へ)、GPIF運用益は7.2倍(25兆円から180兆円へ)、外国人観光客は4.8倍(835万人から4,000万人へ)と目覚ましい上昇を見せた。名目GDPは1.24倍、就業者数は1.09倍、女性就業率は61%から85%へ、最低賃金は759円から1,021円へと大きく改善した。デフレが終わり、0%であった政策金利は0.75%まで引き上げられた。85円であったドル円レートは156円に上昇した。
また、企業のビジネスモデルも大きく転換した。米国技術のコピーと、米国市場での販売を基本とした戦後日本企業のビジネスモデルは、オンリーワン分野、競争の少ないブルーオーシャンへと戦略転換した。円高対応のグローバル化も大きく進展し、グローバルトップ企業も多く現れた。米中対立と円安により、世界需要が日本に集中し始めた。コーポレートガバナンス改革により、株式資本主義がようやく日本にも定着し始め、企業の配当は対GDP比0.9%(2000年度)、1.8%(12年度)から6.2%(24年度)へと、米国以上の水準まで高まった。
このように、日本の稼ぐ力が大きく復活し、向上したなかで、国民生活は失われた30年のままである。実質家計消費は、12年度末302兆円、13年度末311兆円に対して、25年4Qは299兆円(20年基準)と、むしろ低下している。経済成長率もG7のなかで最低水準が続いている。
デフレ経済下で強行された「社会保障と税の一体改革」により、国民負担率が、11年度の38.8%から22年度には48.4%、24年度には46.2%(推計)へと急上昇したためである。最大の需要項目である消費が10年間落ち込んだままであるから、日本経済は先進国のなかでも最低水準の成長率に甘んじている。
IMFの4月経済見通しで、25年、26年、27年の成長率を比較すると、米国2.1%→2.3%→2.1%、ユーロ圏1.4%→1.1%→1.2%に対して、日本は1.2%→0.7%→0.6%と大きく引き離されている。日本の物価上昇率が25年3.2%、26年2.2%と欧米を上回る水準まで上昇したため、実質成長率が押し下げられるという要素はある。しかし、なぜ日本の実質成長率だけがこれほど抑圧されてきたのか。
財政危機論の裏側にある
税収増と民需圧迫
答えは税金の取り過ぎにある。12年以降の「社会保障と税の一体改革」により、社会保険料の引き上げや消費税増税などが打ち出され、デフレの下でも税の取りっぱぐれがない制度が仕組まれた。しかし、想定外のインフレになり、税収が著しく増え、経済のバランスが大きく崩れたのである。
21年以降、税収は当初予算を6~10兆円上回ることが常態化している。税収上振れ額は、GDPに対して1.0~1.6%に相当する。これを財政再建ということで政府内に留保すれば、著しい民需の押し下げ圧力となる。
実際、OECD(25年6月経済見通し付属データ)の一般政府財政収支対GDPをG7で比較すると、最も経済成長率が低い日本の財政赤字縮小が際立っていることがわかる。【図2】に示す日本の財政赤字の対GDP比は、22年4.2%、23年2.3%、24年2.05%、25年1.6%と、G7最小の赤字が続いている。仮にインフレによる税の増収分がまるまる家計に還元されるとすれば、日本は米国並みの高成長が可能ということになる。
他方、同じOECDデータで政府の総債務の対GDP比を見ると、日本は25年217%で最悪となっている。こちらはメディアを通して誰もが知っている数字で、石破首相が日本の財政状況はギリシャよりも悪いと言ったことの根拠となったものである。
驚くことに、石破発言直後の昨年8月8日の日経新聞は、井堀利宏元東大教授の「危機的な財政状況を直視せよ」との論文を掲載し、日本の債務残高が世界最悪、ギリシャよりも悪いというこの【図3】を紹介している。日本財政は世界最悪なのか、それともG7で最良なのか、どの指標を取るかで結論は正反対になるのである。しかし、ほとんどの人は、財政赤字の対GDP比で見たデータの存在を知らず、政府総債務の対GDP比だけで日本の財政は危機寸前だと思い込んでいる。これは危険である。
日本の政府の総債務が大きいのは、政府による金融資産保有額が巨大だからである。それを除く政府の純金融債務の対GDP比で比較すれば、日本は米国やイタリアよりも良好で、ほぼG7の平均値というレベルであり、財政出動余力は十分にあるといえる。
積極財政を打ち出せるか
株高持続の試金石に
財政政策の活用は、高市政権の成否にとって決定的に重要である。第一に、税金の取り過ぎによって被害を受けている家計消費を助けなければならない。食品消費税2年間ゼロ政策は国民の支持を得て、先の総選挙での自民党大勝をもたらした。高市氏は減税により国民消費を強め、日本経済の成長率を引き上げる政策を早急に打ち出さなければならない。減税ができず、消費回復に失敗すれば、高市人気は下落し、政策の求心力が失われる危険が出てくる。
第二に、防衛、技術研究開発、産業育成、国土強靭化のすべてで、積極的財政出動は必須である。幸いにして、税収の上振れに加えて、米国国債保有の為替益40~50兆円、日銀ETF投資含み益70兆円強、GPIF累積運用益180兆円など、巨額の隠れた投資原資もある。この巨額の投資原資を有効に将来投資に振り向けることで、長期繁栄の礎を築くことができる。
財政健全化にこだわる財務省とアカデミズム、メディアの大勢を押し返さなければならない。染みついた清貧、貯蓄優先思考に基づいた経済思想を転換させることができるかどうか、鼎の軽重を問われている。現在、社会保障国民会議とその有識者会議において、給付金付き税額控除を軸に家計消費の振興策が議論されている。その過程で高市氏の責任ある積極財政路線が形骸化すれば、急騰していた株価を反転させるリスクも高まる。
今、市場は高市政権が積極的財政出動を打ち出し、日本経済の潜在成長率を押し上げられるかどうか、固唾をのんで見守っている。
<PROFILE>
武者陵司(むしゃ・りょうじ)
1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。88年大和総研アメリカでチーフアナリストとして米国のマクロ・ミクロ市場を調査。97年ドイツ証券調査部長兼チーフストラテジスト、2005年ドイツ証券副会長を経て、09年(株)武者リサーチを設立。21年9月までドイツ証券(株)アドバイザーを務める。日経電子版、日経産業新聞(眼光紙背)、WiLL、Voice、四国新聞社、月刊資本市場、投資経済、統計、外為どっとコム、幻冬舎ゴールドオンライン、週刊エコノミストなどにレポートやコラムを寄稿。テレビ朝日、BS11、日経CNBC、テレビ東京モーニングサテライト、BSフジLIVEプライムニュース、ストックボイス、ラジオNIKKEI、文化放送などにコメンテーターとして出演。












