2024年03月29日( 金 )

経営を教えていただいた盛和塾~アスカコーポレーション(株)(後)

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 本社工場の壁には、社名にも負けない大きな文字で「お元氣様です」と書かれている。そこは直方市の地域経済と雇用を支える企業、アスカコーポレーション(株)である。主要産業を支えるめっき業界に身を置いて50年の阪和彦代表に話を聞いた。

(聞き手:弊社代表 児玉直)

 ――経営を学んだという盛和塾との出会いについて、お聞きしたいのですが。

 阪 1994年、私が45歳の時でした。それまでは周りに支えられながらも、自分なりの経営感覚を信じてやっていました。オムロンの協力会社として、一緒に仕事をしていた会社の先輩に多くを教わりました。いわゆる職人気質の、豪快な人でした。「社長は仕事なんかしなくてもいい」と諭され、言葉通り当時は毎晩のように遊んでいました。そんなときに、ひょんなことから稲盛塾長の講話テープを聞いたのです。「勇気と創造」――その話の一節に、稲盛塾長が社員を連れて比叡山に行く話が登場します。社員との飲み会の帰りに、暴走族に絡まれ、社員が傷つけられそうになるのですが、社員を守ろうとする稲盛塾長の気迫に圧倒されました。暴走族のリーダーとのにらみ合いの末、追い払ったエピソードを聞き、稲盛塾長にも、「こんなご経験があったのか」と衝撃を受けました。同時に「経営者とは社員のために命をかけてやるものだ」とも感じました。すぐに京セラ資材部の方にお願いして、盛和塾福岡をご紹介していただき、光栄にも入塾させていただく事ができました。私の過去の情報などを知り合いを通じて、稲盛塾長は聞いていたと思います。やんちゃしていた当時のことも。それでも、塾長はよく世話をしてくれたのです。本当に父親のように。まさに運命的な巡り合いだと感じています。全国で行われる塾長講話に出向きます。まさにおっかけです。

 ――こんな企業経営者は稲盛和夫塾長以外いないでしょうね。中小企業経営者を感激させる求心力。どこが違うのでしょうか。

アスカコーポレーション(株) 阪 和彦 代表<

アスカコーポレーション(株) 阪 和彦 代表

 阪 そうですね。当時は塾生が500名ほど。今や国内外に1万人。塾生の会社売上高を合計すると、35兆円ほどになるといいます。ここまで経営者を惹きつけるのも、やはりフォロソフィ(企業哲学)じゃないでしょうか。それが根底にあって、アメーバ(小集団)が存在します。稲盛式経営のポイントは、社員としての判断基準・フィロソフィと、組織を小集団・アメーバに分け、独立採算で運営するアメーバ経営で「全員参加経営」を実現させる。この両輪が育って初めて、「誰にも負けない努力」が生まれます。これが徹底されているところが違いを生むのでしょう。経営者が集まると、趣味の話や遊びの話も多く出ますが、盛和塾の集まりでは、本当に経営の話で溢れかえります。業績の話、時間当たりの生産性、雇用についての話など、真摯に経営を学ぶ場であるというのが、盛和塾。1年に1度は塾長に経営診断書を提出して、業績の相談をします。甘く無いですよ。盛和塾福岡でも、年間30名入会しても、ついて来れない方もいて10名ほど辞めていきます。稲盛塾長は現在、80歳を超えていますが、まだまだ精力的に活動されています。年間スケジュールを見ると、少しずつ出張回数は減っていますが、平日スケジュールは相変わらず詰まっています。やはり使命感ではないでしょうか。

 ――稲盛塾長はJALの再生にも尽力されていました。

 阪 日本航空の救済に、すぐに腰を上げたのも盛和塾です。署名集めや経営方針のアドバイスも個の力を集結してやりました。現場からも盛和塾のおかげで、難局を乗り切ることができたと言われますし、今でもJALを利用する際に、盛和塾のストラップを身に着けていると声をかけられます。フィロソフィとアメーバを浸透させることで、1期の赤字さえ許されない状況を乗り越えていきました。これが稲盛塾長の力です。

 JALの再生時には、稲盛塾長は徹底的に現場を見て回りました。航空機の整備室にまで足を運び、道具や資材の一つ一つにコストの意識を持たせました。それでも、再生を手がけていた稲盛塾長は1年間エコノミーにしか乗りませんでした。ファーストクラスやビジネスに乗って移動していると思われがちですが、そうじゃない。そこまで徹底して現場を見る。コストを意識させることを実践していました。常々口にするのが「周りは褒めるかもしれないが、私はいつまでたっても中小企業のオヤジだから」京セラでも最初は日本政策金融公庫からお金を借りて、スタートした。大企業も始まりは中小企業なんです。あれだけの人がこのように、自らを表現することを本当にありがたく、とても身近に感じています。十分な資産はお持ちですが、個人的な株や投資は一切しません。金儲けは汗水垂らしたものでなければとお考えのようです。

 ――「花阪組」という企業グループがあるとお聞きしましたが。

 阪 リーマンショック後に、業績が落ち込んだ時期もありましたが、乗り切ることができたのは実質的に花阪組のおかげです。花阪組は九州を主体とするものづくり企業集団です。国内外の40社が集まっています。めっき業界だけでなく、材料、薬品、素材加工、ソフト開発に運輸まで。これも盛和塾に集まった企業経営者が互いに自社の課題を打ち明け、絆ができたことで誕生しました。我々の技術をひとつに集結させてはどうかとの提案で生まれたのです。今では、花阪組の総売上高は600億円、経常利益20億円の一大集団となっています。花阪組としては、30社が技術登録して情報共有しています。1社では大手企業から見向きもされませんでしたが、異業種が集団で提案することで、相手企業のニーズに応えることができました。これにより、受注の幅は広がっています。

 この花阪組を誕生させてくれたのも盛和塾です。中小企業1社では、大手にはかないません。しかし、互いに信頼できる仲間とその絆を大切にしていけば、大手にも負けない仕事ができると思います。

(了)
【文・構成:東城 洋平】

<COMPANY INFORMATION>
アスカコーポレーション(株)
代 表:阪 和彦
所在地:福岡県直方市大字下境字黍田427-8
設 立:1971年1月
資本金:3,200万円
売上高:(15/5)約17億7500万円
URL:http://aska-plating.co.jp

 
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