2024年04月17日( 水 )

追悼文・反骨の士、川井田豊君へ~小六研究所・青沼隆郎代表

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 高校同窓の川井田君に経営指導を受けたのはもうかれこれ20年も昔のこと。当時、私は、勤務していた医療法人が東京に進出する際、東京の大きな商業ビルを医療施設に改装する事業の責任者としてその契約を担当しました。しかし、そもそも相手方が契約通りの施設を提供してくれるかどうかさえ不明だったため、すでに友人間で経営力量を高く評価されていた川井田君に教えを乞いました。

 高校時代はさしたる面識もなかった私の厚かましい申出を2つ返事で引き受け、自腹を切って信用訓査を行い、契約相手としては心配ないと太鼓判を押してくれました。この後押しで私は無事、医療法人の東京進出の橋頭保を築くことができました。

 その後、いくつかの医療機関で法務担当の部長・事務長として、主として医師や看護師などに医療過誤訴訟の解説や医療関連法務・標準業務手順書による危機管理法を指導監督する業務に従事しました。

 定年退職後、ひょんなことからデータ・マックスの児玉社長の知己を得て、「青沼氏の同窓生には錚々たる経営者がいるが、さすがといえる事業成功者は2名ほどである」と聞かされ、何気なく「誰ですか」と問うと、なんと「川井田豊社長」と答えられました。その名前を聞いた途端、20年前に川井田君に助けられたことを思い出し、電話の機会を得て連絡しました。

川井田 豊 氏

 私の20年ぶりの電話にはさすがに川井田君も驚きましたが、早速聞きたいことがあるので「飯でも食おう」と誘われ久しぶりに旧交を温めました。ただ、尋ねられた質問は流石に川井田君の鋭い感性を示すものでした。事業で、取引先の大手不動産会社ともめ、東京の法律事務所の弁護団に訴えられ、対抗上、地場の大手法律事務所に弁護を依頼したが、自分の経験上の費用・着手金の想定額と大きく異なるのでその当否について意見を聞きたいというものでした。

 弁護士が請求する着手金は寿司屋の時価みたいなもので、相手や事件の内容によって大きな幅があります。ただ、一応、弁護士報酬規程が提示されていましたので、1つの「解釈」として私見を述べました。ただ、いったん支払った着手金の返還請求は不可とするのが判例だから、訴訟が終局して成功報酬の段階で、改めて当該報酬規程の「解釈」で清算することになる、との私見を述べました。

 これで、川井田君本来の反骨精神が覚醒したのか、事件の主要な法的争点について最新の最高裁判例を自ら取り寄せ、相手方弁護団の法律的主張は無論、味方の弁護団の手ぬるさも厳しく指摘する意見書を瞬く間に作成して味方弁護団に送付しました。

 その意見書について当然私も見解を求められました。最高裁の判例を素人が読むことは容易ではありません。とくに、高裁の判決を論理的に批判検討するのが最高裁判例ですから、そもそも高裁判決をしっかり理解する必要があります。私もそれなりに必死に検討した結果、川井田君の意見書の指摘はまったく正当と思いました。

 私は国立大学の法学部を卒業し医療機関の法務事務に従事し、医療過誤判例の研究などに関わってきたこともあって、一応法律文書が理解できるのですが、そのような経験のない川井田君が多数の弁護士らの議論の稚拙さを見事に指摘する力量には驚かされました。そんな彼の指摘にそれを受ける弁護士らの困った表情が目に浮かび、彼の指摘がむしろ待ち遠しくさえ思えるこのころでした。

 それが、突然の終わりを告げました。不条理というほかありません。

【小六研究所 代表 青沼 隆郎】

 

関連記事