中国の不動産不況、日本より長引く可能性~ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授の警告
中国経済新聞 2026年10月号掲載記事にデータ・マックスで編集を行ったものです。
中国の消費低迷は、いつまで続くのか。不動産市場の落ち込みが消費を押し下げる状況から、いつ抜け出せるのか。中国経済の先行きを考えるうえで、重要な問いの1つである。
この問題について、厳しい見通しを示した研究がある。ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授と、同教授の下で学んだ楊元辰(ヤン・ユアンチェン)氏による、1990年代の日本と現在の中国の不動産危機を比較した論文だ。全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパーとして公表され、2026年春には米ブルッキングス研究所の経済学会議でも発表された。中国では経済学者の夏春氏が翻訳して紹介し、関心を集めている。
研究が示すのは、中国の不動産価格の下落が消費におよぼす影響は、日本よりも大きく、長期化する可能性があるという見方である。国際金融の研究で知られるロゴフ教授は、日本のバブル崩壊後の経験を手がかりに、中国が直面する問題を分析した。そこから浮かび上がるのは、銀行危機を回避できても、経済の長期低迷まで防げるとは限らないという課題だ。
似た道筋をたどる日中の不動産市場
研究によれば、日中両国の不動産市場の調整には共通する特徴がある。好況期には、不動産が経済成長の原動力となった。日本では1970年代から80年代、中国では2000年代から10年代にかけてのことである。しかし、建設や投資の拡大が続いた後、不動産は経済を押し下げる要因に変わった。日本では1990年代以降、中国では2018~19年ごろから、その構造的な問題が表面化してきた。
中国では、不動産業と関連産業、さらにインフラ投資を合わせると、総需要のほぼ3分の1を占めるとされる。それほど大きな分野が縮小すれば、影響は建設会社や不動産開発会社だけにとどまらない。
日本の経験を振り返ると、調整の長さが分かる。日本不動産研究所の市街地価格指数によれば、六大都市の地価は1990年9月にピークを付けた。その30年後の2020年9月でも、住宅地はピーク時を65.2%、商業地は79.8%下回っていた。地価が下げ止まり、緩やかな回復を見せるまでにも、十数年を要したのである。
銀行危機を避けても
実体経済への影響は残る
一方、両国には違いもある。中国では家計の貯蓄率が高く、政策当局は金融機関への関与を通じて、債務の処理や損失の確定を時間的に分散させる余地がある。これまでのところ、日本のバブル崩壊後や欧米の金融危機のような、銀行システム全体を揺るがす危機には至っていない。
しかし、研究は、それだけで経済への打撃が小さくなるわけではないと指摘する。中国の家計資産は住宅への依存度が高く、その割合は約7割に上るとされる。住宅価格が下がれば、銀行の経営が直ちに揺らがなくても、家計は資産の目減りを感じる。将来への不安から支出を控えるようになれば、消費は弱まり、企業も投資に慎重になる。金融システムがもちこたえても、実体経済を通じた影響は長く残り得るのである。
過剰投資が残す「投資の二日酔い」
研究チームは、中国の約300都市と日本の都道府県のデータを用いて分析した。重要な発見は、不動産危機が金融上の問題に加え、建物や設備の過剰という問題をともなうことだ。好況期に建設が活発だった地域や、住宅在庫が積み上がった地域ほど、その後の経済成長が鈍る傾向が見られたという。
住宅は長期間使える一方、別の用途への転換が容易ではない。供給が需要を大きく上回れば、在庫の解消には時間がかかり、新たな建設需要も生まれにくくなる。研究は、こうした過剰投資の後遺症を「投資の二日酔い」と表現している。好況期の投資拡大が終わっても、その影響はすぐには消えないのである。
消費への影響は日本を上回る可能性
とくに注目されるのが、住宅価格の変動と消費の関係だ。研究では、住宅価格が1%変化したときに消費が何%変化するかを示す「弾力性」を推計している。中国の推計値は0.15~0.23で、日本の0~0.063を大きく上回った。住宅価格の下落に対して、中国の消費は日本よりも強く反応する可能性があるということだ。
住宅資産額の変化に置き換えると、資産が1元減少するのに対し、消費が約0.016~0.025元減少する計算になる。中国の住宅価格の下落幅を累計20~40%とする想定を当てはめた場合、消費への下押し効果はGDPの2~4%に相当する可能性があるという。
ただし、これは推計に基づく試算であり、価格下落の範囲や対象期間などの前提によって結果は変わる。それでも、住宅価格の下落が家計の支出に与える影響の大きさを示している。
AIで分析した悲観心理の影響
さらに、消費の落ち込みを深める要因として、将来への悲観がある。研究チームは、大規模言語モデルのGPT-4oを使って中国の主要紙に掲載された経済・金融記事を分析し、住宅市場に対する見方を数値化した。さらに、検索サービス「百度(バイドゥ)」のデータを用いて、都市ごとの住宅関連情報への関心の強さを反映させ、住宅市場に対する心理を測る指数を作成した。
分析では、悲観的な見方が広がる局面で、住宅価格の下落が消費におよぼす影響が強まることが示された。該当する推計では、基本となる係数0.126に0.176が上乗せされ、影響の大きさは2倍を超えた。日本についても、同様の増幅効果が確認されたという。
ここには、悪循環が生まれる余地がある。住宅価格が下がると、家計は将来を悲観し、支出を控える。消費が弱まれば、企業の売上や雇用にも影響し、景気の先行きへの不安がさらに強まる。その不安が住宅購入をためらわせ、不動産市場の回復を遅らせる。価格の調整と心理の悪化が重なり、低迷が長引くのである。
金融の安定と家計の安心
どう両立するか
日本はバブル崩壊後、不良債権の処理に長い時間を費やした。中国でも金融機関や不動産会社の財務問題への対応は重要だが、それと並行して、家計の資産と心理に目を向ける必要がある。住宅に資産が集中している以上、信用不安を抑えるだけでは、消費が自然に戻るとは限らない。住宅の引き渡しへの不安を解消し、雇用や所得の見通しを改善することも、需要の回復には欠かせない。
日本は「失われた30年」と呼ばれる長い停滞を経験した。中国が同じ道をたどると決まったわけではない。しかし、銀行危機を避けられることと、長期停滞を避けられることは、別の問題である。
ロゴフ教授と楊氏の研究は、激しい金融危機が起きなくても、不動産ブームの後遺症が長期にわたって成長を抑える可能性を示している。研究が投げかける警告は、そこにある。不動産不況の影響は、金融市場の混乱として表れるだけではない。家計が支出を控え、企業が投資をためらうという、目立ちにくいかたちで続くこともある。その影響をどう和らげるかが、中国経済の回復の速さと持続力を左右することになる。
<連絡先>
(株)アジア通信社
所在地:〒107-0052 東京都港区赤坂9-1-7
TEL:03-5413-7010
FAX:03-5413-0308
E-mail:edit@chinanews.jp
URL:https://chinanews.jp









