高島福岡市政の16年(8)福祉の現場から(後)現場の声 就労支援の精神保健福祉士に聞く
就労継続支援A型事業所の管理者で、精神保健福祉士のAさんに、この16年と、これからの課題を聞いた。
コロナ禍で広がった在宅での就労支援
──この16年で、一番に思い浮かぶことは何ですか。
「コロナです。誰もが不安と闘った時期でした。障がい者就労の訓練の場では、必要性が言われていた『在宅での就労支援』が一気に進みました」
就労系のサービスを在宅で使うことは、2007年の厚生労働省の通知で認められていた。ただ21年3月までは、通所が難しく、在宅での支援がやむを得ないと市町村が認めた場合に限られていた。
「制度はあっても、使い方や管理の仕方が分からず、うまく活用されていませんでした。どうしても必要だと感じた人たちが行政に粘り強くかけ合い、認めてもらって細々と使っていたのが実情です」
コロナ禍の20年度、国は障がい特性によらず在宅での支援を柔軟に認めてよいとし、21年度の報酬改定で、本人が希望し支援の効果が認められれば在宅で利用できるようにした。在宅で利用する場合、事業所は1日2回、連絡や助言、進み具合の確認を行い、日報を作ることなどが求められる。
「在宅の支援を実際に多くの人がやってみたことで、経験の蓄積ができました。福祉サービス事業所の選択肢が少ない地域の人たちにも、離れた場所のサービスを活用するチャンスが生まれました。一方で、始めと終わりに電話をして、その間は好きな勉強や塗り絵をしていたという話も耳にします。それを『訓練』と言い張るのは難しいですよね」
現在は各地の自治体で、就労や訓練として成立しているのかを見直す動きが出ている。
「それでも、在宅で支援を受けながら働いたり、働くための訓練をしたりする方が合う人が一定数いることも、実績として残りました。以前のように、働くことではなく『外に出ること』が乗り越える目標になってしまわないよう、この経験を生かしてほしいと思います」
企業の変化と、事業所との溝
──障がいのある人の就労は、どう変わりましたか。
「『企業がしてほしい仕事ができるか』というところに視点が移ってきたように思います。以前は、障がいのある人でもできそうな仕事を集めて受け入れる、という感じでした。企業は『この人』を採りたいのではなく『障がい者』を採りたいのだと、絶望した時期もありました。それが『うちがしてほしい仕事ができるなら』という雰囲気に変わったと感じます。また、障がいに関係なく、いろいろな人が職場に入ってくる中で、これまで当然とされてきた『指示されたことをする』ということにも、評価の光が当たってきています。言われたことをやり遂げるのは、それ自体が仕事の力です」
民間企業に求められる障がい者の雇用割合(法定雇用率)は、24年4月に2.5%、26年7月に2.7%に引き上げられ、雇用義務のある企業も従業員37.5人以上に広がった。
「就労系サービスの事業所が増え、お弁当や飲み物が無料とか、動画が見られることを誘い文句に利用者を集めるところも出てきました。無料の飲み物や食べ物を批判するわけではありませんが、そこで人を集めるのは違うと思います。サービスを与える人と受ける人という構図になっているところも気になっています。そもそもは、それぞれの方が、それぞれにできる働き方にどうコミットしていくかを、本人と事業所が一緒になって具体的行動を重ねていく場です。働くのは本人ですので、そこを代わりに誰かがすることはできません。
してほしい仕事をしてくれたらいいという企業と、支援を受ける側にとどまらせてしまう構図とのあいだで、溝を作ってしまっていないかと懸念しています」
新しく光が当たった言葉と、NPOへの後押し
──ほかに、この16年で印象に残っていることはありますか。
「新しくできた言葉です。ヤングケアラーは、以前からあったことに光が当たった言葉です。警固界隈という言葉もできました。東京や大阪だけの話ではなく、我が街でも起こっていることを意識させる言葉です」
福岡市のヤングケアラー相談窓口は、NPO法人SOS子どもの村JAPANの中に置かれている。24年6月には子ども・若者育成支援推進法が改正され、ヤングケアラーが「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と定義された。天神の警固公園に集まる若者をめぐっては、市長が19年10月、公園内の安全安心センターで、若者の居場所づくりに取り組むNPO法人SFD21JAPANと意見交換している。
「市にはNPOを後押ししていく姿勢があります。ただ、自由にやっていく中で得られた知見を、有効で続けられる仕組みにする必要があります。そこをイメージしながら進めてほしいです」
市は26年度、NPOの人材育成や組織運営、財源確保などを支える伴走型の支援事業を行っている。
次の市長に期待すること
──次の市長に期待するものは何ですか。
「障がい者差別をなくす条例をつくる時は、さまざまな立場の人から意見を聴く場がつくられていて、注目していました。今後もさまざまな意見を聴く姿勢は維持してほしいです」
市内では、条例の制定を求める市民団体「福岡市に障がい者差別禁止条例をつくる会」が活動してきた。市長が16年3月に条例の検討を表明すると、市は「有識者、市民、障がい当事者等の幅広い意見を聴く」ことを目的に検討会議を設けた。委員18人には、つくる会のほか、障がい者施設の団体や地域の自治組織、小学校長会、弁護士らが加わった。会議は16年8月から翌年3月までに8回開かれ、委員の意見提出シートは公表された。報告書には、意見が一致しなかった項目もあったと記されている。条例は18年6月に制定され、19年1月に施行された。
市の「おむつと安心定期便」は23年8月に始まった。0歳から3歳の誕生月までの子どもを育てる家庭が、子育て施設などを利用して電子スタンプを受け取り、おむつなどと交換する仕組みで、市は子育て家庭の孤立や虐待を防ぐことを目的に掲げる。市の資料によると、24年度末の登録率は約95%、継続して利用している人は約85%で、一定数の家庭が未登録や未利用のままになっている。生後1~3カ月の家庭はアンケートに答えて電子スタンプを受け取る仕組みで、市はその回答から育児の心配事などを把握し、連絡を希望する家庭にはコールセンターから連絡しているとしている。不在などで返送された定期便は、原則として再配送しない。市は委託先に、未登録・未利用の家庭への利用の勧奨や、出生時に届ける「お祝いボックス」を受け取らなかった家庭の理由の把握を求めている。
「その他、『おむつと安心定期便』では、受け取られずに浮いてしまっているものがあると聞きます。受け取られない理由を聞くなど、困りごとを抱える家庭と接点をつくるきっかけになっているのか、ただ渡すだけになっていないか、気になっています。実施から3年経過しましたので、より効果的に仕組みを活用するよう検討してほしいと思います」
(了)
【石橋雅子】









