武雄アジア大学をめぐる監査、市長、議員それぞれの認識(1)監査が問わなかった「下振れリスク」
現在、武雄市議会の9月定例会が9月1日~30日の会期で開かれている。9月8日の一般質問では、小松政市長が12月に行われる市長選への出馬表明を行った。また、11日までの一般質問で複数の議員から、武雄アジア大学に関する重要な質問が相次いだ。これについてもあらためて取り上げる。
先立つ7日、武雄アジア大学への補助金支出をめぐる住民監査請求の結果が公表された。結果は請求棄却となり、このことはすでに多くのメディアで報じられたが、問題は、監査委員が何を確認し、何を確認しなかったのかだ。
当社は監査結果の内容を入手した。それを読むと、監査委員と市執行部、立場を異にしながら、武雄アジア大学構想に対して共通して抜けて落ちているものが見えてくる。
監査委員「不合理、不公正とはいえない」
武雄アジア大学を運営する(学)旭学園に対し、武雄市が19億4,809万円(武雄市負担12億9,873万円、佐賀県補助6億4,936万円)の補助金を支出したことをめぐる住民監査請求について、7日、武雄市監査委員は請求を棄却した。
監査委員は、市の補助金支出について「財務会計上の行為に市の違法性は認められない」とし、市長の裁量権を逸脱、濫用した行為とは認められないと判断した。また、大学経営や学生確保など個別の論点についても、市の判断は「特に不合理又は不公正とはいえない」とした。
監査結果を受け、請求人側の「武雄市を守る会」は同日午後、武雄市役所記者室で会見を開いた。会見で住民側は、今回の監査について、補助金支出を判断した時点で市がどのような資料を確認し、どのような検証を行ったのかという「判断過程」に十分踏み込んでいないと批判した。
また、市長部局から独立した立場で監査すべき監査委員が、市側の説明に大きく依拠するかたちで「市の判断は特に不合理、不公正とはいえない」と結論づけたことについて、「監査委員制度が本当に行政をチェックする機能をはたしているのか、その存在意義と実効性そのものに疑問を抱かざるを得ない」とした。
そのうえで住民側は、監査では十分に解明されなかった問題を司法の場で明らかにする必要があるとして、武雄市と小松政市長を相手取り、住民訴訟を提起する方針を表明した。今後、弁護団で監査結果やその判断根拠となった資料を精査したうえで提訴を検討するとしている。
画像提供:武雄市を守る会
監査結果を検証する
当社は監査委員が住民側に通知した監査結果を入手した。以下では監査結果の内容を検証し、そこから浮かび上がってくる問題について論じる。まず住民側が7月10日付の監査請求書で問うた論点は、大きく5つに分けられる。
(1)大学経営の見通しは妥当だったのか
旭学園の財務状況や収支計画を踏まえ、武雄アジア大学を継続的に運営できるだけの経営基盤があったのか。
(2)学生確保の見通しは妥当だったのか
定員140人を確保できるという見通しについて、十分な根拠があったのか。とくに旭学園が実施したアンケートを学生確保の根拠とした市の判断が適切だったのか。
(3)経済波及効果の見通しは妥当だったのか
学生数や市内居住者、市内就職者などを前提として算出した経済波及効果について、その前提や算定方法に合理性があったのか。
(4)約19.5億円という補助金額は妥当だったのか
巨額の公金支出について、その金額に客観的、合理的な算定根拠があったのか。また、補助額と期待される公益との均衡が取れていたのか。
(5)補助金の返還を求めるべきではないか
実際の入学者が定員を大幅に下回ったことなどを踏まえ、補助金の取消しや返還請求を行うべきではないか。返還されない場合、市長や関係職員に損害賠償を求めるべきではないか。
当社はこれまで、(1)大学経営の見通しと(2)学生確保の見通しにおける武雄市の判断過程について、繰り返し問題点を指摘してきた。この2点に加えて、(4)補助金額について、以下で監査結果を検証する。
市の「検証不在」はどこまで問われたか
まず、(2)学生確保の見通しについて、監査委員はどのように判断したのか。枠内は監査結果からの該当箇所の抜き出しである。
(2)学生確保の見通しについて(①…と下線は記者加筆)
(請求人の主張は省略)
市の説明によれば、①学生の確保に関しては基本的に大学側が資料を作るものであり、②武雄市で独自に分析ができるようなものではないと考えている。旭学園が行った高校生に対するアンケートでは、大学ができたときの入学対象の年代の高校2年生に実施をし、その結果は大学の認可を受けるためには重要となる資料になり、この段階では十分な需要があると判断されている。
〇監査委員の判断
令和6年7月23日の③第7回特別委員会で定数が充足している旨報告され、同年7月25日に交付申請及び決定がなされている。
また、文部科学省の大学設置認可を受けるためには、定員が充足されるという根拠が必要であるため、④同年10月に大学設置認可の申請をされた時点では、アンケート結果により、⑤学生数が定員を満たす相応の根拠があったと考えられる。
実際に学生数は定員を満たしていないものの、当時の状況を踏まえると、市の判断が特に不合理又は不公正とはいえない。
一読して論理をつかみにくい部分もあるが、監査委員が判断したことを整理するとこうなる。武雄市は、①学生確保に関する資料は基本的に大学側が作成するものと認識し、②市が独自に分析できる性格のものではないと考えていた。一方、③市議会特別委員会で旭学園からアンケート結果において定員が充足している旨が報告され、その後④大学設置認可申請も行われた。大学設置認可には定員充足を裏付ける根拠が必要であることなどから、⑤「定員を満たす」と判断できる相応の根拠はあった――というものだ。
旭学園は設置申請に先立つ市民向け説明会の段階から一貫して、「アンケートは大学の設置認可申請のために実施されたもの」であるとして公開を拒んできた。武雄市も、そのような旭学園の主張に沿う姿勢を示してきた。議会答弁や当社の取材において市は、旭学園にアンケート結果の公開を求める予定はないこと、旭学園から「アンケートの結果、定員を満たす見込み」との説明を受けていることをもって学生確保の根拠とする姿勢を示し続けてきた。
だが、旭学園は中立的な第三者ではない。武雄アジア大学を開設する事業主体であり、同時に巨額の補助金を受ける当事者である。事業主体が調査をもとに「学生を確保できる」と判断することと、公金を支出する行政側が「学生を確保できる」と判断することは、本来別の行為である。
よって監査は、武雄市の②の姿勢が妥当だったかどうかを、リスク管理の観点から問うべきであった。市職員自身が大学進学需要を専門的に分析することが困難だったとしても、それは補助対象者から示された数字を検証する必要がないことを意味しない。市内部に専門的知見がないのであれば、外部専門家など第三者による検証も考えられたはずだ。しかし、監査結果からは、この点について踏み込んだ検証は読み取れない。
ねじれた補助金交付決定とその根拠
もう1つ注意したいのは時系列だ。補助金の予算可決は24年6月20日、交付申請、交付決定は同年7月25日だ。一方、監査委員が「相応の根拠」を認める材料として挙げた文部科学省への④大学設置認可申請は、その後の同年10月である。補助金の交付決定の根拠が問われているのに、なぜ監査委員は交付決定後の④まで根拠と見なすのか。
このことを考えるうえで、補助金を含む補正予算案が可決された経緯を振り返る必要がある。補正予算は設置認可申請前の24年6月定例会で可決された。その理由は、設置認可を文科省に申請するには資金の裏付けが必要だが旭学園の自己資金では足りないため、先行して補助金の予算化と交付決定を行う必要があったからだ。
24年6月定例会において小松市長は次のように答弁して、補助金の予算化の必要を訴えていた。「認可申請をする手前では、やはり資金計画を含めて、膨大な量の申請書の準備が必要となります。その準備期間を考えると、今6月議会がタイムリミットであるというふうに考えております」。武雄アジア大学に対するさまざまな懸念の声にもかかわらず、小松市長はタイムリミット論を主張して、補助金を含む補正予算の議決を議会に求めたのである。
この経緯については過去記事をご覧いただきたい。
『武雄アジア大学の補助金19.5億円、議決の経緯(1)申請のために急かされた議決』
このような時系列のねじれには、学生確保の根拠が不十分なまま、補助金の交付を先行して進めたという経緯が表れている。だが監査委員は、そのような時系列のねじれに疑問を示していない。
「4年間の資金」に対する学生確保の影響
学生確保の問題は、そのまま(1)大学経営の見通しにつながる。
(1)大学経営の見通しについて
請求人は、旭学園が市に提出した収支計画では、学生充足率を毎年85%と仮定をしても、開学後4年間は赤字であり、また5年目の黒字化は、私学助成金が入ってくるということを前提としており、策定根拠が不明確ではないかと主張していると思われる。また、私学助成金は学生数が収容定員の50%以下であれば交付されない可能性もあるので、赤字経営の危険性というのは、補助金の支出前からわかるものであったとしている。
市の説明によれば、旭学園から4年間赤字であること、またそれに対処できる現金預金があることについて⑥説明を受けているとのことであった。
○監査委員の判断
旭学園の数年の決算書を確認したところ、⑦常に一定額の現金預金が存在し、開学後の4年間の運営資金が不足するとは言えない状況と考えられる。また私学助成金については、全国の私立大学のほとんどが交付を受けながら運営しており、学生数の確保が必要であるが、交付を受けることを前提とすることには問題ないのではないかと考える。⑧学生数の確保については今後大学側の努力に委ねられると考えられる。
このような状況を踏まえて、市が大学経営の見通しについて判断したことは特に不合理又は不公正とはいえない。
監査委員は主に⑦を論拠に、市の判断は不合理・不公正ではないとの認識を示している。だが、手元の決算書で「4年間の運営資金」があるように見えることと、実際に「大学経営の見通し」が立つことは同じではない。なぜなら、⑧学生確保数が大きく下振れした場合、財務基盤がぜい弱な旭学園の⑦は大きな影響を受ける可能性があるからだ。
これについて当社は繰り返し、旭学園の収支見込みとして報じてきた。
『武雄アジア大学の事業継続性を問う(2)学生確保費用が左右する旭学園の資金繰り』
監査委員は⑧のように学生確保の必要性は認識しているものの、下振れリスクを⑦財務評価に織り込むことの重要性については素通りしている。ここにも、動的なキャッシュフローを踏まえたリスク管理の観点が監査に欠如していることが示されている。
「算出根拠」と「負担の合理性」は別問題
最後に(4)支出額の妥当性について見る。
(4)支出額の妥当性について
請求人は、武雄市の実質負担である12億9,873万1,000円を、負担に見合う効果として何年でどのように回収するのかについて、議会でも問われていたが、当時の担当部長は、この回収計画については、全く計算していないという答弁をしていたことについて、約19億円もの公金を支出するのに、その投資に対しての回収を全く計算していないことは、政策判断の誤りという以前に、そもそもその判断を行うために必要な作業そのものが欠けていたと考えている。
なお、5年間で約4億7,000万円もの赤字を見込む計画に、約19億円を支出したのか。学生確保の見通しを誰がどの資料で確認し、問題ないと結論を出したのか、実現性が不明な経済効果をなぜ支出の根拠としたのか、またなぜ約13億円を市が負担しながら回収をきちんと計算しなかったのか。
本件の支出判断というものは著しく不合理であり、行政機関の裁量権を逸脱、濫用したものと考えている。
市の説明によると、補助金は、回収を前提とした貸付金等とは異なり、事業活動を政策的に後押しすることを目的としており、行政目的を効率的に達成する手段であるとしている。
支出額については、県内直近で補助金を支出している小城市の補助金の交付要綱を参考とし、施設整備費は文部科学省が大学設置基準面積に余暇スペース分を見込み1.1を乗じた面積に、建築コスト情報誌の中の大学の基準単価を用い、武雄市で建築した場合の運搬率や物価上昇率等を勘案し算出した基準単価を乗じて補助対象経費を算出し、その経費の2分の1、設計費及び備品費は大学からの見積額を補助対象経費とし、その3分の2として補助額を算出している。
○監査委員の判断
武雄市大学施設等整備事業費補助金交付要綱の趣旨に基づき大学の誘致による地域活性化を図るものであり、回収を目的としたものではないこと、また、上記(3)にあるように、市への経済効果及び税収が見込まれている、支出額においても十分な算出根拠をもって算定していると判断され、武雄市議会においても債務負担行為について議決を受けているため、この補助金の支出に問題はないと考えられる。
監査委員が確認したのは、主として約19億円という補助額をどのような計算方法で算出したかという点だ。
しかし、住民側が監査請求において問うた本質はそこではない。請求人の主張要旨には次のように記されている。
補助金の金額については武雄市の財政基盤から見て極めて多額である約19億円と決めた合理的な根拠を欠くまま決定されたものである。
約19億円のうち武雄市の負担額約13億円は、具体的に市の財政規模に照らしてどの程度のものなのか。実際に補助金が支出された令和7年度の決算はまだ確定していないので、令和6年度の確定決算に照らしてみてみる。
令和6年度の武雄市の一般財源は約154億円だった。一般財源とは、市税や地方交付税など、使途があらかじめ特定されていない財源である。一方、人件費や扶助費、公債費と、物件費、補助費、繰出金など毎年度継続して必要となる経常経費に充てられた一般財源は約141億円だった。
両者を単純に差し引けば約13億円となる。両者は財政統計上まったく同一の区分ではなく、この差額がそのまま市の「自由に使える財源」を意味するものではない。しかし、1つの目安として、武雄市の補助金負担額約13億円が、これと同規模であることは、武雄市の通常の財政規模に照らして決して軽微でないことを示している。
住民側が問うたのは、武雄市にとって決して軽くない規模の補助を武雄アジア大学に対して行うことの合理性であった。しかし、監査結果は、主に補助金額算定の計算式を示すことにとどまり、住民側の問いに答えたとは言い難い。財政基盤に対する負担の相対的規模は、リスク管理を行ううえで基本要素である。しかし、これについても監査委員は考慮して踏み込んだ検証を行ったようには見えない。
監査のチェック機能に残る疑問
監査結果は、(1)~(5)の各論点を検討したうえで、市の判断について「特に不合理又は不公正とはいえない」などとし、最終的に「大学への補助金の支出に係る財務会計上の行為に市の違法性は認められない」と結論づけた。ここで監査委員が主として確認したのは「判断する根拠があったか」である。
それに対して当社がこれまで問い続けてきたのは、「その根拠が外れた場合まで考えていたか」であった。当社が見る限り、監査結果は「根拠が外れた場合」まで踏み込んだものにはなっていない。つまり、今回の監査結果は、経営上十分なリスク管理に基づいて補助金支出が行われたことまで認定したものではないといえる。
今回監査を行った武雄市監査委員と、監査対象となった市執行部は、制度上は独立し、立場も異なる機関である。しかし、今回の監査結果を見る限り、前提が崩れた場合の下振れリスクまで含めて、市執行部の判断を監査委員は十分に検証したとは言えない。この点は、監査という制度が市執行部に対するチェック機能としてどこまで実効性をもつのかという新たな問題を提起している。
さて、現在開会中の9月定例会では、小松市長が12月に行われる市長選挙への出馬表明を行い、また複数の議員が武雄アジア大学について質問した。それは監査とは別の、議会による行政チェックの場である。市長、市執行部、議員それぞれは大学構想のリスクをどのように認識しているのか。そして議会によるチェック機能はどこまで働いているのか。次回以降、その答弁を検証する。
(つづく)
【寺村朋輝】









