クロサキメイト跡地利用へ
市がプロジェクトチーム
2026年7月、北九州市は「次世代まちづくり・投資戦略(たたき台)」をまとめた。43年までに、JR小倉駅・黒崎駅の両駅から半径1km圏で1兆円の民間投資を呼び込もうという戦略だ。目標到達に向けて創設された「民間投資促進パッケージ」には、規制緩和や特区制度の活用、税制・財政措置など幅広く盛り込み、行政の伴走支援によってエリア価値の向上を目指す。
小倉(小倉北区)と黒崎(八幡西区)を「自然体の価値向上を図るための起点エリア」と定めるなかで、黒崎再生に関しては、「黒崎リバイバル~未来の生活モデルの拠点~」と銘打ち、JR黒崎駅に隣接するクロサキメイト跡地のプロジェクトチームを発足させた。20年8月に完全閉業して6年もの間手付かずとなっているクロサキメイト跡地は、ようやく動き出すことができるのだろうか。
黒崎駅の元キーテナント
クロサキメイトとは
クロサキメイトは、JR黒崎駅東側に隣接するキーテナントとして1979年に創業した。地上8階、地下1階(延べ床面積約9.7万m2、土地約1.8万m2)の大型施設に「黒崎そごう」「メイト専門店街」「ジャスコ黒崎」の3業態が入居していた。
79年は、北九州市の人口が106万8,000人というピークに達した年でもある。しかし70年代の産業革命によって鉄工業や石炭業が衰退したことから人口流出を止められず、クロサキメイトはテナントの撤退や入れ替えを繰り返し、売上の低迷によって2020年に完全閉業した。
最初のテナント撤退は、99年2月の「黒崎フォーラス」だ(90年にジャスコ黒崎からイオングループの黒崎フォーラスへ業態転換)。フォーラスが入居していた部分はファッション専門店街「メイトエンポリアム」(メイト黒崎)に転換されたが、翌2000年12月にそごうグループが経営破綻したことにより、核テナントであった黒崎そごうが閉店し、ビルの約半分が閉鎖された。
01年10月に黒崎井筒屋がそごう跡に移転したことで、いったんは状況が改善されたものの、井筒屋も経営不振に陥り、18年には、翌19年内の営業終了を発表した。このとき、地元の強い要望があったことから、井筒屋は規模を1階から3階までに縮小したかたちでの営業継続へと方向転換した。しかし、20年1月、運営会社である(株)メイト黒崎が東京地方裁判所に破産を申請(負債総額は約25億円)。井筒屋は同年8月に閉店し、同時に全テナントが撤退した。
車道に仮歩道が作られている
巨大な商業ビルが、活用の道を見出せずに放置され続けている大きな理由の1つは、所有者が複数存在し、権利関係が細分化されていることだ。建物の主な所有者である(株)メイト黒崎も破産しているため、交渉は容易ではなかった。現在は、ビル周辺の歩道も含めた敷地全体が閉鎖されて、一部では通行もままならない状態だ。
市は老朽化した建物のリノベーションや建替えを検討し、民間企業が投資しやすい環境の整備を目指すため、先のプロジェクトチームにより具体的な検討を進めていくという。
黒崎を副都心と位置付ける
北九州ルネッサンス構想
黒崎駅周辺の開発を含む都市再生に対しては、市も精力的に政策を打ち出してきた。1988(昭和63)年12月に策定された「北九州ルネッサンス構想」では、小倉を都心、黒崎を副都心と位置付けて都市再生を目指した。それまでの「五市(合併前の門司市・小倉市・戸畑市・若松市・八幡市)均衡発展」から「二極構造」へと大きく方向転換したかたちだ。それでも、70年代に始まったエネルギー革命や、山陽新幹線の開業とともに九州の玄関口が北九州から福岡へと移行した影響は大きく、構想の軸が次第に小倉に移行した流れはやむを得なかったともいえる。黒崎の開発が遅れている理由は、単純ではない。
01年には、黒崎駅西地区市街地再開発事業である官民複合施設コムシティ(COM CITY)が、JR黒崎駅の隣接施設として総事業費約311億円をかけて竣工し、全面開業した。だがわずか2年後の03年5月には、商業施設の運営を手がけていた第三セクター「黒崎ターミナルビル」が民事再生法を申請(負債額約130億円)し、北九州市は35億円の損害を被ることとなった。07年に入って沖縄の(株)沖創建設が約24億円でコムシティを購入したものの、こちらも経営破綻し、11年に市が3億円で購入するという結末を迎えている。
市は11年12月に「コムシティ再生計画」を策定し、検討会を重ねた後、翌12年にコムシティに対する貸付金約29億3,000万円と延滞金約25億円の債権を放棄。ビルは改修工事を経て、13年に区役所や美術館などが入居する公共施設中心のビルとして再出発をはたした。
1970年代から続く
商圏としての落ち込み
クロサキメイトの破綻に続きコムシティの失敗が重なったことが、黒崎の商圏としての深刻な状況を浮き彫りにした。22年にまとめられた「北九州市商圏調査報告書」によれば、調査時の黒崎中心市街地の商圏人口は51万8,000人であり、2000年からの推移を見ると全体で約4万8,000人の減少となっている。合わせてJR黒崎駅の利用者数を見てみると、1976年には約26万人(1日平均)を超えていた数字が、クロサキメイトが完全閉業した20年には約11万人(同)まで落ち込んでいる。
調査で行われたアンケートでは、黒崎エリアをショッピングなどで利用しているのは比較的高齢の女性が中心で、次点の利用理由は「(役所など)公共機関利用のため」だ。30代以下の若い世代にとっての黒崎は「通学・通勤利用、または通過地点」との回答が中心で、駅に降り立つ機会がそもそも少ないことが示されている。
市は商圏低下の要因の1つとして、「クロサキメイトと黒崎井筒屋の閉店によってまちの誘引力が低下」したことを指摘し、24年11月に「黒崎地区を暮らしやすく訪れたいと思えるまちにするためのニーズ調査報告書」をまとめた。アンケートで「(駅に近接する黒崎商店街を)ほとんど利用することがない」と答えた回答者は、理由のトップに「魅力的な店がない」(22.7%)、次点に「無料の駐車場がなく利用しづらい」(16.8%)を選択している。70年代から急速に進んだモータリゼーションに対しても、エリアとして歩調を合わせきれずに、ここまできてしまった様子が浮かび上がる。
現在、隣の区である八幡東区には、旧スペースワールド跡地に建つ日本最大級のアウトレットモール「ジ アウトレット北九州」(22年開業)と、隣接する「イオンモール八幡東店」(11年開業)がある。とくに、170店舗を有するジ アウトレット北九州は4,500台を収容可能な駐車場を保有し、大型バスの乗り入れも可能で、外国人観光客が訪れる拠点としても機能する。旧クロサキメイト跡地に、両施設に匹敵する商業的機能を付加できるかと問われれば、厳しいところだろう。
商業エリアから生活拠点へ
「黒崎リバイバル」に着手
では、これからの黒崎駅周辺は、どのように価値を読み直せば良いのだろうか。新たな戦略のなかでは、駅北側に存在するものづくり企業や先端企業と、南側にある商店街を含めた住宅や医療、教育機関などが近接する強みを生かして「人中心の空間づくり」を進めるとし、「20年先の暮らしを10年早く実現するまち」と謳われている。旧クロサキメイト跡地の再開発のボトルネックとなっている複数の権利者や利害関係に対しては、調整支援や制限緩和で対応していくとする。
北九州市は武内市政がスタートした23年から、市の再生の中心軸をDX化に置いている。24年に中小企業のDX化を表彰する「北九州DX大賞」を創設し、翌25年には政令都市として初めて「AI」を冠した「DX・ AI戦略室」を設置するなど、ものづくりのまちとしての設計図を描き注力してきた。「コクラ・クロサキ リビテーション」第1弾として小倉北区に建設された「BIZIA小倉」のIT関連企業誘致もその一環だ。今回の黒崎駅周辺地区再開発でも、古いものを修繕する考え方ではなく、地域に新たな価値を付加し、活用方法を生み出す方向へシフトしたと考えられる。つまり黒崎は、副都心としての商業機能を追い続けるのではなく、生活に重点を置いた「街区」として整備し、起点としての価値に厚みを出したいのだろう。旧クロサキメイトも「未来の生活モデルの中核拠点」と位置付けられ、研究・開発・教育施設としての活用もイメージされている。
その流れを受け、黒崎エリアではマンションやオフィスの開発が進んでいる。26年2月には、JR黒崎駅から徒歩約6分の立地に、北九州初となるタワーマンション「グランドパレス黒崎マークスタワー」(第一交通産業(株)、地上20階建、総戸数139戸)が竣工し、すでに完売した。隣駅のJR八幡駅前には、「オークランド・コアズ八幡 タワーエクスタージュ」((株)オークラ、地上19階建、総戸数61戸)が同年3月に竣工。8月時点で「入居率は98%」(同社)としている。
市は八幡西区に隣接する若松区への企業誘致を推進しており、この4月には、ヤンマーホールディングス(株)が大容量の非常用発電機の工場を28年内に稼働させることが発表された。これを呼び水として、データセンターの開設につなげたい考えだ。旧クロサキメイトの再開発が進み、当エリアの文化的価値を高めて人の流れを引き戻すことができれば、両区の回遊性向上にもつながるはずだ。人の流れを後押しすることができれば、縦割り構造問題を指摘されがちな五区の境界が、より緩和される将来像も見えてくる。
また、JR黒崎駅は鹿児島本線の快速や特急の停車駅で、博多駅まで特急で40分という利便性の良さがある。福岡市への通勤圏として、十分に視野に入る距離感だ。本駅の25年度の利用者数は、前年比で2,000人増となっており、じわりとだが盛り返しが見え始めている。市は今後、「市民意見などを踏まえながら、商店街を含む黒崎のまちづくりの方向性について議論する」としている。再開発が着実に進み、まちに活気が戻ってくることを期待したい。
【白石涼子】

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