九州地方整備局(以下、九地整)が設置する「建設業法令遵守推進本部」は、2007年度の発足以来、元請と下請との対等な関係の構築および公正かつ透明な取引の実現を図ることを目的に、建設業界における法令遵守体制の整備と指導を進めてきた。だが、依然として建設業の請負契約における不適切な取引―とくに下請への不当な対応や契約不履行などが後を絶たないなかで、同本部の役割は年々重要性を増している。
通報・相談件数が急増
2024年度の活動結果報告では、「駆け込みホットライン」や「建設業フォローアップ相談ダイヤル」に寄せられた通報・相談件数が559件に達し、23年度(447件)を大きく上回った。ただし、23年度実績が23年4月~24年3月の12カ月間の集計なのに対し、24年度実績は集計期間の変更による24年4月~25年6月の15カ月間の集計となっており、集計期間の長期化が急増の主な要因となっている。
寄せられた通報・相談の主な内容としては、建設業の許可や技術者制度に関する相談などの「制度、法令等の問い合わせ」が383件と最も多く、次いで「請負代金の不払い」73件、「法令違反等の疑義」67件、「社会保険未加入対策への相談」31件、「建設工事の施工不良等」5件、となった。不当な契約条件、口頭契約および契約書未作成などによる元請から下請への請負代金不払いなどのトラブルが目立っており、とくに一人親方を含む2次下請以降からの相談が多かった。また、無許可業者や配置技術者の兼任などの「法令違反等の疑義」に関する通報・相談も多く、依然として建設業界における課題が根強いことが浮き彫りとなった。
一方で、社会保険未加入や法定福利費の見積記載方法など、制度面に関する問い合わせも多数寄せられており、建設業界における労働環境の適正化に対する関心の高まりもうかがえる。
建設Gメン調査が始動
24年度からは新たに「建設Gメン」による実地調査を開始した。法改正を受けて国土交通省が24年から各地方整備局での体制を整えた建設Gメンは、建設工事に関する取引において、「適正な請負代金」「適正な工期設定」「適切な価格転嫁」での契約締結がなされるよう、請負契約の適正化および建設工事に従事する者の適正な処遇の確保を図るために、各種情報収集を通じて取引状況の監視強化に取り組んでいくもの。九地整は24年度、調査対象となった84社(大臣許可業者42社、知事許可業者41社、その他1社)に対し、請負代金の妥当性や契約書の記載内容など、取引の適正性について重点的に調査した。
また、建設Gメン調査とは別に九地整は、46社(大臣許可業者44社、知事許可業者2社)への立入検査等も実施。その結果、見積依頼での不適切な行為や、見積依頼書や契約関係書類の記載内容の不備などの不適切な行為が発覚したものに対しては、指導・監督が行われた。
24年度の監督処分・勧告の実施状況については、「欠格要件に該当」によって1社に対して建設業許可の取り消しが行われたほか、「労働安全衛生法違反」および「営業所専任技術者配置不備」によって、2社に対して指示処分が行われた。また、建設Gメン調査によって、55社に対して文書指導が実施された。
25年度は「取引の適正化」
25年度は、さらなる法令遵守の徹底と、取引の透明性確保を図る年となる。公表された建設業法令遵守推進本部の25年度の活動方針では、とくに建設Gメンによる実地調査の強化が柱となっており、書面調査を通じて把握した疑義情報や、「駆け込みホットライン」などに寄せられた通報を活用して、違反の疑いのあるものから優先的に実地調査を行っていくとしている。調査では、国の基準を下回るような労務費設定や、下請への不当な消費税減額、指値発注などを重点的に確認。また、資材価格の高騰時における価格交渉の適正化もチェックし、公正取引委員会との連携を図っていく。
労働環境面では、時間外労働規制の遵守や週休2日制度の導入支援を含めた「適正工期」の設定についても、労働基準監督署との連携を強化。さらに、請負代金の現金払い推進や長期手形の排除など、資金繰り支援の観点からも業界の健全化を後押ししていく。
相談通報窓口への通報内容や建設Gメン調査結果を活用し、営業実態に疑義のある業者を対象とした立入検査も引き続き実施する。また、毎年10月から12月の3カ月間を「建設業取引適正化推進期間」と定めており、この期間に講習会の開催をはじめ、取引適正化に向けた普及啓発に関する活動などを重点的に実施する計画。講習会では、新規許可業者向けの法令遵守ガイドラインや、建設キャリアアップシステム、建退共制度(建設業退職金共済制度)の導入促進も重点テーマとして扱い、技能労働者の処遇改善と定着促進を図っていく。
関係機関と連携
今後の取り組みでは、労働局や労働基準監督署と連携し、週休2日の導入支援や賃金問題への対応を強化。合わせて、公正取引委員会との情報共有体制を強化し、不当な下請取引の是正を目指していく。とくに元請に対しては、一人親方との契約書提出や、施工体制台帳の作成義務についても厳格な指導がなされる見通しである。さらに、資源有効利用促進法の省令改正に対応し、建設発生土の適正管理についての周知も進める方針だ。
九地整・建設業法令遵守推進本部の取り組みは、建設業界の不公正取引や法令違反を是正し、公正かつ健全な市場の形成を目指すものである。そのため、個人事業主や小規模業者の声を丁寧に拾い上げつつ、行政・関係機関・団体が一体となって業界構造の改善を進めていく姿勢が明確になっている。25年度の施策が実効性をともない、建設業界の信頼回復と人材確保、さらには持続的な産業基盤の整備につながっていくか、それが問われる1年となる。
【内山義之】

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