2024年04月19日( 金 )

三菱自を安く手に入れた日産ゴーンの凄み(後)

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 今回の日産による三菱“買収”も、まさにあのときの出来事を彷彿とさせる。
 ゴーン会長は、相次ぐ不祥事で信頼を失った三菱の益子氏に対して、「日産は日産、三菱は三菱だ。我々はあくまでも株主であって、三菱は商品、市場、戦略の責任を負う。2社の責任範囲は線引きしている」と記者会見で述べ、日産という「大」に飲み込まれる三菱の不安解消に努めている。
 しかも今回の日産・三菱の提携メニューは、前回のルノー・日産の提携でも挙がっていた提携メニュー――共同購買、プラットーホームの共通化、共同の技術開発など――と、ほぼ同じであった。

mitubisi 日産はかねてから三菱にラブコールを送っていた。リコール隠しで窮地に陥った際には三菱の軽自動車部門を買い取る交渉を秘かに進めたことがあった。結局は実現しなかったが、軽自動車を持たない日産にとって、三菱のそれは魅力なのだ。宿願叶って両社は2011年に、軽自動車の共同開発会社を設立する運びとなっている。
 これをきっかけに、以来、両社は他の協業の可能性も検討してきたが、「大」に飲み込まれえるのを恐れた三菱は、なかなか踏み込まない。「いつかは資本提携が考えられるとゴーンさんと話し合ってきた」と益子氏は言うが、それは「いつか」「ひょっとしたら」という話であって、「三菱」という旧財閥の枠組みにある三菱がおいそれと実行に踏み切るはずもなかった。

 ラブコールをしてもなかなか進まない資本提携。そんなとき、日産が、三菱の燃費データの不正を発見した。過去のリコール隠しに続く信用失墜で、三菱は窮地に陥った。後見役の三菱商事は大赤字で身動きが取れず、三菱重工や三菱東京UFJ銀行も、身内とはいえ救済に二の足を踏む。まるでダイムラーと破談した直後の17年前の日産と似る。
 四面楚歌の三菱の益子氏に、救いの手を差し伸べたのがゴーン氏だった。三菱から軽自動車を調達している日産は、本来なら三菱の不正の被害者であり、賠償を要求してもおかしくないのに、逆に金を出すというのだから。

 買い方もさすがである。日産は2,340億円を費やして、三菱の株を34%取得する。3分の1以上の議決権を握れば、合併や定款変更などの重要事項を株主総会で否決できる「拒否権」を持つことができる。何も過半数を抑えなくても、会社を支配できるのだ。年初まで1兆円の時価総額のあった三菱は、今回の燃費不正で株価が暴落し、今や時価総額は5,000億円余りと、企業価値は半減。日産はたった2,370億円で、三菱を傘下に収めることに成功したのである。

 仮に燃費不正を発見したときに、こうした顛末まで見越して行動していたとしたら、ゴーン氏はやはりただものではないだろう。

(了)
【経済ジャーナリスト・車 光】

 
(前)

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