2024年05月04日( 土 )

世界遺産は本当に観光の目玉となるのか(後)

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世界遺産バブルはいつかはじける

 2007年7月に世界文化遺産に登録された島根県の石見銀山は、世界遺産登録前の観光客数は年30~40万人。登録された07年は70万人となり、翌08年は80万人と2倍にまで増えたが、その後は右肩下がり。14年に登録された富岡製糸場も観光客自体は増えたものの、道路や駐車場などの整備、老朽化した建物保全費用など、問題が山積みだ。世界遺産に登録されると知名度が上がり、国内だけでなく海外からも観光客が押し寄せてくる。インフラ整備や大量の観光客をさばくキャパシティ、インバウンド対策も必要となる。

 世界遺産に登録され、観光スポットとしてお墨付きをもらうことはゴールではなく、地元自治体にとっては「世界的に認められた遺産を守る」使命がスタートするのである。

観光振興なら別のアプローチもある

dazaifu 料理店に星をつけて格付けすることでおなじみのミシュランガイドに、観光を扱う「グリーンガイド」というものがあることをご存知だろうか。日本を訪れる海外観光客向けのガイドブックで、グルメガイドと同様に旅行者ヘのオススメ度を星で評価している。そのなかで、福岡を代表する観光地・太宰府は「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で二つ星を獲得している。また太宰府天満宮は一つ星、九州国立博物館は三つ星である。世界遺産と異なり、あくまで商業的な民間格付けではあるが、観光客にとって指針となるのは間違いない。事実、太宰府にはグリーンガイドを参考にした海外からの観光客も非常に多い。それは歴史ある観光地としての魅力はもちろんだが、福岡市内や空港から近いという立地、太宰府天満宮近くまで行ける西鉄電車や150台以上もの大型バスにも対応できる大駐車場などインフラが整っていることなど、地元自治体の協力も含めた「観光しやすさ」が評価されているからだ。

 地元の文化や自然に敬意を表して保全していくために世界遺産登録を目指すのならば問題はない。しかし、観光振興が第一の目的ならば、何も世界遺産にこだわらず、グリーンガイドのような観光地としての評価を目指すのも手ではないだろうか。

 世界遺産になると、保全に必要な規制や財政負担、観光客対策が発生する。そういった面もあらかじめ許容したうえで保全と観光振興のバランスをとっていければ、世界遺産は観光資源として大きな恩恵をもたらしてくれるだろう。「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」が世界遺産に登録されることを祈りつつ、国内の世界遺産の先輩を参考に、世界遺産にふさわしく、かつ観光の目玉となってくれることを期待したい。

(了)
【犬童 範亮】

▼関連リンク
・九州国立博物館 特別展「宗像・沖ノ島と大和朝廷」

 
(前)

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