鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村朗
今回のブログでは、9月13日に投開票された沖縄知事選を取り上げて、その結果についての評価とSNSの影響、隠された争点などを考えてみたいと思います。
これまで「SNS選挙の怖さ」について警鐘を鳴らしてきた根本良輔氏(既出)は、次のように述べる(【根本良輔 note】(26年9月14日):【沖縄県知事選】玉城デニー敗北…SNS選挙の恐ろしさと、これから沖縄で起きること)。
《特に問題なのは、事実関係の正確さよりも「どれだけインパクトがあるか」「どれだけ怒りや不安を煽れるか」が優先されることだ。今回も「デニー氏が知事を続ければ沖縄が中国になる」といった極端な言説まで飛び交った。
こうした情報を一つ一つ検証する人は多くない。特に若い世代を中心に、長い動画や本、新聞記事などを読むのではなく、TikTokやYouTubeショートなどで政治情報を得る人が増えている。
ショート動画は次から次へと流れてくる。利用者は検索して情報を探すというより、アルゴリズムから受動的に情報を浴びることになる。そこで何度も同じ政治家へのネガティブな情報を見せられれば、それがその人にとっての「現実」になってしまう。》
それに続けて、根本氏は、コスタリカの例を挙げて、教育問題の重要性を訴えている。
《日本に圧倒的に足りない「主権者教育」:今回の選挙を見ながら、根本が強く感じたのが教育の問題だった。
今、コスタリカについての本を読んでいる。コスタリカは軍隊を廃止し、その分を教育などに振り向けてきたことで知られている。
そして非常に興味深いのが、子どもの頃から憲法や民主主義について学ぶ文化があることだ。政治家や政府の行動がおかしいと思えば、「これは憲法に反しているのではないか」と考える。
市民が政治を自分たちとは関係のないものとして見るのではなく、自分自身が政治の主体であるという意識を持っている。ここが日本とは大きく違う。》(同上)
この根本氏の問題意識と、「主権者教育」を徹底して国民・有権者の情報リテラシーを高めるべきとの積極的な提言に大いなる共感を覚える。
3.沖縄知事選で問われなかった重要な争点とは
それでは、今回の沖縄知事選で本当は問われるべきであった、隠された真の争点とは何であったのであろうか。
今回の沖縄知事選では、那覇空港の軍事利用、辺野古沖の軟弱地盤と膨れ上がる新基地建設費、国策裁判の違法性について、期日前投票の異常な多さと不正選挙疑惑、投開票締め切り直後の「ゼロ打ち」の見直し、統一教会の知事選への関与疑惑、膨大な政治資金を投入する金権選挙の実態解明(以前もあった官房機密費3億円の投入)、下地幹郎候補の知事選からの不可解な撤退劇の真相、米軍が認めたPFAS流出を日本政府が隠蔽した問題などがほとんど争点として浮上しなかった。
そのなかでも最も重要であったのは、現在の高市政権の下で急速に悪化する日中関係とそれに対応するかたちで加速化する戦争準備に沖縄と日本がどう向き合うのか、という日本がいま直面する平和か戦争かという根本的な危機をめぐる問題である。
4月12日の自民党大会で、高市首相は、憲法改正について「立党から70年、時は来た」と強い意欲を示している。22年前に高市氏は、「国民は国防の義務を負う。有事の際、私権の一部制限に協力する」などと改憲を主張していた。その念願の改憲を実現する機会が到来したというわけだ。
中国・北朝鮮・ロシアの脅威や「台湾有事」が強調されるなかで、沖縄での辺野古の新基地建設や南西諸島(与那国島・宮古島・石垣島など)へのミサイル部隊配備、基地の地下化、シェルター設置、弾薬庫大増設、離島を含む空港と港湾の軍事化が、民意をよそに急ピッチで進められている。私の地元である鹿児島においても奄美大島・徳之島・馬毛島などを含め自衛隊基地の要塞化や弾薬庫整備が急速に進んでいる。
近年は防衛費(軍事費)が拡大し続けるなかで26年度に初めて9兆円を超え、安保三文書改定によってGDP比2%を超える軍拡がさらに進められようとしている(将来的には、GDP比5%、20兆円以上もあり得る)。今でも物価高に悩まされている国民は、この大軍拡にともなう大増税によってますます貧困化することは必至である。
その一方、5月27日に国家情報会議設置法が制定されただけでなくスパイ防止法の創設も検討されるなど、戦争に反対する市民運動や市民メディアを監視・弾圧するための法システムも着々と整備されている。
このように改憲と戦争準備に前のめりの姿勢を強めている高市政権に対して、海外メディア(中国だけでなく米国やカナダなど欧米諸国)も、「日本の平和憲法がいま岐路に立っている」「日本の右傾化・軍国主義の復活は危うい」などと、報じ始めている。
ここで注目されるのが、昨年3月30日の中谷防衛大臣との会談において、米国のヘグセス国防長官が、米国は台湾海峡を含むインド太平洋で「盤石で万全な」抑止力を維持するとしつつ、「西太平洋で有事に直面した場合、日本は前線に立つことになる」と日本に役割拡大を求める発言を行った。この「西太平洋」という概念には台湾海峡だけでなく、東南アジア諸国が領有権をめぐり中国と緊張関係にある南シナ海なども含まれ得る(「毎日新聞」、25/3/30)
このヘグセス国防長官の発言は、中国との有事(軍事衝突から本格的な戦争を含む)を想定したものであり、その場合、軍事要塞化が進む南西諸島を抱える沖縄・鹿児島が日本の最前線の戦場になることは明らかだ。
自衛隊の統合作戦司令部(JJOC)の発足(25年3月24日)、在日米軍の統合軍司令部への移行、日米両軍間での作戦調整の向上、南西地域における日米の共同プレゼンスの拡大を含めて、日米両国の軍事レベルでの指揮・統制枠組みが急速に強化されている。
ウクライナ戦争は、米国・NATOがロシアに仕掛けた対ロ代理戦争であった。トランプ政権のマルコ・ルビオ国務長官は、25年に「率直に言って、これは核大国間の代理戦争であり、ウクライナを支援する米国とロシアの代理戦争だ。これを終わらせる必要がある。」と述べた。またバイデン前大統領も、ウクライナ戦争は米国とロシアの代理戦争であるという見解を示していた(村上裕康「ウクライナ戦争は米露の代理戦争である」)。
今回の沖縄知事選で当選した古謝氏は、日本政府が進める戦争準備に積極的に協力する姿勢を示している。高市首相の昨年11月7日の国会答弁「台湾有事は存立危機事態になり得る」によって、日中両国の関係は急速に悪化し、いまでも緊張は続いている。日中両国の関係改善のためにも高市発言の撤回が必要だと一貫して訴えているのが鳩山由紀夫元首相である(「鳩山元総理 中国の会議で高市総理を批判」(ABEMA TIMES))。それに高市首相はどう応えるのであろうか。
東アジア・西太平洋での有事は、沖縄・日本に住む私たちにとってまさに悪夢(将来の地獄絵図)であることはいうまでもない。改憲と戦争への道をまい進する高市政権の暴走をいまのうちに何としても止めることが喫緊の課題である。
最後に確認しておきたいのは、次の諸点である。
いま問われているのは、日本の民主主義の問題である。
沖縄(基地)問題は、沖縄独自の問題ではなく、むしろ対米従属を続ける日本の問題である。
辺野古新基地建設と南西諸島の軍事要塞化は、直ちに止めるべきである。
沖縄を再び戦場にすることは、絶対にあってはならない。「第二の沖縄戦」を許してはならない。
日本を「第二のウクライナ」にしてはならない。米国の対中代理戦争の罠にはまる、愚かな選択は避けるべきである。
台湾有事は日本有事ではない。他国の内政問題に介入すべきではない。
中国・ロシア・北朝鮮との武力による対決ではなく、対話による友好関係の構築を目指すべきである。
非核3原則は堅持しなければならない。核武装は、日本滅亡への道である。
日本国憲法の根本原則(平和主義、国民主権、基本的人権の尊重)を変えてはならない。緊急事態条項は、日本をファシズム・独裁国家に導くことになる。
日本の真の独立は、日米安保条約の解消と日米平和条約の締結によってのみ実現する。事実上の占領軍である駐留米軍は、まず沖縄から撤退すべきである。
国民・有権者は、根拠のない中国脅威論やデマ・偽情報に騙されてはならない。
そのためには、真の主体的批判的精神を育む「主権者教育」と「情報リテラシー」が必要だ。
(了)
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『日本は、本当に「もうすぐ日本は戦争する国になる」のか』(26年9月7日掲載)









